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放浪者の孤独な譚詩曲(沖田+山南)



馬を駈けながら、人混みの中に山南の姿を探す。
表情は無表情のまま、感情が見えないが、総司は内心まだ迷っていた。


(見つからなければ)


それはそれで良いかもしれない。
近すぎると分からなくなる事もあるが、今まで当たり前の様に存在した仲間が欠けるとは寂しく、切ない。
けれど、見付けたら。


「…何で、逃げたんですか」


ぼそりと呟く言葉は風に流され、消える。
それは総司の本音であり、山南本人に掛けたい問いである。
止まらぬ思考を巡らせながら、しかし辺りには細心の注意を払って見知った影を探す。
もう既に逃げ切ってしまったのでは無いかと云う不安が横切った瞬間、視線の端で見まごう事のない姿を捉えた。
走らせていた馬を素早く止め、後ろを振り返ると、そこには河川敷の草村に座り込み不用心な背後を見せている一人の男性、山南の姿があった。


「…見つけましたよ、サンナンさん」
「早かったね、総司君」


まるで追手が総司であると予感してた口振りで、突然掛けた言葉に驚いた様子も無い。
ただそれ以上の追求も、問い掛けもなく、無言の刻が二人の間を流れた。


「どうして逃げたのか聞かないのかい?」


静寂を先に破いたのは山南本人。
その問い掛けは確かに先程まで喉の奥につっかえていた事であるのだが。


「ねぇ、サンナンさん。このまま屯所へ帰らない?」


山南の問い掛けに返答する事なく、唐突に返すその言葉。
総司なりの最後の賭けでもある。
今なら脱走したと云う事実は無かった事へと出来る筈。
何事も無かった様に帰れば。
そんな無駄だと解っている言葉を口にすれば山南からは案の定、首を横に振り否定を表した。


「いいや、私は脱走を図ったのだ。特別な救済などしては副長として隊士へ示しが付かないだろ?」


そう言って何時もと寸分違わない微笑みを浮かべた。


「全く……頑固だなぁ、サンナンさんも」
「“も”?」
「サンナンさんも土方さんも、新撰組隊士みんな頑固で困ったもんだ」
「…そうかもしれないね」


『何で』とか『どうして』とか、聞きたい事は沢山あった。
けれど、山南の笑みの奥に、静かに燃える覚悟の焔を悟り、溢れだしそうな言葉を飲み込む。
ふと上げた視線の先に、夜の帳が侵食を始めていた。


(別れの刻限がゆっくりと近づいて来てる)

総司は人知れず右の拳を強く握り込み、去来する怒りとも哀しみとも似た感情の波と闘っていた。







後書き
開幕の報せは〜』の続き設定
多分次で此れは決着着くと想う←

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あきゅろす。
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