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商い物
2

宵月様専用の別棟もとい供物殿で生活が始まって2週間。
非っ常にまずいことになってます。
本来なら3週間目にあたる今日は、3人目が宵月様と一緒に生活するところなんだけどさ…。
もう、実は5人目の人が一緒に生活してんだよね。



ははは…笑い事じゃない!



「どうなってんだよ…。」



まぁ、どうもこうも、宵月様がことごとく拒絶してるんだけど。



遡ること2週間前。
仮婚姻の儀が終わってから、残った4人と俺は供物殿でこれという不自由もなく生活していた。
4人は宵月様のことできゃいきゃいとはしゃいでいたり、語り合ったりしていたが、そこに馴染めない俺は許された自由の中で供物殿を探検してみたり、気まぐれに庭の手入れをしてみたりとのんびりしていた。
あ、唯一俺の作ったお菓子だけはみんな美味しそうに食べてくれたっけ?
あとあれだ、4人の世話をしていた。
供物殿は入り口を見張る人以外に中には誰もいないから、基本的な生活は自分でやるしかなかった。
んで、馴染めない俺はやることも特にないので、掃除やら洗濯、料理をしていたらいつの間にか小間使のように使われるようになってた。
孤児院にいた時の感覚と似てたから、別に苦じゃなかったけど。
強いて言うなら、やつらには可愛げがないことくらいか。
さもそれが当たり前だ、という風なんだよ腹立つなぁ…。
親しき仲にも礼儀ありという言葉を知らんのか!
親しくないならなおさらだろ。



まぁ、そんな感じで何事もなく3日目の夜は更けたんだ。
けど、上手くやってんだろうなぁって思っていた次の朝だよ。
まるで魂が抜けたような水上が、宵月様側の入り口を見張る人に担がれて供物殿に来たのは…。



「誰か手をお貸しください!!」



それにすぐ反応したのは俺だけで、他の4人は目ん玉落っこちるんじゃないかってくらい見開いて、カタカタ震えてた。



「これ、どういうことですか?」

「喰われたんですよ。」



はい?
ごめん、ちょっと意味わからない。



「あなたは…」

「あ、俺は花総です。花総宗輔。」

「あぁ花総家の…。」



2人して空いていた部屋に水上を運び、布団を引いたり、着替えさせたりと世話をした。



「お手を煩わせてしまい申し訳ありません、花総様。」

「いえいえ、供物殿には人がいないですから。」

「供物殿?」

「あー、俺が勝手につけたこの棟の呼び名です。宵月様に贈られたものがここに全部あるなら、供物殿にかわりないでしょう?」

「なるほど。あぁ、そうだ。私は医師を呼んでまいりますので、しばらく水上様を見ていてくださいませんか?」

「いいですよ。」

「申し訳ありません。では…」



見張りの人が部屋を出て行き、しばらくしてから医者が来た。
そして俺たち5人は供物殿の広間に集められた。
女中が2人と鷹司家当主がいた。



「水上は宵月様には選ばれなかった。よって、水上の婚姻は破棄とする。本来ならまだ水上の仮婚姻期間であるが、早めて第二の位の土屋の仮婚姻を結ぶ。良き妻となれ。」



当主はそれだけ言うと、右の女中に土屋を宵月様のいる棟へ連れて行くよう指示し、左の女中に水上の世話をするように言った。
でも、それだけじゃ不十分じゃないか?
だから…



「当主様、」

「花総家の者か…。何か?」

「説明はしてくださらないのですか?」

「説明とは?」

「なぜ、水上はあんな風になってしまったのか。」

「それを知って何になる。お前たちは既に宵月様の【物】であり、逃げるなんてことは出来ないし、帰る家もないが?」

「わかっています。ですが、教えて欲しいのです。…これからのことを覚悟するためにも。」



漠然とした不安や嫌な予感はあった。
けれど、それがどういう形でもたらされるのかは知らなかった。
水上が廃人となって戻ってきたことで、俺は宵月様に選ばれなかった結果を知った。
でも、それだけではダメなんだ。
宵月様といずれは暮らさなければならない。
それなのに、理由もわからないままにこうした形を見ることで恐怖心を持ってしまったら、もう嫁ぐことは出来ない。
本当に供物の様なものになってしまう。
その時の気分はドナドナだろ?
それじゃ、ダメなんだ。


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あきゅろす。
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