Novel バレンタインデーが何だ屑 2 ダアトの中庭に居るアッシュを発見して、ラルゴが近づいた。 「アッシュ」 「ラルゴだ」 「ラルゴです」 「ラルゴだが…」 アリエッタとアッシュは座っていたので、自分も腰を下ろす。 目線が合わないが、いた仕方ない。 「率直だが、アッシュ」 「ん」 「総長にチョコをあげてはくれぬか」 「あ?」 「先ほど、執務室の前で聞いてしまったのだ。お前チョコをあげないと、シンクやディストの手まで介入してくるはめになるぞ」 「ええー…面倒くせえな」 アッシュが盛大に溜息を吐くと、アリエッタがアッシュの額に指を当てて言った。 「アッシュアッシュ、考えるです」 「え?」 「チョコをあげてしまえば、何もされないです。さっき説明してもらった義理でもいいです。あげるです!」 「あ、アリエッタ?」 「アッシュが総長にいじめられるの、アリエッタ嫌です!いつも泣いてるです」 ラルゴに冷や汗が走る。 あれは泣き声ではなくあえぎ声だとは、教えてやれない。 その喘ぎ声の説明をするのが嫌だからだ。 幼い少女、ましてや幼少期を魔物と過ごした少女に教えるには、刺激が強すぎる。 わかりえるかどうかも、危うい。 「…ラルゴ」 「何だ?」 「チョコってのは、ダアトのバザーでも売ってるかな」 「…売っていると思う」 「行くぞ!」 「俺もか」 「か、買ったことねえんだよ!一人で買うの恥ずかしいだろうが!」 俺が行って店の前に並ぶだけで、恥ずかしいと思うのだが。 ラルゴは思ったが口にしなかった。 「…たくさん、あるぞ」 「そうだな」 「どうしよう…」 「そうだな」 「どれも高そうだ」 「そうだな」 赤、緑、青、チェック。 様々な色で包装された四角かったり、丸かったり、あるいはハートだったりする箱。 その中には、思いを告げる為の役割を果たす魔法のチョコが入っているのであろう。 甘い匂いが奥から漂う。 きっと手作りなのだろう、どれも安値とはとても言いがたいものだった。 「…ラルゴは何色がすき?」 「俺は…黄色かな」 ナタリアの髪のような。 娘を思い少し胸がジィンとするラルゴ。 アッシュは間髪入れずに言う。 「だめだ。黄色はナタリアの色だ。黄色いものをヴァンにやるのは気が引ける。駄目だ。絶対だめだ」 「…」 「あとハートも駄目だ。勘違いする。チェックも駄目だ。ナタリア似合うし」 「…」 「三角とかないかな?とげとげしいの」 「お前は、総長が嫌いなのか」 「え?」 嫌いかといわれればそうでない、でも好きかと言われても困る。 誘拐されたときの事は今でも引きずるし、だけど師匠と呼べるのはあの人しかいない。 身体の関係を強要されようと何しようと、生かしておいてくれているのはあの人だ。 あの人なのだから。 「…嫌いなわけ、ねぇだろ」 「そうか」 「丸にする」 「丸か。何色がいいだろうか?」 「緑にする」 みどり。 ラルゴは何故緑なのかと一瞬思ったが、アッシュと目があってすぐにわかった。 「ディスト、わかってる?」 「はい」 「このチョコをアッシュに渡して、ヴァンにこれ渡しといてって言えばいいんだよ」 「は、はい」 「街の女性からって言ってアッシュに渡せばいいんだよ」 「は、はい、はい」 「そうすればアッシュも捨てるわけにいかないし、これはヴァンの手に渡る。いいね?」 「は、は、はい」 「じゃ、アッシュ探すよ」 「…はい」 何故渡すのが自分なのだろう。 ディストは聞きたいとも思ったが、シンクの目がぎらぎらと怪しく光っているのでやめておいた。 きっとさっきアッシュとアリエッタが一緒にいるのを見たからだ。 「シンク、はいです」 「え?」 ふいに、後ろから声が聞こえた。 振り向くとアリエッタだった。 シンクの顔が真っ赤にそまる。 「好きな女の人から、男にあげるってアッシュに教えてもらったです。だからシンクにもあげるです」 「あ、ありえった…!」 「ディストにもあげるです」 「…もらっておきますよ」 「シンクのは買ったです。ディストのはお金がないからその辺の兵士から取ったです」 「「…」」 兵士可哀想。 シンクはアリエッタにほだされながらも、理性は切らなかった。 「ヴァン!」 執務室の扉を開けるやいなや、アッシュはそれと同時に叫んだ。 中に居たヴァンが目を見開く。 「ア、アッシュ?」 「あ、あのー、そのー…お、俺の部屋に来ないか?!会得したい剣術があるんだが、説明書じゃわからなくてな!」 「…中庭で、も、よかろ、う」 「どもってんじゃぬぇ−!いいんだよ部屋で!いいな!来いよ?!絶対だかんな!」 バンッ 部屋のドアが乱暴に閉められ、アッシュの走り去っていく音が聞こえる。 これは一体どういうことだ? 仕方あるまい。この報告書を書き終えたら暇ができる。行って見ようではないか。 ←Back Next→ |