01
(失敗した!)
名前とクロームは汗を流しながら広く長い廊下を走っていた。
後ろからは何人いるのかと云いたい程の足音が響いてくる。
ここはミルフィオーレの支部の一つ。
今日二人はここに潜入して情報収集をしていたのだ。
支部の中でも普段から人員の少ない此処からミルフィオーレのホストにアクセスして情報を引き出そうとしたのに……なのにまさか白蘭が同じ日に視察に来るなんて思わなかった。
二人はとにかく走った。
ミルフィオーレ本部と違って此処はビルの最上階でもないし、石造りの建物でも三階建てだ。
最悪窓から飛び下りて逃げればなんとかなるだろうに、それが出来ないのはクロームが足に怪我をしたから。
逃げてる途中に敵の銃がクロームの足に火を噴いた。
今も二人肩を支えあいながら逃げてる最中だ。
「ごめん、名前」
「大丈夫!大丈夫だから気にしないで足を動かして」
逃げてるつもりが三階まで行き着き、二人はある部屋に逃げ込んだ。
バタンと扉を閉めて鍵をかけて二人はドアに凭れて座り込んだ。
荒い息を吐き息を整えて廊下に意識を向けた名前の隣から「あ」というか細い声が聞こえる。
「どうしたの?クローム」
何処か虚空を見ていたクロームの瞳に生気が宿り頬に赤味が戻る。
「名前、いま骸様がこっちに向かってるって。一番端の部屋の窓の下で待ってるって!」
名前の顔にも生気が蘇る。
骸は名前の恋人だ。
もう数年の付き合いになる。
二人は動かない足を叱咤してドアから外を伺い廊下を出た。
「いたぞ!こっちだ!」
「見つかった!クローム頑張ろう!」
クロームを先に行かせた名前は持っていた銃を放ち、一瞬の足留めをして再び走った。
「ここだね!」
「うん!」
骸の指定した部屋に入った二人は持てる限りの重たいものでドアを塞ぎ窓に向かった。
その下には骸がいて、彼の周りには見張りでいたのであろう数人の男達が倒れていた。
名前は窓を開けたが、この部屋の窓は外に出れないよう鉄で柵を作ってあってなかなか破れない。
そうこうしている間に後ろのドアからドーンドーンと音がしてドアがミシミシと軋んだ。
名前もクロームも焦りの色を見せる。
ここまできて捕まる訳にはいかない。
名前は使い過ぎてヒビの入ったリングに炎を灯し匣を近付けた。
薄い紫の炎を纏った鷹が姿を現した瞬間、彼女の持っていたリングが砕け落ちた。
「行きなさい!」
名前の命を受けた鷹が人一人が通れる穴を窓に開けたのとドアが爆音と共に壊されたのが同時だった。
「「 !! 」」
爆風に吹き飛ばされそうになった名前がクロームを庇い、背中に衝撃を受け一瞬意識が遠のいた時に、彼女の大切な恋人の声がした。
「クローム!!」
その瞬間、名前の手は開いた窓に向けてクロームを押し出していた。
「名前!?」
クロームは驚きの表情のまま落ちていく。
骸はクロームを受け取りそのまま踵を返して姿を消した。
名前はその姿を見ながら窓を被うように立ち尽くし、そのまま意識を手放した。
「骸様!? 名前が、名前が!」
既に見えなくなった屋敷を見てクロームは悲鳴のように叫ぶ。
「彼女なら大丈夫です。ミルフィオーレの総大将は以前から彼女を狙っていた。殺されることはないでしょう。この場合殺されていたのは君ですよ、クローム」
「でも!でも!」
「彼女も馬鹿ではない。この状況をちゃんと理解しているはずだし、彼女は僕を愛している。間違っても僕たちを裏切るはずがないですからね」
冷静に状況を見ているらしい骸の横顔を見ながらクロームは顔を歪ませた。
骸様……貴方のその自信はわたしにとって羨ましいものです。
でも骸様。貴方のその自信が今回当て嵌まるか不安です。
確かに名前は貴方を愛している。
でも……この不安はなんなんだろう。
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