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満月





「ハルク殿は男性だろう?」



そう言ったヒューゴの声に僕は何か不快感を覚えた。


試すような、なにかだった。

僕はすぐに睨んだ。



僕はアイツを父だと思わない。

否、思いたくもない。



そう考えているとき、ハルクは同意の声を出した。

僕は心底驚いた。

それと同時に、コイツは男だったと改めて実感した。













『坊ちゃん!起きて下さい!ハルクが居ないんですよ!!』






「!……ハルク?」


ふと目を覚ますと、隣のベッドにいたはずのアイツがいなかった。

こんな真夜中にどこに行ったんだ?
まぁ、まだ今日は満月なだけマシか。

そんな事を考えていると、机の上にアイツの刀が置いてあったのが視界に入った。




丸腰でどこに?
そう思って、僕はハルクを探しに屋敷を出た。













#name_1##はおかしな奴だった。
マリアンの弟というが、髪や瞳の色も全く違うし、顔だってあまり似ていない。
ただ、微笑んだ顔はマリアンそっくりだった。




最初は女かと思っていた。
髪は僕より短いが、女のような雰囲気があった。
だが性格は妙に男らしい。
何より正義感が強く、スタンを思い出させる。


「スタン、か」



神の眼を奪還してから数日。


スタン達と会わなくてせいせいする。
まぁ、気が向いたらまた旅に同行してやってもいいが、と思う。






以前は、僕には



シャルとマリアンだけいればいいんだ、




と考えていたのに、と自分を嘲笑う。






『坊ちゃん。あれ、ハルクじゃないですか??』


目を凝らしてみると、確かにハルクだった。

アイツは丘にあぐらをかいて月を眺めていた。
後ろ姿をみると女そのものだ、とぼんやり考えた。



「おい、そこで何をしている?」



「っ?!」



そう振り向いたハルクの瞳にはうっすら涙が浮いていた。



『ど、どうしたんですか!?』
シャルは心配したように声を荒げる。


僕も少しおどろいて、横に腰をおろした。

座ると意外と距離が狭くて、間にシャルをおろした。




『黙って聞いてやれ』


キースは優しく言い、トパーズを光らした。



「……今日、は大切な人たちの命日なんだ。」

そう呟いたハルクは泣いているんだろう。
あぐらを直して膝に顔を埋めていた。


「人たち、だと?」
僕はくわしく聞こうと問い掛けた。







「ある日、僕の家で無差別殺人があった。犯人の名前はバルバトス。」


「なんだと?!」
『何ですってぇ!?』

僕とシャルの声が微妙に重なる。



バルバトスとは、確か天地戦争の時に裏切り、ディムロスと一騎討ちして敗北して死んだはずだ。

しかも1000年前に。



「な、に?一体どうやって?!」


『そうですよ!もし、あいつの人格投射がされたとしても、肉体がないじゃないですか!』





「そう。だから取り憑いた」




ハルクの声だけやけに鮮明に聞こえる。いつもより少し高い声が耳に響く。






『それは、使用人であるハルクの恋人に乗り移った。』



恋人?女が殺したのか?
キースはすでに知っているのだろうか?


落ち着いてこそいるが、憎しみが残っている声だ。






「僕の家には、バルバトスの斧があった。皮肉だが、それを家宝として奉っていた。」


『……それで、どうなったんですか?』
シャルがおずおずと問う。




「……トリスに乗り移ったバルバトスは気絶つしていた姉さんを人質にとった。」




「マリアンを?!」




僕はつい、マリアンと言う言葉に反応してしまった。
そんな空気ではなかったのだが。
そんな僕をみてハルクはうっすら笑った。











「うん。だから僕はトリスと戦った。」












つらかった、とかすれた声が聞こえた。

『ふん、本当にバルバトスは屑だな。愛しい者に取り憑くとは。』


「戦えるのは僕1人だったからね。まぁ、負けてしまって、僕は背中に大怪我をした。」
ハルクは、無意識なのか背中をさする。


『そんな……』

シャルはコアクリスタルを弱く光らせた。

「僕が喉に斧を構えられた時、トリスは意識を取り戻した。」



「意識を!?……それはかなりの気力だな」
取り憑かれた人間が意識を取り戻すなど、余程の気力があるのだろう。




「リオン」


ハルクはやっと顔あげて、僕を見た。




ハルクの黄色い瞳がまるで満月みたいだ、と魅せられた。



「リオン、トリスはすごいんだよ。強くて優しくて、いつも僕らを守ってくれた。
僕が殺されそう、に、なった時も同じ。」


またハルクの目から涙が溢れた。





『ハルク、』





キースが優しく声をかける。





「トリス、は自分で自害した。僕らを守るために。」













僕の見た初めてのハルクの表情は、悲しみを帯びたマリアンの瞳にそっくりで、








ひどく、綺麗だった。








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