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生まれた疑惑
「エミリオ、久しぶりの紅茶はどうかしら?」
「ああ、おいしいよ。マリアン」
いつもの午後、僕はマリアンと紅茶を飲んでいた。
やっと恐ろしい量の仕事が終わり、久々のマリアンとのお茶会を満喫していた。
「エミリオ、ハルクはどう?ちゃんと仕事をしているかしら?」
マリアンの口から不意に出た名前に、少し反応する。
「ああ、足手まといだよ。全く」
そう言うと、マリアンが本当は?とにっこり微笑んでくる。
かなわないな、マリアンには。
僕は少し周りを見てから、口を開いた。
「強いよアイツは。明るくて周りからよく信頼されていて……今日もヒューゴ様から単独任務を受けているよ。」
徐々に赤くなっていく僕を見て、マリアンは少し驚きながら微笑んだ。
「変わったわね、エミリオ。あなたが人を誉めるなんて」
「失礼だな。僕だって、褒めたりするさ」
僕は笑いながら言うと、マリアンは綺麗に笑った。
「そうかしら?ねぇ、エミリオ。ハルクとはいい友達になったかしら?」
「とも、だち?」
僕は小さく復唱した。
どちらかというと、上司と部下なのだが……。
僕が口を開こうとしたら、マリアンがそれを遮った。
「あのこ、変に強がるの。自分より他人を大切にして、守られることが大嫌いで、大切な人ほど守りたがるのよ。」
大切な人ほど、か。
以前ハルクに言われたあの言葉を思い出した。
あの時も少し赤面してしまったが、そのことを今聞いて僕はさらに赤くなっしまった。
まるで母親だな、と呟くとマリアンは悲しそうに笑った。
「そうね、私もハルクは唯一の肉親だから」
「!……そう、なのか」
しまった。
そんなこと一回も聞いていなかった。
「やだ、エミリオ。そんな顔しないでよ」
余程酷い顔をしていたのだろう。
僕としたことが、マリアンに気を遣わせてしまった。
「マリア「エミリオ。私から、一生に一度のお願いをしていいかしら?」
「……お願い?」
普段お願いなんかしないマリアンに少し不安や期待を覚えながら、僕は呟いた。
「どうか、どうか」
「あのこを、ハルクを守ってくれないかしら?」
「ハルク、を?」
僕はひどく驚いた。
ハルクか、僕はマリアンを守りたいなどと言ったら最低だろうか?
「ええ。ハルクはあなたに凄く懐いているわ。小さい頃は、全然心を開かなかったの。」
驚いた。あんなに明るい奴が。
思わず、リオン!と笑うハルクが瞼に映った。
マリアンはまだ言い足りないように続ける。
「それこそトリスさんのおかげで……」
マリアンはそこで言葉を切り、しまったと顔をしかめた。
「大丈夫。ハルクから聞いたよ」
「そうなの?!……驚いたわ。他人にはトリスさんの事なかなか話したがらないのよ。」
他人、という言葉に思わず顔が強張った。他人、か。
マリアンに言われるとキツいな。
ハルクに言われるとどうなのか、と少し疑問が生まれた。
「トリスさんは使用人なのに、家族のように接してくれて、紳士で、ハルクにとっていい恋人だったわ」
マリアンがそう言ったと同時に、僕には最大の疑問が生まれた。
「トリスとは、男、なのか??」
僕が言った瞬間、マリアンの目は大きく見開かれた。
「(しまったぁぁぁ!!ハルクちゃんは今男装中だったわ!!どうしようかしら……。…っ!!ごめんなさい……これもあなたを守るためよ…っ!)」
「どうしたんだ??マリアン?」
マリアンはそのまま一瞬動かなくなったが、直ぐにゆっくりと微笑む。
「エミリオ、落ち着いて聞いて。
実はっ…!!」
マリアンが息を飲むのがわかる。
「ま、マリアン?」
一体なんだと言うんだ。
僕は眉をひそめた。
「ハルク、は……ホモなのよ」
ほ、も?ホモ?……ホモ?!
「……んなっ?なにぃぃぃぃぃぃ!!!???」
僕は初めて本気で叫んだ。
「っくしっ!……早く帰ろー」
『風邪か?馬鹿なのに?』
「るっさいなー」
そう呟くハルクに伝わることはなかった。
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