「………へ?」 「違ったかい?違ったなら、ひどく失礼なことを言ったよ。謝罪する」 「え、いや、ちょっと待ってよ。俺、そんなこと冴木に言ったっけ?え、なんでそんなこと、冴木は思うの」 「なんでって…」 ーーーそんなの、キミを見てればわかるだろ。 至極、当然のように言い切った冴木は、やっぱり天下のI.D.E.A社長で、俺たち館メンバーのリーダーなのだと、そのとき俺は不意に思い知った。 「…そっか…バレてたか…」 「バレバレだよ。まぁ、もっとも、彼に好感を持ってたのは、カリン一人、だけだったかも、しれないけどね」 「…んー…そうだねぇ…」 思い出せるのは、館での狩野先生の姿。 血溜まりの中響いた、無邪気な笑い声。 猟奇的な瞳に、ざわついた悪寒。 狩野朱希は得体が知れない。 底が見えない…とでも言うべきか。彼自身を測ることが出来ないから、俺は見定めるように、彼との距離を置いていた。 そうして出来た距離が、見事に昨日の結果だ。 声を掛けても、名前を呼んでも、 振り向いて貰えない。 「人って、難しいね」 「…そうだね」 「俺は、俺が難しいよ」 「それは僕も、同じだよ」 「そっか…」 綺麗な嘘を吐くには 俺はまだ痛みを知らな過ぎて 誰かを擁護するには 俺は偽善的過ぎた そうして俺は、 また自分自身に言い訳をつくんだ。 だってまだ、俺は俺を大事にしたい。 そう思うんだよ。 「なんで急に」 冴木の視線は、俺じゃない何処かへ向けられていた。 「なんで急に、一人で狩野くんに会いに行ったんだい?」 それはまるで、俺を責めるような響きを持っているくせ、苦しくって仕方がないような、苦味を伴って、俺の中に入って来た。 「大した話じゃ、ないんだよ」 苦味を、伴った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |