短編
絵草紙(銀♀桂←土/学パロ/微切)
※銀さんは先生ではなく、同じ学年です。
桂小太郎。
この銀魂高校に通っていてその名前を知らない奴はいない。
まじめで成績優秀で運動も出来て、先生にも気に入られている。
でも噂になっているのはそんなことではない。
彼女はとても美しいらしいのだ。
らしい、というのは俺は一度もそいつを見たことがないから。
正直美人とかそんなのに興味ない。
興味ない俺の耳にも入ってくると言うことは、それくらい綺麗なんだろう。
同じクラスの奴、廊下ですれ違う名前も知らない野郎。
とにかくそいつの名前を聞かない日なんてないくらい。
俺は幸か不幸か同じ学年だと言うのに、この春休みが終わったら3年生になるであろう今でも見たことがなかった。
なんでそんな奴のことを考えているのかと言うと、春休みでも剣道部の練習はある。
一応強豪校なので、厳しい部活動。そのわずかな休み時間に、後輩の奴らが話していたのだ。内容は、「春休みなのに桂さんに会えたー!」とかなんとか。
なんて府抜けた連中だ。俺は後輩に対して怒っていたが、その噂になっている女にもムカついていた。別に噂される本人は悪くないだろーが、俺にとっては悪い。そいつのせいで部活に身が入らない奴がいるのは事実だから。
そんなことがあって、まだ見ぬ誰かに対して俺はいらいらしていた。
あータバコ吸いてーな。
でも家に帰るまで我慢だな。吸ってるところ誰かに見られたらめんどくせーし。
なんてことを考えている時、帰り道の途中にある公園で騒がしい声が聞こえた。
今は夜の9時過ぎ。こんな時間に騒ぐなんてどうしようもねー奴らなんだろうな。
ふと見ると、ガラの悪い奴らに女が一人囲まれている。
あいつらの仲間・・・じゃないよな。助けた方がいいんだろうか。
なんて俺が考えている時に、さっきまで男の陰に隠れていた女が見えた。
思考が止まった。頭が真っ白になった。
なんで?なにが?
その女が・・・綺麗、だったから。
暗い中でもはえる白い肌。懐中電灯の少ない光でも反射するくらいキラキラ輝く髪。
そしてなにより、今まで見たことないくらい美しい顔。
そこでハッと気づく。
いやいや俺何考えてんだよ?!
そんなことより助けた方がいいだろ。
って思って足を踏み出そうとした直後。
「ぐあーっ!!!」
思わず足を進めるのを止めた。
その名前も知らない美しい女は、これまた美しい蹴りを放った。
それがあまりにも綺麗で、また思考が止まった。
残りの男の一人が
「てめーなにしてんだよ!ちょっと綺麗だからって調子乗るな!」
そう言って一斉に襲い掛かった。
普通絵本ならここでさっそうと王子とやらが現れて、姫を救うだろう。
でも女は強かった。的確に急所を次々と突く。
すばやく、美しく。
最後の一人は一本背負いでかっこよく決めた。
なんなんだこいつ。
って思った瞬間。
そいつは一瞬で俺のところまで来て肘鉄を顔面にくらった。
と思ったんだが、実際はスレスレのところで止まっていたらしい。
それを防げなかったことよりも、なんで止まったんだろうと考えた。
その時、よく聞きなれた声が聞こえた。
「こらこらーなにしてんのヅラー」
どうやら俺が攻撃を受けなかったのは、そいつが女の腕を掴んで止めたみたいだ。
「ヅラじゃない!止めるな銀時!」
「いやいやこいつチンピラ共の仲間じゃないからね。うちの学校のやつだよ。ごめんねー多串くーん。」
「多串じゃねーって何回言ったらわかる。」
なんでこんな時に最悪な野郎に会わなきゃいけないんだ。
こいつは俺と同じクラスの坂田銀時。
正直大嫌いなタイプだ。関わりたくもない。
だけどこの様子だと、俺が今一番気になってるそいつの知り合いらしい。こいつは。
「む、そうなのか?黙ってこっちをずっと見ているからてっきりこいつらの親玉かと思った。」
「いや、助けようと思ってたんだけど、どうやらその必要もなかったらしいな。」
「すまなかったな。俺は桂小太郎と申す。」
「かつら?こたろう?」
目を見開いて見た。こいつが噂の。
なるほど、これは噂になると一人で納得してると、
「だからなんで一人で歩いてたんだよヅラー。」
「ヅラじゃない!貴様がコンビニでアイスをバニラにするかチョコにするか悩んでる間に、エリザベスっぽいものが通ってな。気になって付いていったらこうなった。」
「こうなったじゃねーよバカ。本当にバカだなお前。ちょっとくらい待ってろよボケ。てゆうかエリザベスっぽいものってなんだコラ。あんなもんが他にもあってたまるか。」
「エリーをバカにするな。だから貴様はクルクルパーなんだ。」
「頭の中が?!それとも外か?!外のこと言ってんのかこのやろー!!てゆうかてめー何普通にチンピラ共倒してんだよ!ここは俺がかっこよく助けて銀様素敵!って言うところだろうが!!」
「なにを言っているのだ?銀時。」
意味不明と桂が顔をしかめているのを見て、冷静に思う。
こいつらはまぁそういう仲なんだと。
失恋だと。
まだ何も始まってないのに、失恋も何もないよなって自分に笑いたくなる。
「てゆうか、てめーらの漫才に付き合ってる暇なんかないんだよ!じゃあな。」
一応挨拶だけして足早に去る。
なんだかこの空間に少しでも早く抜け出したかったから。
「ばいばい多串くーん。」
というムカつく声には反応しない。
曲がり角を曲がる時、なんとなく振り返った。
あいつはさっきとは違い、優しい手つきで桂の髪を撫でていた。
そしてその手を肩において抱き寄せた。
桂はあいつの腰に手を回して、怒った顔でなにかを言ってた。
きっとまたあいつが名前を変な呼び方したんだろう。
でも桂は本気で怒ってない、さっき男に囲まれた時の真剣な顔とは全然違う。
あ、そういえば俺その時あいつの攻撃に一歩も動けなかったんだ。
いつもならそんなこと許さず、絶対やり返すのに。
しかも女なら更にプライドが傷つく。
でもそんなことどうでもいいと思うくらい今の俺は可笑しい。
なんて思っている間に、あいつらは手をつないで幸せそうに俺とは反対方向に歩いていった。
俺は後悔してる。
なにに?
振り返ったことに?
違う。
もっと前に会っておきたかった。
せめて失恋をする前に、ちゃんと恋と呼べるものが出来るくらい。
でももうきっと会うこともない。
2年もいて一度も会わなかったのだから。
潔く諦めるのが武士ってもんだろ。
いや、剣道部だけど武士じゃねぇか。
未練がましくいるなんて俺らしくない、スッパリ諦めるぜ。
前言撤回。
俺はやっぱり諦めるのやめようかな。
というのも、
「これからよろしくな。多串とやら。」
「いや、名前違う・・・」
これもあの白髪が吹き込んだのだろうかと思うとむかつくが、
桂と同じクラスで隣の席という奇跡に今ならなんでも出来る気がする。
俺は決めた。諦めるのを止める。
武士らしくなんかなくてもいい、こんな気持ちになったのは初めてだから。
惨めでも、かっこ悪くても、しがみついてやろうじゃん。
「おーいヅラー、帰るべー。」
「おい、白髪天パやろー。」
3年間同じクラスになっちまったムカつくやろう。
とりあえず、
「俺、こいつのこと好きになっちまったから、よろしく。」
桂を指差して宣戦布告。
周りが騒いでて、俺の言葉なんてかき消された。
でもあの白髪にはちゃんと届いたみたいだ、その証拠に。
いつもはやる気のなさそうで余裕のある顔が、一瞬歪んだのを見て笑ってしまった。
これならば、まだ付け入るすきはありそうだ。
俺はこの恋をまだ諦めそうにない。
どんな結果になろうと、今を楽しむことにしようじゃねぇか。
Fin
後書き
余裕の銀さん慌てれば良いさ、ふふふ。
今回初登場の土方でした。いいとこなしですね。
次はもっと2人の邪魔をさせて、銀さんが焼きもちやくの書きたいなー(o^∇^)o←
そして桂さん女の子設定ですが、全く生かせなかった…
もっと頑張らねば!
読んでくださった方、
ありがとうございました。
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