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はじまりの恋
接近/10
 恋愛している時の一途さはどこへ行くのか、本当に明良はそれ以外かなり無頓着で、正直見ていて呆れるの一言だ。

「今度紹介しろよ」

「嫌だ。藤堂は紹介しないぞ」

 にやりと笑った顔が胡散臭い。絶対にいまの明良には紹介したくない。たぶんきっと明良のタイプではないと、そう思うけどそれでも嫌だ。

「なんでそんなに明良は付き合う子と遊ぶタイプが違うわけ?」

 いつも明良が付き合うタイプは小柄で大人しくて、ちょっと雰囲気が可愛い子が多い。でも、付き合ってない時に一緒に見かける人はそれとは毎回全然違う感じで、あえて言うなら渉さんのように顔立ちが綺麗で、性格もサバサバしているタイプがほとんどだ。
 実際二人が付き合っているんじゃないかと思ったことさえある。でも、地球が逆回転してもありえないと、二人揃って猛烈に否定された。ある意味、すごく息が合うんだろうけど。

「んー、やっぱ遊びの時は割り切れるタイプじゃないと駄目だろ。その気もないのにずるずるされても困るし。一晩楽しけりゃいい」

「不毛だ」

「そんな怖い顔しなくてもいいだろ」

 明良の答えに思わず顔が険しくなる。言っていることはなんとなくわからなくないけど。それでも遊ぶ、と言う感覚が理解できない僕には到底わかち合うことが出来ない。

「大丈夫だって、なにも佐樹の彼氏をどうにかしようって思ってはないぜ」

「どうにかってなんだよ!」

 ニヤニヤと笑う明良におしぼりを投げた。避けることなくおしぼりを顔で受け止めながら明良はますます笑みを深くする。

「なに笑ってんだよ」

「いやぁ、珍しく佐樹が食って掛かるからさ。佐樹の彼氏はよほどイイ男なんだろうなぁ、興味深いな、と思って」

「別に、付き合ってるわけじゃ、ない」

 明良の言葉に思わず顔が熱くなる。口ごもりながら空になりかけているグラスに口をつけると、また明良が後ろを向いて大きく手を上げた。そして目の前に新しいグラスを運ばれる。
 なんだか、なにを口にしても味がしないのは何故だろう。

「まぁ、悩むのは結構だけど、あんまりいたいけな少年をもてあそばないようにしろよ」

「は?」

 明良の言葉に思わず眉間にしわが寄る。一体いつもてあそんだというのか――心外だ。けれど不服そうな僕に対し明良は呆れたように肩をすくめる。

「本当にその気がないならいつまでも構うなよ。ちゃんと突き放せ。向こうは年頃なんだし、マジだろうしさ。ノンケに惚れるのって結構リスク高いんだぜ。しかも下手すりゃお前ら親子だぞ」

「誰が親子だ!」

 しみじみと呟く明良の足をテーブルの下で蹴り飛ばし睨みつけてやると、涙目になりながら足を持ち上げ脛を擦った。
 確かに一回り以上離れているがまだ親子には手は届かない。あと四、五年違ったら可能性はなくはないけど。まず藤堂と親子なんてどう考えてもありえない。よほど彼のほうが自分より大人びてる。あんな子供は絶対嫌だ。

「それはまぁ、冗談だけどよ。佐樹は恋愛に関しては枯れてっからなぁ」

「さっきから言いたい放題だな」

 口を曲げる僕に追い討ちをかけるように明良は笑う。

「ホントのことだろ。渉のことにしたって、いままで気がつかない佐樹は相当鈍いぜ」

「は? 全然わからないだろ。どこをどう見たら渉さんが自分を好きだなんて思うんだ。あの人誰に対してもあんな感じじゃないか」

 ため息混じりに明良を見れば、逆に更に大きくため息をついた明良に肩をすくめられた。

「佐樹は男相手に意識なんかしないだろうけど、なんかおかしいと思うだろう、あんだけ毎回ベタベタされてりゃ」

「別に」

 確かに会うたび会うたび抱きつかれたり、キスされたり、スキンシップは激しいし、会いたかっただの、寂しかっただの、甘い台詞は吐かれるし、毎回どこかへ誘われたりするし――。

 ん? あれ?

「なんか心当たりでもあったか」

 急に固まった僕に明良は目を細めてビールをあおった。その視線は呆れた冷ややかなものだった。

「だって渉さん誰にでも、そうじゃないか」

 冷たい視線に言葉尻が小さくなる。性格からしてオープンな渉さんは、誰に対しても比較的あの調子だ。だから冗談なのか本気なのかがわかりにくい。
 いや、でもあれだけオープンなんだから、気づかなかった僕はやはり相当鈍かったのかもしれない。そういえば女の人を口説いているところは見たことがない。

「確かになぁ、あいつの場合は、すぐところ構わず気に入れば口説く悪い癖があるから、判断は微妙だけどな。それでもいままではノンケは絶対避けてたんだぜ。今回もお前には絶対言わないっていうから、俺があいだに入る形でお友達の付き合いは続けさせてやってたんだぞ」

「う、そんなこと言われても」

 そんな渉さんがいかに自分に対して本気かを聞かされても、非常に困惑するばかりで、僕は視線を泳がせ俯いた。

「まぁ、アイツのことは気にするな」

「気にするなと言われても」

 今度また顔をあわせた時、どんな顔をしてあったら良いかわからない。出来ればしばらく会いたくない気もするけれど、それってかなりずるいだろうか。

「好きとか、そう言うのってなんだ」

「お、極論だな」

 僕の言葉に明良は目を丸くして笑う。
 

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