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キミとボク(表→闇/双子パロ)
やっぱ、おかしいよね。こういうのって。
キミとボク
「ねぇもう聞いてよもう一人のボク!」
コンビニから帰ってきてすぐ、ベッドに座ってゲーム雑誌を読んでいるもう一人の自分に抱き着いた。買ってきた二人分のアイスを放り投げて走って体当たりするような形で覆い被さったからか、ぐぇ、と言う声が聞こえたけど、きっと気のせいだよね。
もう一人の自分は数回咳き込んでから読みかけのゲーム雑誌を閉じて、脇に置いた。そして抱きついたままのボクをひっぺがして、目の前に座らせた。
「どうしたんだ、相棒」
「あのねあのね」
ポケットに突っ込んでぐしゃぐしゃになった紙を見せる。
「小学生の子が行く学習塾だよ、これ」
「……………小学生と間違えられてチラシ配られたんだな」
「そう!」
気にしてるのに、この童顔とか身長とか体型とか。双子なのに、もう一人の自分の方は実年齢より下に見られたことはあまりない。大人びてて落ち着いてて双子なのになんかボクより凛々しく見えるし、切れ長の目だって、ボクにはない。双子と言えど、あまり似ては居ないのだ。良くも悪くも。
もう一人の自分は、憤慨しているボクの頭を優しく撫でてくれる。暖かい手。優しい微笑。
今はそれがボクだけのためにあって。ああ、なんで、こんなにこんなにすきなのに、双子なんだろう。家族なんだろう。男同士なんだろう。一緒に居られることは、嬉しい。でも、哀しい。これが他人ならよかったのに。それなら、まだ辛くなかったかもしれないのに。どうして。考えは尽きない。
「……どうしたんだ? 相棒」
「うぇっ!?」
ずーっとぼんやりとしていたボクを心配そうに、顔をのぞきこんでくる。熱でもあるのか、なんていいながら自分とボクの額に手をあてる。もう一人の自分の手は、ひんやりと冷たくて、熱を孕んだ心を溶かしていくようで。ずっと触れていたい。この手も、キミの全部が、ボクだけのものならいいのに。
与えられる優しさは、家族のそれだって、わかってるから。
「熱はない、な。どうしたんだ? 直射日光に当てられて気分が悪くなったのか?」
「えー、大丈夫大丈夫! そんなにか弱くないって」
額から手が離れて。大丈夫だよ、とできるだけ明るく。ああ、ボクは今上手く笑えてるかな。哀しくない切なくない大丈夫だよ。大丈夫、だから。だから、だからさ。そんな風に心配そうにしないで。気にしないで。 どんなにすきでも、キミは違うんだって、わかってるから。
「………無理するなよ」
苦しそうな瞳が見えた後に、ぎゅう、と強く抱きすくめられた。一瞬、何が起こったのかわからなかった。強い強い力で、抱き締めてくれる。なんでなんでなんで。これも、家族だから? 双子だから? わからなくて、嬉しくて、何だか涙が溢れてきた。ぼろぼろと。嗚咽を漏らしたら、もう一人の自分が少しだけ体を離して顔をのぞきこんできた。
「どうした? 相棒」
大丈夫だよ、と言いたくても涙にかき消されて言葉が出てこない。ぽたぽたと零れ落ちる雫を、もう一人の自分は、ふっと近づいてきたかと思うと。
「………!」
涙を舐めとられた。頬や目元を這う暖かい感覚に囚われて、状況が把握できない。なに、え、本当。どうしたの。そうやって慌てるボクを見て、もう一人のボクはくすくすと笑っている。なにがなんだかわからなくて。それでもまだもう一人の自分はボクの顔を優しく舐めてきて。それが、ふいに唇に移って。
「…!!」
何度も何度も唇を触れあわせてくる。心臓が暴れてるようで、ドキドキが口から出てきそうなようで。うまく呼吸ができなくて、息が荒くなる。
やっと唇が解放されて、もう一人の自分の顔を見詰める。目の前にいる彼はなんだかとても嬉しそうで楽しそうで、夢の中に居るような心地になる。
「っど…して……」
「相棒」
優しい瞳がボクを捉える。その綺麗な目にびっくりして、
「俺に何か言うことはないのか?」
ひどく優しく笑んで。とまらないとまらないとまらない。顔を見るのが恥ずかしくて、目の前にいる彼の肩口に顔を埋める。
いいのかな。いいの、かな。だって、ボクたちは家族で双子で男同士で。キミはボクの半身で。ボクはキミの半身で。ああでもなんかもう、ね。どうでもよくなっちゃいそうなくらい、
「キミがすきだよ」
驚くほどすんなり言葉が出て。とまらない。たまらない。
「すき」
「…相棒」
「すき…だよ」
強く抱き締められる。もう一人の自分の激しい鼓動を感じる。熱い身体。
「俺もすきだ」
すき。
「だいすきだ」
いけないことだってのは、わかってる。可笑しいんだっていうのも、わかってる。
でも、でも、今だけは。
この温もりにすがらせて下さい。
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