[携帯モード] [URL送信]
開幕の報せは静かなる(土方+沖田)



山南敬助が脱走を図った。
その事実を知ったのはほんの一部の人間。
置き手紙にはただ一言『江戸へ帰る』と書かれているのみであった。
始めに発見したのは土方だ。
それは偶然の出来事では無い事を本人達は知っている。
山南がわざと土方自身にそれを見付けさせる為に布石は置かれていた。
その手紙に目を通し、思わず手に力が入り、紙には幾つもの皺が出来る。
即刻自室に戻り、信頼を置ける総司を呼び付け手紙を見せる。


「土方さん、此れは…」
「追手を総司に任せる」


ただ一言を総司に言い渡し、それ以上口を出させない。
任せると云う事は。


(そのまま逃がしても良いって事かな)


隊の中で対立し続けた二人。
しかしそれは単なる仲違いでは無い事は昔からの付き合いである仲間には気付いている。
誰よりも仲間を大切にする癖にそれを上手く表現出来ない、どこまでも不器用な人だなと想う。


「サンナンさんは何で脱走なんて図ったんでしょうね」
「…………さぁな」


一瞬、土方の表情が曇るが直ぐに何事も無かった様に無表情に戻る。
しかしその瞬間を見逃さない。


(もしサンナンさんが見つかったら)


脱走は重罪だ。
処刑は免れる事は無いだろう。
もしかしたら、土方さんは助ける方法を探しているかもしれない。
その想いには総司の希望も少なからず入っている。
本心では見付からなければ良いのにと望んでいる事を否定出来ない。
でも今はそんな事よりも。


「では、土方さん行ってきます」
「…頼む」


これは、いづれかの崩壊が始まる号令かと警鐘が鳴っていた。










後書き
山南さん脱走辺りを前から書きたかったので…
またこの後の話を書くかもしれないです

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!