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うみねこ二次(短編)
(ドラノール)水面の真実
「コーネリア、そちらにある資料のレポートはまだデスカ?」
アイゼルネ・ユングフラウ本部。異端審問官『死刑宣告』ドラノール・A・ノックスの書斎。
「は、はい!えっとこちらの…ありました『デモンズ・ライブラリ』の解析レポートですね。何項ですか?」
「第三項『人間かぶれ』についてデス。後、今はまだ勤務中デス。口調が緩んでマスよ」
コーネリアは慌てて口元を抑える。元々の彼女達も異端審問官とはいえただの仕事人だ。職務以外では普通の言葉で話すのだ。
分厚い紙束を抱えるとよたよたしながらもドラノールの机の上に置く。
ドサッ、という音と共に机が若干振動する。瞬間。
「ムッ」
ドラノールの視線が机の上のある一点に定まり、目を細める。
何事かとコーネリアもその視線を追うが、その先には波紋一つ作らぬ珈琲のカップがあるのみだ。
いったい何に反応したのかと疑問を浮かべた瞬間、コーネリアの目の前でドラノールは赤鍵を抜く。
「…!?」
「誰デスか?」
ある一点を見つめ短くドラノールは告げる。まったくの中空であるはずの位置に対して、ドラノールは警告の意を込めて赤鍵を突き出す。突然の出来事に絶句し固まるコーネリアの隣、赤鍵が向けられた先で、何もない虚空から奇妙な引き笑いが発せられる。
「ここはアイゼルネ・ユングフラウ。全ての悪の魔法ヲ断罪し、全ての罪を浄化する地デス。そこに踏み入ったカラには、滅せられる覚悟は出来ているのでしょうな?」
そう、問い詰めるドラノールの言葉が言い終わるかどうかというタイミングで、向けていた赤鍵が急に弾かれたようにそっぽを向く。
だがそれに対し表情を微動だにせずに、その視線だけを一心にドラノールは見つめる。
するとだ、初めは全く見えなかったモノが、段々とボヤけながらも現れ次第に形作っていく。
それは人の形を作り、同時に作られていく揺り椅子に座っている。
「我を捉えるか。久方の魔法だがそなた程度にバレるつもりは無かったぞ?答えよ、何故に分かった」
「観劇の魔女…」
完全に姿を表した時、そこにイたのは異端審問官ならば知らぬ者はいないほどに名の知れた仇敵。大魔女フェザリーヌ・アウグストゥス・アウローラが椅子に鎮座していた。
歴戦の勇士であるドラノールならば、その偉大なる魔女の前であっても決して引くことは無かった。わずかに表情を曇らせるが、その眼光はすぐに元に戻る。
「じ、上司ドラノール…!!」
だが、新米であるコーネリアはそうはいかなかった。連続する突然は、彼女を完全に行動不能にまで陥らせるには充分であった。
涙目を浮かべ救いを求めるコーネリアの白い肌、その頬の部分にフェザリーヌはするりと伸ばすと、顎下へと撫でるように落ちる。
「っひ…!?」
「初いのぉ…そなたのようなヒヨコで、天下のアイゼルネ・ユングフラウが勤まるのかや?」 瞬間、爆発音のようなものが響くと同時、コーネリアの瞬きの間にはドラノールが割り込みフェザリーヌと相対していた。
「あなたの相手は私デス。彼女に触れるコトは、私が許しませン」
赤鍵を握る手とは反対の手に青剣が握られている。『死刑宣告のドラノール』の主装備がこれで揃った。
正直に言ってしまえば、このように振る舞うドラノールですら実力の差など理解している。
現在のアイゼルネ・ユングフラウ、いや異端審問官達の中にフェザリーヌほどの魔女と対等に渡り合える者はいないのだ。
だがドラノールはその性格上、そして立場から、たとえ負ける運命であっても立ち向かうのだ。
「アナタこそ、ここには何ヲしに来たのデスか。我々は未だかつてアナタには干渉はしていないはずデス」
「我はいつも退屈なのだ。故にそれを凌げるものを求めるのだ」
会話が噛み合ってないように感じるが、要は暇つぶしで来たのだとドラノールは解釈する。
だが、暇つぶしなどでアイゼルネ・ユングフラウ本部に魔女が来られてはドラノールには困る。それは他の異端審問官に知れれば絶対的な確率で士気に影響するだろう。
故にドラノールはこの魔女をいったいどのようにして追い出すかと思考する。だが
「まぁ良い、初めて異端審問官の住む地を見学出来たのだし今日はこれで席を外そう」
床を横に蹴ると、揺り椅子はくるりと百八十度回転する。背中しか見えぬフェザリーヌは片手を上げるとひらひらと振り、消えていった。
彼女無き後、わずかな間が流れ沈黙が部屋を支配する。
しかしそれはコーネリアが大きなため息と共にその場にヘタレ込むことでその沈黙は崩れた。
「よく耐えまシタ、コーネリア。逃げ出さなかったことを評価しマス」
「は、拝啓、もう二度とこんなことはゴメンしたいと申し上げる」
額に浮かぶ汗を拭うと、コーネリアはゆっくりと立ち上がる。まだ体に緊張が残っているのかふらつき、一度は大きく倒れ込む。
ドラノールは視線だけを走らせると、端的に短く告げる。
「今日は非番としマス。ゆっくり休みなさい」
「り、了解…」
ふらふらとした足取りで部屋を出ようと扉を開けた瞬間だ。
「コーネリア」
「はい?…………ッ!?」
呼び掛けに振り向いたコーネリアの体は、ドラノールの赤鍵により貫かれる。
突然の衝撃に目を見開きドラノールに視線を向ければ、そこには得意気にも意地悪にも取れる表情のドラノール。
「休むのはあなたの部屋でなく、地獄デス。観劇の魔女の家具」
「な、何故………………」
呻くコーネリアのようなモノ、その胸に手を当てるとドラノールは静かに呟く。
「QED」
瞬間、コーネリアの形は塵となり消え去った。
貫いていたはずの赤鍵は最早虚空で制止しているのみ、それを掴み振るうとドラノールは部屋を出ていく。
「面倒にも観劇の魔女は自身の家具を残して行ッタ。至急殲滅セヨ」
念波による通信を行うと、返信には本物のコーネリアとガードルートから来た。
「さて、始めマス」
最後に扉を閉めると、ドラノールは廊下を駆け出し消えていった。

部屋の中には扉を閉めた衝撃で波紋を作る珈琲カップだけを残して。

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あきゅろす。
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