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うみねこ二次(短編)
(ウィル)戦うことの真実
EP7ラストら辺のアナザーストーリーです




全く、いったい俺はどうしちまったんだ。
理御を逃がした後、俺はこの劇場に残り今、ベルンカステルと対峙している。
眼前に迫る黒猫を前に、黒剣を握るこの手は恐怖ではなく、喜びによって震えている。
「右代宮、理御か…」
ダイアナ以外に、俺の心を動かす奴がいるだなんて思わなかった。心を大切にする探偵は、自身の心によって推理を左右されてはならない。
容疑者と自分、互いの心が干渉をすれば、そこに真実は現れなくなり、己の心が望んだ虚像の真実しか目に入らなくなる。
「だから俺は、深くは触れねぇ、考えねぇ。相手との心の距離を心配し、頭痛になる」
頭痛にならぁ、そしてそれはいつの間にか俺の口癖になったのだ。
だが、あいつだけは違う。いつもは疑うことしかしない容疑者でなく、あいつは共に推理するという仲間として隣に立ったから、心を許してしまったのかもしれない。
「心を許すだなんてそんなこと、するつもり無かったんだがな…あぁめんどくせぇ、頭痛になならぁ」
だから、それを終わらせるためにだろうか。内心では勝てぬと分かっているベルンカステルを前に大見得切って立ち塞がったのは。
「いや、違うな」
そんな理由で俺は自殺志願者になどなりはしない。腐っても俺は、自分の心のために身を滅ぼすなどありえないことだ。
理由はただ一つ。

「理御が、俺の助けを呼んだからだ」

瞬間、ついに黒猫は動き出す。最早俺の勘定出来る数字などとうに超越した数が山盛りになっている。
それが雪崩のように襲いかかってくるのを、俺は渾身を込め黒剣を振り抜く。そして切り裂く。
「あんた、本当に勝てるつもりなの?」
うるせぇよ。山のような黒猫の奥で腹が立つような笑顔で言い放つベルンカステルに、そう内心で返してやる。
口を動かすよりも手を、刃を止めれば次の瞬間には俺の体は黒猫共の爪でズタズタだ。
「引っ掻かれるのはダイアナ一人で充分だ。俺は浮気はしないんで…な!」
更に横に一閃。爆風を伴った斬撃が黒猫共をまとめて吹き飛ばす。だが
「勝てるわけないじゃない」
「しまっ!?」
その爆風に触れなかった黒猫が一匹だけ、止まらず降りかかってくる。
黒剣は既に振り切っている。切り返すよりも先に奴の爪が俺の肩を切り落とす方が早い。
戦闘は慣れているはずだというのに、その瞬間だけは思わず目を瞑ってしまった。
キシャーーー!!吠えるような黒猫の鳴き声が間近で耳を刺激し、次の瞬間、肉を断つ音が響き渡る。
「ぐあぁっ!!?」
俺は思わず片腕を抑え呻き声、いや悲鳴をあげる…が
「……あ?」
抑える片腕に、痛みは無い。触れている片腕は確かに繋がっている。
だが、肉を断つ音が確かに俺の耳には届いた。では何が…
「…ウィ…ル……」
「…………っ!?」
痛みの代わりに、眼前で聞こえた声にようやく目を再び開くと、そこには…腕に爪が突き立てられながらも、俺を庇う理御がいた。
「お前…逃げろって言ったはずだぞ……!!」
その予想外の人物に、俺としたことが戸惑いによって情けない声で話す。
だがそんなことよりも、何故こいつがここにいるのだ。
「だって…やっぱりウィル一人を残すなんて出来ませんよ…」
俺の問いかけに振り向く理御は、痛みに耐えているのだろう。顔中汗を流しながらも、それでも俺に笑みを見せる。
俺は即座に黒剣を握り直すと痛みの元である黒猫を両断する。ぼとりという胸の悪くなる音がするがそんなものよりも、理御の傷を見る。
「私は…決めたんです。自分の運命を諦めない。だけど、逃げることも、引くこともしません。私は」
視線を、キッとベルンカステルに向ける。
「共に戦う相棒を救うために、この場に残り戦います!」
そこには、華奢な外形とは全く違う、右代宮当主のような威厳に満ちていた。
そして、傷ついていないもう片方の腕で、黒剣を握る。俺の握る手に重ねるように。
「……うぇ、くだらない茶番見せんじゃないわよ。胸焼け通り越して虫酸が走るわ」
苛立った様子でベルンカステルは指を弾く。すると今いる黒猫は一回り巨大に。そして更に数を増やす。
もう、一匹一匹が鳴く声はライオンの雄叫びのようだ。
この状況…誰が見ても結果は明白である。こうならぬために俺は理御を逃がしたのに、その理御はと言えば自信に満ちた顔でこちらを見てきやがる。
あぁめんどくさい、また頭痛にならぁ。だが、しょうがねぇ。
「切り裂いてやるよ。全部。この黒剣と二十の楔が、てめぇら全員化けの皮を剥いでやる!…理御」
「…はい」
互いに剣を握る手から伝わる温もりで存在を確かめ合う。
そして、互いに顔を見合わせると。
「……んっ…」
傍に居続けることを誓うかのように、どちらからと言わず口付けを交わす。
「「さぁ、俺達のハッピーエンドを見つけるぞ!!」



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