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はじまりの恋
接近/2
 文句のつけどころがひとつもない、完璧すぎる容姿を思わずまじまじと見つめてしまう。

「お前、私服だと高校生には見えないな」

 服装のせいだけでなく、藤堂は学校で会う印象とかなり違っていた。
 いつもはさらりと自然に流している髪も、今日はヘアーワックスでも使っているのか、全体的に少しふわりとしている。眼鏡もいつもの細い銀フレームではなく縁がある、いわゆるお洒落眼鏡。普段の優等生然とした雰囲気がなく、大学生――下手をすると社会人と言っても絶対に通るだろう。男として少々悔しさを感じるが、僕の容姿では藤堂のルックスに全く勝ち目がないのは目に見てわかる。

「だとしても、雰囲気違い過ぎるだろう」

 小さく唸り少し不服そうにそう言えば、藤堂はそれに反して嬉しそうに頬を緩めた。

「先生はどっちがいいですか?」

「ど、どっちだっていい」

 悪戯っぽく目を細める藤堂に思わず声を大にしてしまう。そんなに大声で言うことでもないのだが、なぜかそわそわして気持ちが落ち着かない。そしてそんな落ち着きのない僕を見ながら、藤堂は見ているこっちが恥ずかしくなるくらい優しく微笑んでいる。

「先生はいつもより可愛いですね」

「は?」

 突然そう言って笑った藤堂に一瞬あ然とした。

「か、可愛いってなんだ!」

 藤堂は言うに事欠いて人のことを可愛いと言い出す。いままで自分の容姿を見て、他人に可愛いなんて単語言われたことないぞ。

「普段も若いですけど……なんだか、良いですね。今日は無理を言ってついて来て良かった」

 顎に手を置き、じっとこちらを見て考える仕草をしていた藤堂が、ふいに目を細めニヤリと笑った。その表情に思わず目を疑った。

「なんだその目は」

「なんだってなんですか?」

「やらしい顔してる」

 そうだ、笑った藤堂の顔がどうにもいやらしいと言うか、目が、こっち見てる目がやらしい。けれどそう言った僕に対し、藤堂は少し驚いた顔をしてからにこりと微笑んだ。

「健康な男子なんで、好きな人を目の前にしていやらしくなるなって言う方が無理です」

「お、お前なぁ」

 言ってることと表情が全然違い過ぎる。そんな爽やかな笑顔で言い切ることじゃないだろう。思わず肩を落とし僕は頭を垂れた。

「先生、あんまり俺に綺麗なイメージ持たないで下さいね。幻滅されても嫌なので」

 うな垂れた僕にそういって、藤堂は俯く頭を優しく梳くように撫でる。

「先生の髪質って、ホントにサラサラしてて触り心地が良いですよね」

「お前は本当に触るの好きだな」

 髪に藤堂の指先が触れた瞬間、ほんの少し肩が跳ねたが、会うたびどこかしら触れてくる藤堂に若干の免疫がついてきたようだ。いつもより鼓動が早くない。

「触るのも好きですけど」

「ん?」

 時折髪先を掬いながら触れる藤堂の手がなんだか気持ちよくて、しばらくそのままでいたら、ふいに藤堂の指先が耳の輪郭をなぞり耳たぶを掴んだ。

「先生が好きなんです」

 前言撤回――免疫なんて付きそうにない。

「……っ!」

 その感触に大袈裟なほど僕は飛び上がり、弾かれるように顔を上げた。一瞬鳥肌が立った。

「すみません。あ、もしかして耳弱いですか?」

 耳を押さえ恨めしげに見上げれば、藤堂はほんの少し眉尻を下げ笑う。でもいまだに彼の手は僕の頭を撫でている。

「いい、もういい。とりあえず行こう」

 心臓の鼓動が早くて全然良くはないが、ふと視線に気がつき僕は慌てて立ち上がった。思えばここは駅前。休日の午前中とはいえ待ち合わせの人々が多くいるこの場所で、僕らは大いに悪目立ちをしていた。恥ずかしいことこの上ない。
 それでなくとも藤堂は黙っていても目立つのに、男同士でこんなことしていたら余計に人目につく。

「まだ時間早いからどっかで飯にでもするか」

「そうですね」

 急に立ち上がった僕に目を丸くしていた藤堂は、軽く何度か瞬きをしてからふわりと微笑んだ。
 

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あきゅろす。
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