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ただひとつの、(闇表闇?)
いや、まぁ、嬉しいんだけどね。
ただひとつの、
心の部屋の中。ボクはさっきから、後ろからしがみつくように抱き締められている。
…ボク、そろそろ寝たいんだけどな。
「ねぇ、そろそろ」
「やだ」
言い終える前に即答された。人差し指で頬を掻く。そして、もうひとりのボクの頭を撫でる。
「そんなに心配しなくても、ボクはずっとキミだけのものだよ」
「………。」
抱きしめる力が強くなった。少し、苦しい。
もうひとりのボクは、ボクが誰かにじゃれつかれたりした日は、やたらとボクにくっつきたがる。今日は、城之内くん。城之内くんが抱き付いてきたり頭をわしゃわしゃ撫でてきたり。そんなのいつものことなのに。
「ねぇってば」
「違う」
なにが。
「俺が嫌なだけなんだ」
振り返ろうとしてももうひとりのボクの表情は窺えない。
「………そっか」
なんとなくはわかるけどさ。
「キミは本当に可愛いね」
「……!」
びくり、と抱き締める手が揺れた。わかりやすいなぁ。そこがいいんだけど。
「俺なんかよりもずっと相棒のが可愛い」
「はいはい」
必死に伝えようとしておろおろして。相棒のが可愛い、はもう聞きあきるほどだけど。絶対ボクなんかよりもキミの方が可愛いと思うんだけど。捨てられた仔犬みたいで。
「でもね、ボクもう眠いから」
腕の力が緩んだのでくるりと振り返ってもうひとりのボクと向かい合うと、もうひとりのボクは寂しそうな視線を投げ掛けてきた。可愛くて愛しくて、無理矢理唇を奪った。もう、そんな目で見てくるから。もうひとりのボクは少し驚いた顔をしていたけど、すぐに舌を絡ませてきた。必死に口内を犯してすがりたがる。依存して依存して依存して。まあボクも似たようなものだけど。
名残惜しそうな銀糸を残しながら口を離す。もうひとりのボクは少し照れたような顔を浮かべている。ああもう、ね。本当にさ。
「じゃぁ、今日は一緒に寝ようか」
ボクなんかの一言でこんなに嬉しそうに笑うんだから、本当に可愛いよね。大きく頷いたもうひとりのボクの手を引く。まだ嬉しそうな笑顔をしたまま素直についてくる。
今日は、枕とベッドをはんぶんこ。
………ね?
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