text 残された時間(梨花+沙都子) 幸せになりたい。 みんなが一緒じゃなきゃ、嫌だ。 誰かが死ぬなんて、嫌だ。 それは、我儘なことなの? それさえも、願ってはいけないの? 「もう、時間がないわ」 日替わりのカレンダーを捲ることさえも嫌になる。 私は殺されてしまう。いつものように。 何度殺されても、終わらない悪夢。 どうして私だけが。 こんな記憶もなければ、何も知らなければ、みんなと一緒に笑っていられたのかもしれない。 「梨花、ご飯できましたわよ」 「あ、はいなのです」 今日の食事当番は沙都子だ。温かい料理は白く湯気を立てている。 「どうしましたの?そんなにカレンダーを見つめて」 「…あともう少ししかないと、思ったのですよ」 「何がですの?」 沙都子はカレンダーを見やる。別段変わったことも見つけられないので首を傾げた。 「…秘密なのですよ」 沙都子には笑って答えた。心配させたくない。 沙都子は訝しむような表情をしていたけれど、何も聞いてこなかった。 「変な梨花。さぁ、早く食べないと冷えてしまいますわよ」 「はいなのですー」 沙都子…あなたに黙っていること、許してね。 誰にも、言えないの。 私は…みんなが笑っていれば、それでいいのに。 ありふれた日常。それは奇跡なのよ。 私にとっては、とても特別なこと。 けれど。 その時は必ずやってくる。避けられぬ運命。 だから、笑っていたい。みんなと過ごせる何気ない時間が、私にとってはとても愛おしい。 だからせめて、今だけは。 幸せを噛みしめるように、笑っていたい。 (まだ、時間は残されている) [*前へ] |