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エゴイスト(闇海)



 呼び出されたのは、俺なんだが。




エゴイスト




 海馬コーポレーション本社ビルの最上階。社長室の扉をノックする。返事は、ない。確かに呼び出された筈だ。もう一度、叩く。すると今度は、がちゃりと扉が開いた。目の前には仏頂面なこの会社の社長。入れ、とだけ言って踵を返したので、素直にそれに従う。
 中に入ると綺麗なもので、値の張りそうなガラスケースや棚や、その中にあるティーセットや書類ケース、数々の大会での賞状などが一気に視界に入ってくる。海馬のためのものと思われる机の上には、どっさりと積まれた書類や、開きっぱなしのパソコンなどが置いてある。また、仕事中だったのだろう。何だか少し、申し訳なく思う。

「何をしている」
「いや…別に」
「座れ」

 従い、手近にあった客用ソファーに腰かける。海馬がふん、と鼻を鳴らす。……膝に乗った方が良かったか?

「何かあったか?」

 突然呼び出すからには急用でもあるのかと思い、問う。しかし海馬は、目を逸らしたまま沈黙した。物凄く反応に困る。大分慣れてきたが、海馬のあまり素直でないところは、少々厄介なのだ。

「何かあったなら言ってくれ。俺はお前を心配してここに来たんだ」

 沈黙。全く、素直じゃない。

「…………俺は暫くお前と逢っていなくて寂しかったんだが」

 ソファーを離れ、海馬の座る高価そうな椅子に近づく。座って目線の低くなった海馬を少し見下ろす。

「お前は違ったんだな」

 できるだけ、寂しそうな声色を使う。寂しく思っていたのは本当だ。
 奴は少し、焦りの色を浮かべている。わかりやすい。
 海馬の膝の上に横向きに乗り、海馬の顔の輪郭を撫でる。海馬の体がびくりと揺れる。顔を近づけると、驚きつつも瞼をおろしたので、口付ける。すぐに離れると、物足りなかったのか、今度は海馬の方から唇を触れ合わせてくる。貪るように、必死に。舌を滑り込ませ、口内を犯していく。海馬の首に腕を回し、抱きつく形になる。深く、深く、口付ける。頭がぼんやりとしてきたので、顔を離すと、目の前の海馬は少し頬を紅くしていた。

「…………勘違いするな」

 ようやく、海馬の口から言葉が漏れた。沈黙で続きを待つ。

「お前だけでは、ない」

 言うと、俯いた。そして、その腕に抱き込まれる。きっと今の海馬は物凄く可愛い顔をしているんだろうな、などとぼんやりと思い、目を閉じた。



 今日は答えが聞けたからまあいいか、なんて。



 

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あきゅろす。
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