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悪魔の求婚
7話
「シャルティアの様に、守備範囲外からの攻撃じゃない限り攻撃して来ない保証はない!」
警戒を呼びかける。
ヘマタイトはシャルティアと違い移動している。
何の違いかは分からない。
ようやく、森の中で、目視で捕らえられた。
美しい宝石の様な黒色と赤色の宝石が輝いていた。
「ヘマタイトさん聞こえますか?」
シャルティアと違い、こちらに視線を向けてくる。
「ザザッ……ピーー………」
機械のエラー音の様な何が聞こえる。
「ヘマタイトさん!!」
大声で呼んでみる。
「ザザッ……ガガッ」
モモンガには聞き覚えがある。
これは病院で聞いた機械音だ。
「俺の声が聞こえませんか!」
「……モモンガさん」
掠れた声だった。
ベッドに貼り付けにされたヘマタイトの声。
「ごめんなさい。」
「大丈夫です。
必ず俺が貴方を」
今度こそは救う。
決意を込めて杖を握る。
「ヘマタイトさ」
大粒の涙が彼女から溢れ出ている。
体には所々傷跡が見える。
「ねえモモンガさん。」
いつ見ても、その視線は優しいものだった。
決意が揺らぎそうになる。
今から、自分は戦友を殺すのだ。
これが、今生の別れになるかもしれない。
「ねぇ、ももんがさん」
真っ黒の両刃剣が握られている。
「はい、ヘマタイトさん」
何処までも美しい化け物がそこにいた。
「まだいるね。隠れても無駄だから
私を?
なにを……ガッザザザザ」
壊れた機械音がする。
聞き取れない言葉が憎らしい。
コキュートスの大太刀が振られる。
一瞬のうちに、ヘマタイトはその剣から遥か遠くに逃げ果せる。
「分かっているな!ヘマタイトさんにスキルを全部使わせろ!体力を8割は削りきれ!
でなければ、撤退する!!」
「心得テマス。シカシ、流石ヘマタイト様。何一ツ当ッテイマセン。」
「これが、アインズ様をただお一人で守って来られたヘマタイト様のお力」
二人はその姿に感銘を覚えた。
こんな状態でなければ、賞賛の意を捧げていた。
「みんなして、私を殺すの?」
その言葉に全員が動揺した。
「オ許シ下ダサイ」
コキュートスが斬り込む。
剣と剣がぶつかり、火花が散る。
「コレホド!!」
コキュートスの重い一撃と四連を剣一本で捌ききる。
「ジュデッカの凍結!」
ヘマタイトの動きが止まる。
コキュートスの剣がその隙を狙うが、その剣はヘマタイトに届かない。
コンクリートをぶち叩くような音が響く。
「ウロボロスの鱗か!」
勢いを殺すように飛んでいく。
「コキュートス、破れたか?」
「破レテイナイ。勢イヲ殺サレタ」
瞬時に見えなくなったが、彼女の周りには蛇がとぐろを巻いたような幻影が見えていた。
「まさか、この攻防で無傷とは……
我らの主人は流石だと思わないかい?
ようやく、スキルが一つだよ。」
生命の精髄ライフ・エッセンスを発動させたデミウルゴスは大きくため息をつく。
「シカシ、ヤラナクテハ。」
体制を立て直して、ヘマタイトの動きが止まる。
元々はシャルティアがいた方角を見ている。
「そちらには……行けない。
やめて、やめてよ……
いやだ。」
頭を剣の柄で殴った。
あまりの出来事に守護者二人は、追い討ちをかけ忘れてしまう。
「私は……殺したくない」
その一言でようやく分かった。
ヘマタイトは自力でこの森まで歩いてきたのだと。
シャルティアを巻き込まないため、身を傷つけながら、意志は浸食されてなお、堅牢に保たれている。
あまりに悲痛な言葉だった。
「ヘマタイト様!!」
デミウルゴスが爪を振りかぶり、その隙をついたようにコキュートスがヘマタイトの鱗を削っていく。
しかし、決定打にならない。
「遅い」
ヘマタイトの剣がコキュートスの腕を切り落としにかかる。
「ウデ一ツデ!恩方ヲオ救イデキルノナラ!」
放物線を描き、コキュートスの腕が飛ぶ。
合わせて、ウロボロスのウロコは砕かれ、遠征用の下級装備がヘマタイトの上半身を切り裂いた。
鮮血を撒き散らしながら、全身をのけぞらせる。
「このッ」
それでもヘマタイトの剣は止まらない。
また一つ、鮮血が散った。
「な、ん」
ヘマタイトの黒剣が、デミウルゴスの腹を貫いている。
コキュートスが距離を取るのが見える。
遠くでドーム状の何かが見える。
「どうか、ヘマタイト様」
デミウルゴスは剣と、ヘマタイトの肩をしっかりと掴む。
「モモンガさん…デミウルゴスごと私を殺す気!?
離して!離しせ!」
アインズが、守護者共々自分を殺そうとしているのが分かる。
「それだけは聞けません!」
さらに一層、掴む力を強くする。
デミウルゴスは本気がここでようやくヘマタイトに伝わった。
「ウルベルトがここを去ったのは私のせいだぞ!こんなクソ野郎の為に死ぬことなんてない!!
自分が何をしているのかわかっているのか!」
「その言葉には意を唱えます!恩方はここで我々の側に生きてくださるだけで、我々の存在意義です!
貴方をお救いする、これ程の名誉の死が私にあるでしょうか!
ウルベルト様は去り際まで貴方の幸せを願っていました!」
「は?私の幸せ??
なにを、
ウルベルトはいつだって!私でなくても良かっただろう?
お前だってそうだろう。」
赤い瞳が細められる。
デミウルゴスはその光景に息が出来なかった。
「ヘマタイト様、私は……」
「お前は残るなら、ウルベルトの方が良かったはずだ。」
鮮血が涙のように彼女の顔を濡らしている。
モモンガの超位魔法を睨みつけた。
「安息の地へと至らん……アイギス!!」
地響きが鳴る。
大きな盾が空中に現れる。
超位魔法を受け止めている。
これがヘマタイト最強の盾だ。
腕の骨が砕ける音がする。
「あああああっ」
痛いけれど、これ以上痛いものを知っている。
「重いんだけど!?モモンガさんの超位魔法か!?」
流石、うちのギルド長だ!と悪態をつく。
「ヘマタイト様」
「話しかけないで!気が散る!お前まで死ぬからね!?」
「ヘマタイト様、私は……貴方だから、幸せにしたいのです。」
「今言う事かなぁ!?」
「はい。今言うべき事です。」
「だから、このタイミング考えて!?」
「ヘマタイト様、私は貴方だからいいのです。私は貴方をお慕い申し上げいます。」
開かれた宝石の目がキラキラと輝いていた。
「私の欲しい物が、何か問われましたね。あの時、私は答えを導き出すことは出来ませんでした。
不甲斐ない私をお許しください。
もし、許されるなら!御身を頂きたい!
お命も!お優しさも!幸せも!悲しみも!
ヘマタイト様が幸せになるのなら!
なんだって捧げて見せましょう!
私は、ヘマタイト様......だから、そう思っています。」
超位魔法で、ほとんど目が眩んでしまってみることが出来ない。
「っ」」
デミウルゴスは分かってしまった。
自分を地面へ押し倒して身をかがめているのは紛れもなくヘマタイトだと。
(最後まで、御身は私を……そんなッ!
それが今なのですか!何故今!庇われるのですか!)
ワールドアイテムを使用されて、意識さえ朦朧としているデミウルゴスの上に重なっている。
「あっ......くそう
悔しいな。ちゃんと装備があればなぁ。」
超位魔法を受けきったヘマタイトは満身創痍だ。
スタミナも、今ので切れてしまった。
「ドウカ、我々ヲ許サナイデ下サイ。」
カボチャが切れるようにヘマタイトの首を落とした。
後に、蘇生は成功したものの、ヘマタイトは目覚めなかった。
彼女は大事なものを何処かで落としてきてしまった。














私の視界には見慣れない人影ある。
視力らしい視力は残っていない。
影がわかるほどだった。
「ヘマタイトさん」
握られた手は力強くヘルパーさんでない。
声もかろうじて聞こえるだけだ。
「また、来ます。」
そういって、去っていった。
毎日毎日代わる代わる誰かがくる。
花が好きだろうと部屋に花が飾られる。
紅茶がお好きだったでしょう?香りだけでもと、女が笑う。
子供が何人か来て、ベッド上でトランプをする。
小鳥のような笑い声が響く。
「ヘマタイトさん」
誰かが頭を撫でた。
それも今までの記憶には見慣れない。
違う名前で、皆優しく声をかけてくる。
痛みらしい痛みはなかった。
骨を削られることもない、肉をえぐられることもない。
水分が極限まで、削られて、渇きに飢えることもない。
何故、みんなそんなにも優しいんだろう?
病室に見慣れないオレンジ色があった。
声帯を潰された、吃った声が出る。
その影はベッドの脇で泣いていた。
「何故、恩方である御身がこの様な目に合わないとならないのですか、
ウルベルト様にお会いしたかっただけでしょう!
何故、これを甘んじて受けていらしゃるのですか!
命令して下さい。
即座にその要因を取り払いましょう。
いいえ、もう命令されなくても、私は……」
何を嘆く事があるのか。
(ごめんね、貴方が誰かわからないけど、
貴方を慰めれる手もないんだ)
人影が近くなる。
「ヘマタイト様、腕も足も目もあります。
此処は、至高なる恩方がお作りになったナザリックです。」
手に誰かの手が握られるの分かる。
温かみはあるのに硬い手だ。


ザザザザッ……


ノイズが走る。
「どれだけ、御身が生きるのが苦しみでも
私はヘマタイト様に生きていて欲しいと願いました。
此処に御身の幸せはあるのですか。」
そんなに、何を嘆く必要があるのか。
大切な約束を守れず、最後まで待つ事が許された。
満たされていた筈なんだ。
「ヘマタイト様、私を置いて行かないでください。」


ガリッ……


頭蓋の裏に爪を立てる様に音を立てた。
何より、自分が嫌った言葉だ。
誰かが同じ思いをしている。
「っ……」
無い腕や足が痛む。
「御身に刃を向けた私はどの様な罰でも、受けましょう。
アインズ様はお許しになりましたが、私は私が許せない。
何故、あの日ヘマタイト様と共に向かわなかったのか……毎日後悔のみが積もっていきます。
御身が目覚めるなら、即時自害でもなんでも行いましょう。」
必死な呼びかけだった。
しかし、一点に置いて、怒りを覚える部分があった。
「私をッ自害の理由にするなよ……」
赤い瞳がしっかりと悪魔を写した瞬間だった。
「ヘマタイト様!?」
「あぁ、カッコ悪いとこ見られたなぁ……これは立ち直れないかも」
「では!ナザリック総力をあげてヘマタイト様をお世話させて頂きます!」
「何故かなぁ!?なんでそっち行くかな!?」
随分砕けた感じのリアクションの大きいヘマタイトを見て、通常はこの様な方なのだと理解はした。
軽蔑や落胆の気持ちは湧かなかった。
きっとそれを含めて、信頼する僕に含まれていなかったのだろう。
その事実に、落胆さえ覚える。
「デミウルゴス、貴方死ななかったよね?大丈夫よね?
ごめんね、痛かったでしょう……
……うわ、コキュートスに顔向け出来ない。腕飛ばしてしまったよ……」
ベッドから起き上がり、体を折りたたみ小さくなる御身は、今までウルベルトしか、多分知り得ないヘマタイトの姿。
これから行うのは、忠実な僕の像からかけ離れた行為だ。
「あの時のお返事を頂けませんでしょうか。」
「へ?」
「どうか、私に御身を頂きたい。」
「なんか、すごい悪魔の契約にしか聞こえないんですけどー!?」
悪魔が笑顔で微笑んでいる。
「私は、ヘマタイト様をお慕い申しあげます。」
3度目の告白だった。
「いやいや!?
それウルベルトがお前につけた設定だよね!?
そ、そんな頭お花畑じゃないから騙されないからね!!」
「ウルベルト様がお付けになったのは、ヘマタイト様のお側でお仕えする事と、貴方を幸せにするという内容だけです。」
「それがなにさ……」
「私の感情面の設定はされていません。
この気持ちは、私が導き出した答えです。」
デミウルゴスがどんどん近づいて来る。
思わず、ベッドの上の狭い範囲で後ずさりしてしまう。
この世界にセコムがいるなら、セコムを呼びたい。
人間のセコムなんて、この悪魔は笑いながら殺すだろうけど。
「ヘマタイト様、御身を愛しています。
至らないところがあるなら、仰って下さい。」
「あの、さ。近い」
壁まで追い詰められていた。
「わ、分かったから。
お前がその…ウルベルトの設定じゃないことは」
「では、受け入れ頂けると!」
ヘマタイトの腕をデミウルゴスが掴む。
「これほどまで、ああ
アルベドの気持ちが分かります。
お赦るしを頂ける事がこんなにも喜びに溢れているなどと」
「そこまでにして頂けませんか、デミウルゴス様」
「あ、セコムだ」
「セコム?
セコムではございません。セバスでございます。」
語呂がいいなーと扉から入って来たセバスがデミウルゴスを引き剥がそうとする。
「セバス、すでに私とヘマタイト様は相思相愛!
邪魔をしないで頂きたい!」
「どこをどう見ても、デミウルゴス様がヘマタイト様に迫っている様にしか見えませんが…」
「ああああっ!!ヘマタイト様ああああ」
デミウルゴスとセバスが睨み合いになっている間に、シャルティアが部屋に入ってくる。
涙を貯めているその小さな体に向けて手を広げてやると、吸い込まれる様に腕の中に入ってきた。
速さは凄まじいのに、勢いを腕に入るまでに殺してきている。
「シャルティア、よかった……」
腕の中の小さな体には怪我らしい怪我がない。
「ああ、よかった……
シャルティア守ってあげれなくてごめんね。」
「いいえ、ヘマタイト様が謝ることなど」
「いいや、謝ることだよ。
怖かっただろ、辛かっただろう。
痛かっただろう。」
シャルティアを囲む様に翼を曲げる。
「「ヘマタイト様っ!!」」
「アウラ、マーレも来たの。
ほら、おいで。まだ隣なら空いているよ。」
双子もシャルティアの横にくる。
「はは、少し大きさが足りないね……」
泣きる3人をよしよしと撫でる。
騒ぎを聞きつけて、メイドたちも集まってきた。
「ヘマタイトさん!!」
「あ、モモンガさんだ」
「どれだけ、心配したと…」
アインズがヘマタイトをその上から抱きしめる。
尋常じゃない重さがかかる。
「重い重い!!これ後ろからアルベドものしかかって……ええええ!?
コキュートスも!?嘘でしょ!?
貴方そんなキャラでしたけ!?」
アインズ、アルベド、コキュートスがのしかかってきている。
「シャルティアと双子が潰れるううう!」
潰れないように腕に力を入れる。
「ヘマタイト様、ぼく、潰れないと思いますよ。
大丈夫です。」
「そうですよ、ヘマタイト様!大丈夫です!」
「私も大丈夫でありんす!」
「いやいや!?子供を潰すわけには行かないでしょう!」
「あーヘマタイトさんだー」
「オラ!そこの骸骨!しんみりしないで!」
「ヘマタイトさん」
「え?ホントに大丈夫!?
私の名前を鳴き声みたいに言わないで!?
いだだだだだだ 顎いたい!とんがってるの刺さってる!
ん??おい待て、お前!パンドラズアクターか!!」
「あ、バレました?」
「じゃなかったら!コキュートスがモモンガさんに覆いかぶさるわけないもんね!」
「その観察眼!さすがでございます!
いやーもう少し…ヘマタイト様にくっついていたいなって」
「パンドラズアクター?そこをどいてもらいましょうか?ヘマタイト様と私の話が終わっていないのです。」
「えーどうせ、ろくでもないことでしょう?
この際です、ヘマタイト様宝物殿に住みませんか?
この悪魔は入ってこれませんよ。」
「そうですね、しばらくはその方がよろしいかもしれません。」
「セバスまで何を言うのです。」
「はいはい、私の自室はここですよー
部屋くらいゆっくりした……うわ」
扉の向こうで本物の骸骨が寂しそうに見てきている。
「はいはい!おふざけはここまで!
みんな離れる!
我らがギルド長のお帰りですよー。」
そう言うと、全員がその場から少し距離を置く。
「ヘマタイトさん、俺は……」
「はい、モモンガさん」
「私は、貴方を殺しました。」
「ですね。」
「もう、生き返れないかもしれない貴方を殺しました。」
「ええ、大変痛かったですけど、
まぁ向こうで生きていた時よりマシです。
元は私のミスですから、気にしてはいけません。」
「いいえ、私が……」
「ありがとうございます。
モモンガさん。」
「なにを……」
「私をナザリックに連れ戻してくれて。
貴方も辛かったでしょうに。
私が謝る事はあっても、貴方にはないんです。
貴方はずっと、私を独りしませんでした。」
「それは、ヘマタイトさんも」
「だから、今回は私がホントに悪いですよ…」
「貴方が此処で、生きて私と居てくれるなら、それで構わない。
ヘマタイトさんをこんな目に合わせた奴らには、アインズウルゴーンの恐怖を与えてやりましょう!」
「え。そっちにやる気出しちゃう?
いきなりテンションただ上がりされても困ります!」
「ヘマタイトさんに愛想を尽かされる前になんとかしなくては、ならない!」
「いや、だからさ!
気にしてないから!
流石に、ワールドアイテムは欲しいけど……」
「だそうだ。」
アインズが、守護者達を見ると、皆やる気に満ち溢れている。
「あの、みんな……」
「はい、必ずやワールドアイテムを奪取いたします。」
「ええ、ヘマタイト様がお望みとあれば!」
「ぼ、ぼくも頑張ります!」
「お優しいヘマタイト様を傷つける屑など、この世に存在する意義などございませんね。」
「セバス、珍しく君と意見が合うね。」
「なんで、うちの唯一の良心セコムが、モンペとかしてるのかな。」

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