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悪魔の求婚
6話
アインズとアルベドが話してから5分も経たず、彼はナザリックに帰還した多くの僕たちが出迎える。
それだけで、アルベドがいかに優秀かわかることだろう。
アインズにはそれを思うだけの心の余裕が沈静化により、出来ていた。
普通なら混乱と絶望感の中だっただろう。
「アルベド、伝言の件だが……」
シャルティアが裏切ったというのは事実かと言いかけた。
しかし、口に出してしまえば、事実になりそうで出なかった。
(ヘマタイトさんが、シャルティアに……)
そんな事は喉が裂けても言いたくはなかった。
メイドから指輪を受け取ると、玉座の間に転移する。
「さて、始める前に幾つか質問をさせてもらおう。シャルティアが反逆したとのことだが、同じ場所にいたセバスはどうなった? セバスは反逆していないのか?」
「はい。反逆の気配はございません」
「ならば、セバスから情報は収集したか?」
「はい。既に終わっております。
セバスの話では、野盗と遭遇。その後、シャルティアは野盗を捕獲するためにアジトに向かったとのことです。
その間に不審な点はなく、アインズ様への忠誠を口にしていたようです。
ヘマタイト様はシャルティアに同行されたと聞いています。」
「なるほど。つまりそれ以降、反旗を翻す何かが彼女にあったということか」
「はい。……それとシモベを二体、吸血鬼の花嫁を連れていたようですが、滅びているようです」
「……そうか。まぁ、あの程度の雑魚では……いや、滅びるようなことがあったということか。
そもそも、シャルティアに不意打ちを突いたとしても、ヘマタイトさんが一撃死はされないはずだ。
私に何か連絡があってもおかしくない。
ならば、ヘマタイトさんが対応出来ない一瞬でやられたことになる。」
Npc のキャラ一覧を見るとシャルティアの名前が黒くなっている。
ヘマタイトはログイン状態になっている。
「伝言……ヘマタイトさん聞こえますか?」
これはゲーム仕様上、死んでもフレンドチャットは繋がる。
『ザザッ………ピーーー…………ザザッ』
壊れたヘッドマイクの様な音がする。
血の気が引く様な音だ。
この音にアインズは聞き覚えがある。
「ヘマタイトさん……貴方、まさか」
シャルティアがヘマタイトを殺したわけではない。
一番最悪な答えが脳裏を過ぎる。
その不安も沈静化で収まってしまった。
「反逆とおもいますが」
「……この世界特有の存在、現象などによる、特殊な影響下にあるという線もあるのか?」
「分かりかねます。ですがシャルティアが反旗を翻したのは事実。討伐隊を至急、編成されることを進言いたします。
ヘマタイト様を手にかけた下僕は、この守護者統括アルベドとコキュートス、マーレが討伐します。」
そう、言い放った。
「ヘマタイトさんは…………」
キャラクターは生きている。
(そう、ヘマタイトさんは生きている。
生きてこの世界にはいるのに…
向こうで体が死んだらどうなるんだ?
ヘマタイトさんは生きているのか?)
要らぬ考えがグルグルと回る。
「アインズ様……」
「それで、シャルティアは今、何処にいるのだ? 所在は掴めているのか」
「申し訳ありません。未確認です。まずはシャルティアがナザリックに攻めてくることを考え、シャルティア直轄の部下達を拘束すると同時に、防御を固めるために第一階層にシモベを動かしておりました」
「そうか。ならばまずはシャルティアとヘマタイトさんの居場所を掴んでみるか。お前の姉のところに行くとしよう」
















誰かの呼ぶ声がする。
何度も何度もも呼ぶ声がした。
とても悪い夢を見ているようだ。
誰を探しているのだろう。
誰を殺さないといけなかったのだろう。
思い出せない。
「だれか、私を……」
否、殺してはならない。
だから、ここまで足を動かしてきたのだと。
何も無い空を見上げる。
見られた気がしたのに誰もいない。
「もう、殺してくれ」
自分がどんどん
擦り切れていく。














ザザッ……ピーピーザザッ……








「ヘマタイト様が生きておられる。
すぐにお迎えに上がりましょう!!」
ヘマタイトの安否をニグレドが確認したと、呼び出しがあった。
そこにはアインズの姿はなく、アルベドとコキュートスがいるのみだ。
がたりと音を立て、デミウルゴスが立ち上がる。
「何処に行くのかしら?」
背中を見せ、歩き出したデミウルゴスに投げかけられた声は静かなものであった。
「決まっております。私の部下を動かして──」
鞘走る音と絡み付いてくるような気配に振り返ったデミウルゴスは、刀──それも神器級アイテムを抜きはなったコキュートスを目に捉える。
「なるほど、私を呼び戻すと同時に、ここに来るように厳命したのは、こういうことですか。」
「その通りよ、デミウルゴス。……第七階層は私とアインズ様の連名で既に封鎖済みだし、シモベ達の掌握も終わったわ。あなたとアインズ様、どちらの命令に従うかは言うまでも無いことでしょ?」
「ヘマタイト様を見捨てると?」
針を刺すような殺気が流れる。
「愚かな、ヘマタイト様もアインズ様もお亡くなりになったどう責任を取るつもりです!」
「アインズ様はお戻りになるわ」
「その保証がどこにある!
ヘマタイト様も安否がしれないのですよ!」
「主人を信じなさい。それが創造された者のつとめよ。」
デミウルゴスは何もいえなかった。
主人への忠誠の形はそれぞれだ。
アルベドとデミウルゴスの忠誠の形は違う。
「必ず、アインズ様は戻ってこられる。
デミウルゴス、貴方の気持ちは少しはわかるつもりよ。」
その意味指すところは分かっていた。
だから、逆に納得いかない。
「ヘマタイト様の状態はアインズ様には心当たりがあるようだった。
最悪の場合は覚悟するように言われているわ
見捨てる訳ではない。シャルティア討伐後対応して下さるそうよ。
監視の僕も配備してある。行方知れずではないの。」
「両方詳しくお聞きしましょう。」
どかっとソファに座る。
「アインズ様は蘇生は肉体でなく、魂に行うとおしゃっていたわ。
魂さえ、あれば生き返らせることができる。
魂があればよ。
ヘマタイト様はもしかしたら、もう……生きかせらせることが出来ないかも知れないと言われたわ」
「ソレハ、マコトカ」
「ヘマタイト様は生き返ることをお望みでないの」
「な、馬鹿なことがあってたまるか!
ヘマタイト様がッ!不敬にも程がある!」
「ええ、わかっている。わかっているわ。
でもそれが事実なの。
受け入れて頂戴。」




















「私の友人の子供に手を出すな!」
そんな、心からの愛しさに溢れた声を聞いた。
「シャルティア!!」
あの必死の赤色を見た。
覚えているのはそこまで、最後まであの恩方は優しさに溢れていた。
玉座の間で目覚めた瞬間、シャルティアの脳内に焼きついたそれを思い、涙を流した。
嗚咽にまみれながら、ヘマタイトが自分を逃してくれたこと、精神支配が完了するまでに自分をあそこから転移させてくれたことを話した。
「ヘマタイト様あああああああ!!」
玉座の隅から隅を見渡しても、ヘマタイトの姿はなかった。
「アルベド!ヘマタイト様は何処に!?」
「ヘマタイト様の居場所は把握しているわ」
「今すぐ、お迎えに上がってくんなまし!
私はどう処罰されようと構いわないでありんす!
アインズ様!どうか、お慈悲を!ヘマタイト様を!」
喉が切れそうな叫びだった。
「シャルティア……ヘマタイト様を守護者複数人とアインズ様とで討伐が決まったわ。
貴方は、ここで待機よ。
貴方の罪はヘマタイト様が殺される姿をその目に焼き付ける事。」
「なっ……嘘でありんえ?
アインズ様がヘマタイト様を殺すはずありやせん。
アインズ様……」
「シャルティア、私を許して欲しい。
お前を解放したように、ヘマタイトさんを殺すしかないんだ。」
「わ、わかりしんた。
ヘマタイト様の蘇生を待ちなんす。」
「シャルティアなのね。そのヘマタイト様なんだけど
い、生き返らないかも知れないって」
アウラが悲しく告げる。
「なっ!?」
「ええええん」
マーレが横で大泣きをしている。
「討伐は、そうだな。
私とデミウルゴス、コキュートス、マーレで行う。アウラは先頭地域の警戒。後のものは、ナザリックの警備に当たれ。」
「「ハッ!」」
シャルティアを除いた守護者達が返事をする。
「作戦は、二時間後に行う。各自、準備せよ!!!」














玉座の間が解散となり、デミウルゴスだけが、アインズの部屋に呼ばれた。
「デミウルゴス、お前を討伐隊に入れたのは、
ウルベルトさんとヘマタイトさんが仲が良かったからだ。」
「はい。」
「ヘマタイトさんはよく、お前を見に7階層に顔を出していたな。
デミウルゴス、お前だけには伝えておこうと思う。
何故、ヘマタイトさんが7階層をログアウト場所にしていたかという事実を
ウルベルトさんとヘマタイトさんの間で、二人で会う約束をしていた。
だが、ウルベルトさんがいくら待ってもヘマタイトさんは現れなかった。
それから、二週間音信不通になった。
ウルベルトさんは激怒した。
二週間後、ヘマタイトさんがログインをした。
何故来なかったのだ!何故連絡の一つよこさなかった!
私もウルベルトさんがあんなにヘマタイトさんを怒る姿は初めて見た。
ヘマタイトさんは何も言い返さなかった。
ただ、ここでしか会えないのだと言った。
それからだ、ウルベルトさんがナザリックに顔を見てあまり出さなくなったのは……
ヘマタイトさんはずっとそれを気に病んでいた。」
アインズは大きくため息を吐いた。
「私は、ギルド長として、ヘマタイトさんに揉め事の理由をしつこく聞いた。
それが、どれだけヘマタイトさんを傷つけていたか、知らずに
彼女は、大怪我を負い、意識不明の重体だった。」
デミウルゴスの中で、数日前の夢の出来事が蘇る。
会いたくて、会いたくて、申し訳ない気持ちでいっぱいの夢。
「デミウルゴスが行なっている蘇生実験の失敗例を思い出してみろ」
「まさか……アインズ様、ヘマタイト様は………
生き返る事をお望みでない?」
「そうだ。
デミウルゴス、けして、断じて!
ウルベルトさんがナザリックを去ったのはヘマタイトさんのせいじゃない。
私が!俺が!別の理由をはっきり聞いている。
だから、違うんだ。分かって欲しい。」
空洞しかないのに、アインズの目には悲しみが溢れていた。
「お前になにかウルベルトさんが残していないか?
ヘマタイトさんが、生き返りたいと思う何かが残っていないか?」
アインズはデミウルゴスに説いた。
ヘマタイトが生き返れないかもしれない理由とそれを回避するかもしれない要因。
両方とも自分の創造主だ。
「アインズ様、私もけして、そのように思っていません。
何故なら!ウルベルト様は!私に!私達にこう設定されました!
ヘマタイト様を幸せにするようにと!
このデミウルゴスはさらにウルベルト様からお言葉を頂いています!
私がヘマタイト様を笑わせるようにするのだと!
ウルベルト様の分までお側にいて尽くして欲しいと
私は、ヘマタイト様を恨んだことなどありません。
体が動かない時も、彼の方は優しくお声をかけて下さいました。」
デミウルゴスは、しっかりとナザリックの支配者を見る。
「ヘマタイト様の生きる糧になるのはこの私です!私が必ず、ヘマタイト様をお救いしてみせます!
ウルベルト様の意思を必ず伝えて見せましょう。」
「デミウルゴス……」
アインズは言葉を失う。
やはり、そうだった。
デミウルゴスにはそういう設定が付け加えられていたのだと
(やっぱり、仲良しだったんじゃないですか。)
いつだって、ウルベルトを守るのはヘマタイトだった。
たが、今は違う。
彼の残した、理想の悪魔がヘマタイトを救おうとしている。
「私も、全力を尽くす。
ヘマタイトさんは手強いぞ。」
「はい、心得ています。」






















長い間ヘマタイトと2人で狩をすることがあった。
他の人がインしなくなっても、ヘマタイトはナザリックにあり続けた。
あの美しい黒色と赤色が戦場をかける姿は、俺にとってそれはそれは大事な宝石だった。
「モモンガさーん!!彼奴等の首はとってしまいましたよ。」
「は、はやいですよーヘマタイトさん」
スタミナ切れかけの骸骨が後を追う。
「ふはははっスタミナ管理がちょろ甘」
小鳥の笑い声の様に可愛らしい。
とても楽しそうにみえる。
けれど、いつも寂しさに満ちていた。
「ねぇ、モモンガさん。」
「なんですか?」
「ユグドラシルが終わるまで
もしかしたら、保たないかもしれない。」
今でもその悲しい音色を忘れられない。
ヘマタイトの中の人の体は四年前の事故により、ゆっくりと死に向かっていた。
「途中でイン出来なかったらごめんなさい。」
泣きそうなその声を誰が攻られただろう。
ユグドラシルでは、抱きしめることさえ叶わなかった。
「ヘマタイトさん、今度のおやすみの日、貴方に会いに行ってもいいですか?」
「え?」
「俺は直接貴方を見てみたい。
俺の友人を知らないところで失くしたくない。」
「あまり、オススメはしないですよ。」
次の休み、ヘマタイトに会いに行った。
それは裕福なやつしか入れない大型病院だった。
俺は実は甘く見ていたのかもしれない。
「はっはぁ………」
ガラス越しの彼女を見た瞬間言葉を失った。
なんで、どこもかしこも、カメラがあるのだ。
なぜ、彼女がナザリックでしか会えないと言ったか分かった。
彼女は生きながら、『見世物』になっていた。
両足が無くなっていた。
事故の時は片足だけを無くしたと聞いていた。
新しい包帯が巻かれていた。
利き手は手首から下だけの麻痺のはずだったが、利き手は根元から無い。
膨大な治療費は、裕福者の娯楽に寄より、成り立っていた。
目の前の小瓶はなんだ?
なぜ、黒い目玉が入って飾られている?
「俺は、俺は、」
今まで知らずに彼女に生きてと、言っていたのか。
「こんちには、モモンガさん」
掠れた聞き慣れた声が俺を優しく迎えてくれた。
「ヘマタイトさん…」
何気ないナザリックの話をしてくれた。
なんの音沙汰も無くなったら死んでると思って欲しいまで言われた。
俺は何も言えなかった。
「そうですね。」
わかりましたとしか言えない。
「じゃ、またナザリックで」
短い挨拶を交わし部屋を出た。
エレベーターに乗り込んだ時、すれ違う男の顔に見覚えがあった。
「え?」
俺は足を止めた。
「う、ウルベルトさん?」
「モモンガさん?」
病院の一階のカフェテラスに場所を移動して、同じ席を取った。
「ウルベルトさんお願いです。
お願いですから、ヘマタイトさんに会ってあげて下さい。
彼女はずっと待っているんですよ。」
しばらくぶりに会ったウルベルトは痩せていた。
「会えない。会わす顔がない。」
「なっ……そんな、そんな事言っている間にヘマタイトさんは死んでしまう!」
「モモンガさん、これは俺の問題なんだ。」
「いいえ、いいえ!!ヘマタイトさんの気持ちはどうなるんですか!」
そう聞いたウルベルトの顔が悲しさに満ちていた。
「モモンガさん、ヘマタイトの事そこまで思ってくれてありがとうございます。
大丈夫です。もうすぐ俺も決心がつきそうなんで」
「なんのですか。」
「それはな」












機械を外す音が聞こえる。
レイザーで焼かれてしまった視力ではもう影しか見えない。
「ーーーー」
掠れた声は音にならなかった。
誰がなんと言おうと、私は幸せの中にいた。

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