[携帯モード] [URL送信]

商い物
壱夜・捨テ犬拾イ +

仮想地区、東都の一角に【葦原】とよばれる色街がある。
私はそこに一軒の見世を構えている。
一夜限りの恋を求めて来る、女も男も相手にする妓楼で【黒椿】という。
訪れる性別の割合的は男性4割、女性6割といったところか。
それもこれも品揃えが良いからだろう。
目玉の春嵐は男性も女性も虜にする傾城の美形だし、他の子たちも美しい。
ちなみに、私の見世は男娼のみだ。
少し前までは女性もいたんだけれど、傾城がいるせいか惚れた腫れたの恋の三文芝居を繰り広げること複数回。
女性を雇うのはやめた。
商売になりゃしないんでね。



「さぁさぁ見てっておくれ!!世にも恐ろしい生き物がいるよ!目玉は鬼の子だよ!」



ここ葦原には、色街でしか暮らせない遊女や男娼のために娯楽を提供するための広場がある。
旅商人や映画、移動飯屋などいろいろが集まっていてなかなかに面白い区画だ。
今回は新しく見世物小屋が来ているらしい。
見世物小屋では、上手くすると商品として見世物にされてる人間を買い取ることができる。
胸糞悪いことこのうえないが、掘り出し物を見つけるには良い場所なのだ。
私の所にいる朧という男娼もそうして手に入れた。
月から降りてきたのかと思うような、月の色の髪がとても美しく、優しい歌声はこの色街でも評判だ。



大人1人分の見世物料金を払うと、控え目に言っても小綺麗ではない臭いそうな男が不意に私の腰辺りへ手を伸ばしてきた。
女顔であることは自覚しているが、品性の欠片もないことで…。



「お、姉ちゃんべっぴんさんだね!どこの遊女だい?後で遊びに行くから教えておくれよ。」

「ふふ…悪いが私は売り物ではないんでね。ついでに言うと、あんたに負けないイチモツがついてるよ。」



この下種が。
案の定、私の事を女だと思い尻を撫でてきた手をパシリと叩く。
あんぐりしてる下種を横目に暗幕をくぐった。



この見世物小屋は、あまり良い感じがしない。
鬼気迫る表情で必死に舞台上で芸をしてる者ばかりで、生気が感じられなかった。
空中ブランコに座る双子。
ナイフ投げをする4本腕の男。
蛇を操りながらストリップショーをする片足の女。
そして最後、ガラガラと檻が運ばれてきた。



「皆様お待ちかね!最後の見世物は世にも珍しい鬼の子だよ!!」



檻を覆っていた布がバッと取られると、そこには手足を拘束され、首輪をつけられた小柄な鬼子がいた。
ぐったりうなだれているのに気がついた見世物小屋の主でもある下種が、ステッキ状の電気棒で小突いた。
瞬間的に電気が走り、びくりと反応した鬼子はのろのろと顔を上げた。



色素を持たずに生まれる人、鬼子。
真っ白な髪と、異様に白い肌、そしてぶつかった緋色の目。
久しく欲など感じなかった私だが、胸のあたりにどろりとした感情と、現金なことにズグリと下半身が重くなった。
薄汚れていても、見た目が奇異なものでも、彼の目はとても美しかった。
ふい、とそらされた目は縋るような色と諦め悲しみの色が混ざっていた。
あの目を喜びで満たしてみたいものだ。



鬼子はジャラリと鎖を一つ鳴らすと、自分を守るかのように体を小さく縮こめた。
それを見た下種が、また電気棒で小突く。



「あぁっ!!」



声変わり前の少年の高い悲鳴が上がった。



「こら、よく見てもらうんだ!」



それからも何度も何度もいたずらに電気棒で小突かれ最後は痙攣を起こしながら気絶した。
本当に胸糞の悪い見世物小屋だ。



見世物が終わったので、小屋から出るとあの場に立ち込めていた悪い空気を体の中からも出してしまおうと深く息をした。
白い美しい鬼子の少年。
あの子は下種の手に入るべきではない。
もっと愛でられるべきなのだ。
私の欲すら掻立てる子だ。
きっとうちの子達にも愛されるだろう。
あの区画の滞在期間は5日。
それまでに手に入れたいものだ…。



私は舌なめずりをした。
ここから出してなるものか…。


[*前へ][次へ#]

3/6ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!