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03



「………へ?」

「違ったかい?違ったなら、ひどく失礼なことを言ったよ。謝罪する」

「え、いや、ちょっと待ってよ。俺、そんなこと冴木に言ったっけ?え、なんでそんなこと、冴木は思うの」

「なんでって…」


ーーーそんなの、キミを見てればわかるだろ。


至極、当然のように言い切った冴木は、やっぱり天下のI.D.E.A社長で、俺たち館メンバーのリーダーなのだと、そのとき俺は不意に思い知った。


「…そっか…バレてたか…」

「バレバレだよ。まぁ、もっとも、彼に好感を持ってたのは、カリン一人、だけだったかも、しれないけどね」

「…んー…そうだねぇ…」


思い出せるのは、館での狩野先生の姿。
血溜まりの中響いた、無邪気な笑い声。
猟奇的な瞳に、ざわついた悪寒。

狩野朱希は得体が知れない。
底が見えない…とでも言うべきか。彼自身を測ることが出来ないから、俺は見定めるように、彼との距離を置いていた。
そうして出来た距離が、見事に昨日の結果だ。
声を掛けても、名前を呼んでも、

振り向いて貰えない。


「人って、難しいね」

「…そうだね」

「俺は、俺が難しいよ」

「それは僕も、同じだよ」

「そっか…」


綺麗な嘘を吐くには
俺はまだ痛みを知らな過ぎて
誰かを擁護するには
俺は偽善的過ぎた

そうして俺は、
また自分自身に言い訳をつくんだ。
だってまだ、俺は俺を大事にしたい。
そう思うんだよ。



「なんで急に」



冴木の視線は、俺じゃない何処かへ向けられていた。



「なんで急に、一人で狩野くんに会いに行ったんだい?」




それはまるで、俺を責めるような響きを持っているくせ、苦しくって仕方がないような、苦味を伴って、俺の中に入って来た。



「大した話じゃ、ないんだよ」



苦味を、伴った。




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