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商い物
2

オレは時々1人で散歩をする。
ゼス様は、人と会う時だけオレを置いていくからその時はオレだけの時間だ。



今日は魔王城裏にある湖畔の庭でまったり。
オレがここに来る前、想像していた魔王城を囲む自然のイメージはジメッとして暗くていかにもなものだったけど、全然違ったことを知った。
鮮やかな緑と色とりどりの花。
豊かな大自然だ。
こちらの世界の環境指標になってる妖精がいるからかもしれない。



「ん〜…気持ちいい…」



ゼス様のそばにいるのは安心できるけど、四六時中じゃやっぱり息がつまる。
ちょっと寂しいとか思ったりもするけど、今はひと時の1人の時間を堪能しよう…。
柔らかで暖かな日差しに、自然とまぶたがゆるゆる下がった。



「………よ…」

「………だわ!」

「…きる……しら?」

「「「あ!目が開いた!!」」」



いくつもの小さな可愛い声に目を開けてみれば、妖精たちがオレの顔を覗き込んでいた。



「おは、よう?」

「おはよう、寝坊助さん。」

「よく眠れたかしら?」

「あら?魔王陛下は寝かせてくれないの?寝不足?」



のそりと体を起こし、一つ伸びをする。
ゼス様に誰かと話すことは禁じられていないし、まぁ、おしゃべりしても大丈夫だろう。



「寝不足でもないのによく眠れたよ。ここはとても気持ち良いね…。」

「あら!嬉しい!!」

「聞いた聞いた?」

「私たちの自慢の住処を褒めてくれるなんて!!」



きゃいきゃいとはしゃぐ妖精は、とっても可愛らしい。
人間側にいた時は浮かべることもなかった笑顔に自然とさせてくれる。



「笑うと可愛いのね!」

「甘い香りも立ち込めるわ!」

「まるでハチミツのようだわ!」



すんすんと香りを嗅ぎながら、甘えるように擦り寄る妖精たち。
くすぐったいやらなんやら…。



「ハチミツの甘い香り…人間の匂いは好きじゃないって前聞いたことあるけど?」

「人間の強欲な匂いのことよ!」

「臭いったらありゃしないわ…」

「煮ても焼いても食えない、ってまさにあのことだわ!」



オレたち人間にはわからないけど、空気中の精気を食べ物とする魔族には、感情の香りを嗅ぐことができる。
色として目にすることができる者は人間にもいるらしいけど…。



「あ、でもね!1つだけ闇の精霊なら好む欲の香りがあるわ!」

「私たちの口には合わないんだけどね。」

「あの妖精たちは偏食なのよ。」

「どんな欲なの?」



すると妖精たちは顔を見合わせてから…



「「「誰かを好きになった時に生まれる欲」」」



重なった声にゾクッとした。



「愛情深ければ深いほど濃いんだって!!」

「遠くで嗅ぐ分には甘いんだけどね…」

「甘ったるすぎる上に苦いから私たちにはダメね。」

「へ〜え」

「あら、そろそろ魔王陛下のお戻りよ!」

「今日はこの辺でね、陛下の宝物さん。」

「また私たちの住処に遊びに来てね!」



ガサリと背後で音がすると同時に妖精たちは消えてしまった。
本当に賑やかな子達だ。
振り返るとゼス様がいた。



「ゼス様…」

「何をしていた?」

「妖精たちとお話を…。ここの庭がきれいな理由なんですよね。」

「気に入ったか?」

「はい。」



そう答えると、彼は座る俺の頭をくしゃりと撫でた。
その感触が気持ち良くて、ちょっと自分からも甘えてみた。
少しなら…少しくらいならいいでしょう?オレはあなたのものなんだから。



「ゼス様…」

「ん?」

「お帰りなさい。」



ピタリと止まる手の動きに、はて?と見上げると急に抱き上げられた。
首と足に付けられた鈴が鳴る。



「…ただいま、カナメ。」



この日、オレは初めてゼス様の柔らかな笑みを見た気がする。
オレもつられて笑った。


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あきゅろす。
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