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商い物
嫁ぎます(仮)

夜が明けて、起きるとまずは体を清めるとのことでお風呂に連れてかれた。
昨夜のうちにまとめた荷物は今頃運ばれているところだろう。
書いた手紙は、掃除されれば気づかれるような場所に置いておいた。
行方など知らないけれど、できれば最後の俺の言葉を伝えて欲しい…。



「衣装の準備が出来ました。」

「はーい…」



体をきれいにして、のんびり湯船に浸かって院長先生に飛ばしてた思考を引き戻される。
ざぱりと上がって、脱衣所に戻れば恥ずかしがる間もなくてきぱきと女中さんに体を拭かれ、シュルシュルと衣装を着せられていく。
ねぇ、俺これでも思春期の男の子なんですけども…。



着せられた衣装は巫女さんのような服。
ただし、色は上下共に白で飾り紐の類が朱色だった。
それから別の部屋に連れて行かれて、最低限の化粧と口紅を塗られる。
そこには他の5人もいたけど…あぁ、うん。
御察しの通りだね。
女の子かと思ったよ…。
鏡を見ればなんとも見慣れた顔で、本当にこんなのが嫁いで大丈夫か?と自問してしまった。



身嗜みが整うと、さらに別の部屋に連れて行かれた。
そこには作法の先生がいた。
…最後の授業だろうか?



「本日は誠におめでとうございます。今日の婚姻の儀をもって、皆様は宵月様の伴侶となられます。…が」



そこで下げていた頭を上げる先生。
雰囲気がなんか怖い。



「本日の婚姻の儀は、あくまでも形式上のもの。これより1週間ずつ、一の位の家系である水上様から順番に宵月様と暮らしていただきます。それが仮婚姻の儀となります。」



また厄介な…。



「仮婚姻の儀が済みましたら、宵月様から伴侶の誓いを受け正妻となります。」



色めき立つ5人。
俺としては、正妻だのなんだのはどうでも良い話なので、まだ先のありそうな先生の言葉を待つ。



「…しかし、未だかつて【鬼憑き】の正妻となられた方はおりません。」

「どういうこと?」



水上が声を上げる。



「伴侶の誓いを受けた者がいない、という事です。仮婚姻の儀は1週間ずつですが、宵月様が拒絶した場合や、万が一何かあった場合は、早まる事もありますのでご承知ください。」



聞いてないよー。
すっごくヤバそうな匂いがプンプンするのは俺の気のせいじゃないと思うんだよね!?
万が一って何よ!?
最後に怖い落とし土産をくれた先生は、それでは…と立ち去り、先生いわく形式上の婚姻の儀が始まった。



広間に案内され、作法通りに中に入っていく。
誰もいない上座にはきっと宵月様とやらが座るのだろう。
そこから両サイドに3人と4人。
鷹司家当主と六家の当主だ。
あ、花総家当主についてはチラリと睨んどいた。
ちょっとビクついてて、心の中でざまみろと舌を出す。
俺が一番下手に座すとシャン…シャン…と鈴の音がした。
すらっと上座の襖が開いて、正装した男が入ってきた。
一瞬作法も忘れて魅入ってしまうが、すぐ気を取り直して頭を下げた。



まだ心臓がドクドク鳴っている。
世の中にあんなにきれいな人がいるとは思わなかった。
真っ黒の艶やかな長い髪をゆうるりと結い、和装に包まれた体はスラリと背が高い。
白い肌は閉じ込められてるせいだろう。
紅い唇に、すっとした高い鼻。
涼やかな目は全てお見通しだとでもいうかのごとく、見る者を貫いてしまう。
それでいて、どこか現実離れしているのだ。
本当にあれが人間なのか、と疑いたくなるくらいの美貌だった。



「宵月様、本日は十八の祝い、誠におめでとうございます。」



当主が儀式を進め、その間中ずっと平伏したままの俺たち。
結構つらいんだけど、作法なので仕方ない。
顔上げる許可もらってないからな。



「…今年はこちらのものをお送りさせていただきます。さぁ、顔を見せなさい。」



その言葉にゆっくり体を起こし、宵月様と対面する。
5人が全員落ちたな、ってすぐわかった。
俺は元々男同士でどうこうなんて考えてないから、見惚れはするけどそれ以上にはならなかった。
熱い眼差しを向けられているであろう宵月様はというと…。



「お気に召しましたでしょうか?」

「それらで構わないよ。」



とてもつまらなさそうな…無感情な目でそれだけ言うとにこりともせず立ち上がり部屋から出て行った。



「…で、ではこれにて婚姻の儀を結ぶ。」



これでどうやら儀式は終わりらしい。
水上からまた順に作法に従って広間を出れば、今度は2人の女中がやってきて、水上を宵月様の住む屋敷の奥へ連れて行き、残った俺含め5人はその近くにある別の建物へと案内された。
話によると、宵月様に献上されたものが全ておいてある棟だそうだ。
…供物殿ってところか。



さてはて、俺の番まで順番通りだったら約1ヶ月半…。
何してようかと、すでに別のことに頭の中を移していた。


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