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商い物
4

それから水上と同じく3日後の朝に土屋も運ばれてきた。
ただ水上と違って暴力を振るわれたのかなんなのか、傷があちらこちらにできていた。
沈鬱な空気のままに今度は火野が連れて行かれた。



俺は傷に触れると暴れる土屋の世話を主にするようになった。
もちろん俺自身も無傷ではいられなかったけれど、こいつが受けたことに比べればマシなのかもしれない。
…とは言っても、宵月様の庵で何が起こっているのかはわからないから、2人が100%悪いのかもわからないが。



「なぁ、土屋…中で何があったんだよ?壊れるくらい怖いことがあるのか?酷いことされたのか?…少しでもいいから良くなれよ。」



暴れるだけ暴れて、眠りについた土屋にそう言って水上の部屋へ行く。
水上も相変わらず、抜け殻の人形のような状態だ。
ただ、時々手を握ってくるようになった。
ほんの僅かにだけど、回復している…と思いたい。



残った風谷と稲妻は、最初の頃より一層大人しくなって、5人で集まってきゃいきゃい騒いでた時の面影はない。
時折、2人で一緒にいることは見るが、一度として笑い合ってる姿は見なかった。
そして、時々物言いたげに俺の方を見る。
2人なりに水上と土屋のことを気にかけているんだろう。



それが見当違いだと気がついたのは、襲われかけてからだった。
男に…しかも綺麗系と可愛い系の2人に押し倒されるとは思わなかった。



「花総の血も流れてないくせに…僕らより達観してるとか気に入らない。」

「君が真っ先に壊れるべきだったんじゃないの?」



精神不安な状態からくるもの、だと思っておこう。



「本当…いらつく。水上と土屋の世話してそれで何がしたいのさ?あいつらが戻ることなんて、ないっ!!」



意外と力はあるのか、ボタンが弾け飛んだシャツに溜息を吐く。
暗い目をした2人は、びくりと震えた。
こいつらはきっと、恐怖といつか来る仮婚姻の儀に怯えておかしくなってるだけだ。
だからと言って、男に組み敷かれたくはない。



「…怖い。」

「「は?」」



俺が見せる平常運転の姿が気にくわないのだろう。
ならば、俺の心に溜め込んでることを吐露してしまえばいい。



「お前らだけが怖いと思うなよ。俺だって最後は宵月様のところへ行かなきゃならないんだ。」



あれから1週間経ったとはいえ、気持ちの整理などつくはずもなかった。
院長先生に迷惑かけたくないから、鷹司家に来るしかなかった。
院長先生のところでやりたかったことも沢山ある。
壊れたくなんか、ない。
覚悟なんてそう簡単にできるものじゃないんだ。



「好きでもない、まして赤の他人の俺がなんで巻き込まれなきゃなんないんだよ。理不尽だろ。けど、どうしようもない。どうしようもないんだよっ!!」



世の中の理不尽なんていくらでもある。
覆せることもあるけど、覆せないことだって…。
覆せないなら慣れて順応していくしかない。
その中で足掻くだけ足掻くんだ。
順応する事は諦めることじゃない。



「お前ら、知らないだろ?水上は少しだけど…反応を返してくれるようになったんだ。完全回復するにはまだまだ遠いけど、回復しないわけじゃない。生きている限り可能性はいくらだってあるんだよ。」

「ほん、とに…?」

「あぁ。」

「そうなん、だ…」



押さえつけてた4本の腕が緩んだから体を起き上がらせる。
そっと、はだけたシャツを合わせていると、風谷が縋るように手を伸ばしてきた。



「ねぇ…お願い。」



俯かせた顔を上げずに、掴んだ手はそのままお願い、と震えた声で言う。



「もし、僕が壊れたら…君に面倒を見て欲しい。」

「は?」

「我儘だってわかってる!でも、君にお願いしたいんだよっ!!」



バッと上げた顔は真剣で、それでいて今にも泣き出しそうな表情だった。



「はぁ…なんだ、お前自分が我儘だってちゃんとわかってたのかよ。タチ悪いな…」

「なっ!そ、それは…その、ごめん。」

「いいよ。」

「え?」

「面倒、見ればいいんだろ?」

「いいのか?」

「あぁ。」

「ありがと…ありがとう…っ!」

「第一壊れるかなんて決まってないからな。ちゃんと1週間後に帰ってこいよ?って、おわっ!?」



なぜか抱きつかれて、さらに泣きつかれた。
仕方ないから孤児院の年下の子たちにしてたように頭をポンポンと撫でた。



「は、花総…」

「なんだ、稲妻?」

「明日、から…僕も一緒に2人の世話をしてもいいか?」



意外な言葉に少し驚いた。
まぁ、でも反対する理由はないし、俺以外との交流もあった方がいいだろう。



「きっと水上たちも喜ぶよ。」



空いてる方の手で、稲妻の頭もポンポンと撫でた。



「なっ!何すんだよっ!!」



パシリと叩かれてしまったが…。
照れ隠しでそういうことをする孤児院の子もいたなぁ…。
気が強いくて負けず嫌いなのに、よく陰で泣いてた。
慰めたり、褒めたりすると必ず手を叩かれた記憶が懐かしい。



こんな事になってしまったけれど、少しだけ遠かった距離が縮んだ気がした。
それがちょっと嬉しかったんだ。


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あきゅろす。
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