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メランコリック(闇表←城)



 …俺はどうやら、あいつのことがすきらしい。



メランコリック




 俺がそのことに気付いたのは、アテムが生身の体で戻ってきたときだった。かつては、遊戯の"もうひとつの心"として遊戯の中に住まっていた心が、その約1年後、俺たちが高校3年生にあがって夏休みを迎える前に、変わった時期に入ってきた転入生として戻ってきたのだ。
アテムが冥界へ帰ったばっかりのころの遊戯は、表面上は元気そうにしているものの、時折影が差したような表情を見せる、一緒にいるこっちが辛くなるほど、落ち込んでいたものだ。
時が経つにつれ、その影は薄れていったものの、アテムとの別離は、遊戯にとってはとても哀しくて、辛くて、今みたいに笑えるほどではなかったと思う。
 アテムが帰ってきてからは、本当に、心から嬉しそうに笑うようになった。それほど、遊戯の中ではアテムの存在が大きかったのだ。それに気付かされたとき、胸がしめつけられるような気持ちがした。
 あぁ、俺は、気付かない間に遊戯をすきになって居たのだと、痛感した。
気付くのが遅すぎた。せめて、せめてもっと早くに、アテムが戻ってくる前に気付いていれば、まだ幸せだったろう。今、そんなことを思っても、仕方ないことだけれども。
 俺がこんなことを考えている今でも、二人は楽しそうに笑っている。教室の真ん中にある遊戯の席の前に、アテムが席を借りて陣取っている。
 アテムが遊戯の髪を優しく撫でる。遊戯はとても嬉しそうに、笑う。俺と一緒に居ても、あんな風には笑わないくせに。
 自分のものになればいいのに、と思う。自分でも驚いた。自分が同性に恋をするなんて。
 でも、何故だか、不思議には思わなかった。大切な友達と思っていたはずなのに。今は、こんなにも。
 抱き締めたい。唇を触れ合わせたい。体も髪も手も声も心も全部全部、自分だけのものにしたい。
 欲望ばかり募る自分に嫌気が差す。俺とではなく、アテムと一緒に居るのが、遊戯の幸せなのに。嫌になる。苦しくなる。でも、その度。

「城之内くん」

 はっと、顔をあげる。遊戯とアテムが、少し不思議そうな色を含んだ笑顔で、目の前に立っていた。

 「どうしたんだ?ボーッとして」
「具合でも悪いの?大丈夫?」

 二人とも、心配そうに俺の顔を覗きこんでくる。ああ、もう、お前がそういうことをしてくれるから。

「なんでもねーよっ!大丈夫大丈夫!」

 努めて明るく振る舞った。我ながら、中々上手くやれたと思う。二人は顔を見合わせて、それでもまだ不思議がってはいたが、俺が「なんでもねーってば」と言うと、納得したように笑って頷いた。

「で、どうしたよ」
「今日学校が終わったら皆でカラオケに行こうって、相棒と話してたんだ」
「城之内くんも来るよね?」

 視線を投げ掛けてくる。俺はそれに、出来るだけ。出来るだけ、明るく笑って返す。

「おう!当たり前じゃんよ!」



 アテムが帰ってきて、良かったと思う。遊戯があんなに笑うようになって。嬉しそうに、楽しそうに、幸せそうに。アテムも同じだ。遊戯との再会を、きっと、心から喜んだだろう。俺たちが喜んだよりも、きっと、二人はもっと。
 遊戯が幸せなら。アテムが幸せなら。俺は、それを壊さないから。ずっと二人の、誰よりも仲のいい親友でいるから。
 だから、どうか。
 この気持ちは封印するから、どうか、お前らはずっと。


 …笑っていて。



 

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