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悪魔の求婚
4話

「人間の村を助けに行った!?」
セバスの報告を聞いて目眩が起きそうになった。
アルベドを従者に連れて行ったようだが、なにぶん世界の戦力が未知のせいで、不安しかない。
「で、私には何もないと。
はぁ……」
身体中の空気が重いため息で抜ける思いだ。
別に癇癪でも起こしたい気分になる。
崩れ落ちるように椅子に座り、力なく尻尾がたれる。
片手で、顔を覆うと、セバスが指示を待つように側に控えているのを視界の端っこで見えた。
「わかった。
すぐ私も動こう。」
「ヘマタイト様」
セバスがなにか言いたげに口を噤む。
言いたい内容はわかる。
(流石にプレイヤーふたりとも居なくなるのは、NPCのメンタルに来るよね。)
姿勢を正し、足組をする。
「そう心配しなくていい。
アルベドを連れて、私を置いていった真意はもう分かっている。」
「さすがはヘマタイト様。
そこまでおわかりになられているとは。」
尻尾で床を撫でる。
「デミウルゴスを呼べ」
「ここにおります。
ヘマタイト様」
悪魔が扉を開ける。
「ナザリック中心広げている警戒網2割を解け。
そのリソースをモモンガさんに当てる。
村中心としできるだけ広げろ。
残り8割でナザリックを警戒、セバスはこの警戒態勢の間ナザリック防衛の司令官し、およびシャルティアをナザリック入り口に待機警戒とする。
私はモモンガさんが目立ってくれてる間にすることがあるからね。
任せたよ、セバス。」
「かしこまりました。」
「私はいかがしましょうか?」
「デミウルゴスは私と来い。」
椅子をたち、棚に手を伸ばす。
そこにある一つの指輪に手をとった。
嵌めると、ヘマタイトの姿が変わる。
「なんと」
「これは」
二人はそれに釘付けになる。
彼らの目にはヒレも鱗もなく長い尻尾もない。
小柄な人間の少女が立っている。
「さぁ行こうか。」
「そのお姿は」
「ああ、二人は見るのは初めてだね。
このアバターは私も少し気恥ずかしいから、そう穴があくように見ないでくれたら嬉しい。」
「「申し訳ございませんッ」」
「いや、怒ってるわけじゃないからそう謝らなくていい。
セバス、あとのことは頼んだ。
事が済んだら、デミウルゴスとすぐ戻る
さぁ、行くぞ」
デミウルゴスの肩に触り転移する。
入り口に転移すると、シャルティアの配下の吸血鬼がいた。
見栄えのよい美しい女性達だ。
「デミウルゴス様。それに…その人間は」
「口を慎め!」
「「くっ」」
デミウルゴスの言葉に皆腰を折り、跪く。
「やめなさい。」
「出過ぎた真似をいたしました。」
「間違えるのは仕方ないよ。
そうゆう作りの”アバター”だからね。
むしろ分かったら、”私が中途半端な出来損ないを作った"ということだ。
今度からデミウルゴスもそう怒らなくていいから、ちゃんと教えてあげなさい。」
「畏まりました。
こちらの方は、ヘマタイト様です。」
吸血鬼たちがその言葉に震えた。
「申し訳ございません、ヘマタイト様!」
「ありがとう。
これで、人間と変わらないということは、確認できた。
シャルティアにも伝えておいて。
人間の姿をした私がここを出入りしていることを」
「畏まりました。直ちに」
吸血鬼達が下がっていく。
入り口に差し掛かると、悪魔たちが出迎えにあった。
悪魔たちは、腰を折る。
「ん?これはどうゆうこと?」
吸血鬼たちはわからなかったのに、なぜ悪魔にはバレたのだろう。
「デミウルゴス?なぜ、お前の配下は腰をおっているの?」
「さて、私にも
私が連れている人間は特別だと思うのは明らかだと思いますが」
「デミウルゴス様がそのように喜ばれているのは、ヘマタイト様ご命令かと思いました。
お隣りにいる人間は、特別に用意された”道具”かと思いました。
しかし、今ははっきりと分かります。
デミウルゴス様のその物腰から、お隣りにいらっしゃるのは、ヘマタイト様御本人だと」
左下を見るとデミウルゴスの尻尾が横に揺れている。
「ん”……」
思わず笑ってしまう。
その視線に気がついたのか、デミウルゴスが意識的にその揺れを止める。
「お前たち」
気まずそうに部下を見る。
「連れ合いはデミウルゴスだけでいいから、あなた達は私がここを出ている間、ナザリックを守りきりなさい。
私はこのアバターのテストを行うから」
「それは」
皆、顔を見合わせる。
「すぐ戻るから、いい子に待っててね。
ほら、いくよ、デミウルゴス。」
「はい、直ちに!」
やることはシンプルだ。
いつものようにコンソールを開き、メンテナンス準備をしてみる。
「デミウルゴスには画面が見えないのね」
「ええ 真っ黒になっています。」
開いているのはシステムメンテナンス画面だ。
ユグドラシルのシステム管理ツールをバック画面で見ている。
「見ないほうが身のためだからいいか。
モモンガさんは見たら正気を失いかねないし」
主にガチャ確率がだが。
それを深く読みし過ぎたのか、デミウルゴスが息を飲む。
他の悪魔たちもその場に磔になった。
「今から、私が会いに行くのは別働隊だ。
しかも雇われ兵士で特に今回の襲撃には、関わっていなさそうな人間だけど
情報を集めるのにはちょうどいい」
検索パネルを操作し確認する。
(あーあー我ながらチートだね。
全部マップが手に取るように確認できる。
で、ここにいるのがおそらく別働隊だ。
のぶさんの野望でシミレーションしまくったかいがある。)
見えてしまえばなんてことはない。
地面に大まかな地理を書く。
「このあたりだ。
人間の反応がいくつかある。
レベルまではわからないからなんとも、言えないけど
姿とステータスを確認して、お前一人で押さえられないと分かったら、お前も含めにすぐに転移する。
お前の支配の呪言が利く相手なら、それを使用し出来るだけ情報を持ち帰りたい。
レベルの差が歴然なら、攫いやすい奴を一人攫って、距離を取り尋問しよう。
攫う場合も逃げる場合も、どんな状況だろうと私たちの姿は見られてはいけないからね。」
「かしこまりました。」
「じゃいくよ」
地面を蹴って走り出す。
この姿ではステータスとしてはだいぶ弱体化している。
デミウルゴスは、余裕で付いてきている。
視界が悪い森を縫いながら、目的の場所に着くと、アイテムで人間のステータスを確認する。
「10レベ前後だと……高いものでも17か。」
「では、手頃な人間を攫うのですね。」
「そうだね。
阻害アイテムを念のため使用する。
覗かれたら厄介だからね。
ちょうどいい実験も兼ねてやろうか。」
アイテムボックスから透明な瓶を二個取り出す。
その二個とも地面へぶちまけた。
その液体が1Mほどのスライムが現れる。
レベルも15ほどしかない雑魚だ。
「あの者たちを襲え、殺してもかわまん。
あの一番若い男性のみ なぶるだけにしなさい。
あれをなぶり終わったら、あちらの方向に投げて。」
スライムたちは意思をもっているように思える。
(あー。なるほど。)
アイテムによるモンスター召喚の実験も終えた。
スライムは生息するようだったので選択は間違いではない。
意思疎通もできるようだった。
しばらくすると、人間の悲鳴が響く。
反対側に歩いて向かうと、虫の息の青年が一人無様な姿で倒れていた。
意識はすでに沈んでいる。
「これを持ち帰り、さきほどお願いした支配の呪言をかけよう。」
男を両手に抱える。
「いけません、ヘマタイト様お手が汚れます。」
「いいんだよ。
仕事は、最後まできっちりやらなくてはね。」












捕まえてきた男をデミウルゴスに任せて、ヘマタイトは汚れた手や体をの配下たちが湯で吹いてくれた。
血で汚れた手をモモンガが帰るまで、そのままでいようかと思っていたが、ユリがそれを許さなかった。
『もしもし、ヘマタイトさん』
伝言でモモンガが話しかけてきた。
もう途切れ途切れのしょぼしょぼしたモモンガの声だ。
『もうすぐナザリックに戻れそうです』
「さいで」
『うっ、怒ってますよね』
「そりゃそうです。
社会人、報告連絡相談が大切ですよ。
まぁお声から察するに、相当反省されているようなので、今回限りにして下さい。」
『ヘマタイトさん!』
声色がいきなり明るくなる。
この短いやり取りで、ヘマタイトがそんなに怒っていないということが伝わったらしいく、すぐ帰る!と切られてしまった。
「存外、私もモモンガさんに甘い。
そろそろお灸を据えるべきかな。」
そう独り言を言うとこの世の終わりかのいう顔色でシャルティアとユリがこちらを見ていた。
「大丈夫、そんなにひどいことは言わないから」
「お優しいヘマタイト様ですから、不敬な事は思っても」
「そうでありんす!ただ、その
至高なる御方であるお二人が仲違いされるところは見たくないでありんす。」
「シャルティア様!」
ユリがシャルティアを止める。
ヘマタイトはよしよしと二人の頭をなでた。
「大丈夫。
モモンガさんに間違っていると言えるのは私だけだから
嫌な役回りでもやらないといけないの。
分かってね」
「さぁて、私は自室でモモンガさんを待ってるから伝えといてね。」
















しばらくして、人払いした自室にモモンガがきた。
村を救ったこととこちらのお金をいくらか手に入れたこと、離れたところに街があるということを聞いたらしい。
「で、次は冒険者として出たいと!?」
次はちゃんと相談しましたよっと形の変わらない骸骨が、笑顔に立っている幻覚が見える。
「NPCたちは、けして人間に友好的とは言えない。
なので、部をわきまえている俺がいくべきだと思いました。」
「それはそうでしょうけど」
人間なんて、ゴミか美味しい食料だと思っているだろう。
「それだったら私のほうがいいでしょう。」
「ヘマタイトさんの見た目で人間のフリは難しいのではないでしょうか。」
しっぽもあるし角も翼もある。
シルエットさえ真似ができない
「人間のフリではなく、人間になれば問題ないです。」
指輪をつけると、一回り小さな人間の姿になる。
「ヘマタイトさんそんなレアな指輪もっていたんですか!?
種族変更なんて!」
「種族変更じゃなくて、アカウント切り替えです。」
「アカウント切り替え?」
「そうです。私はユグドラシルに複数アカウントがあるんです。」
「え?!初耳ですよ!?」
「そりゃ言ってませんからね。
こっちは仕事でつかっていたので、機密保持契約上いえませんでしたから。
こっちはユグドラシルの運営に使用していたアカウントです。
運営側といってもアイテムグラフィックと機能を作ることだけど
この姿なら人間に紛れることも容易です。」
「ええー」
「まぁ、モモンガさんのことです。
冒険の匂いでわくわくしてるんですね。
いいですよ。」
「本当に!?」
「私もナザリックを出ます。」
「いや!だから!
ふたりとも出たらNPCたちが」
「ちゃーんと準備すれば問題ないと思う。」
「準備ですか?」
「そうです。モモンガさんは冒険者としてやってくれていいです。
私は情報を集めをします。」
「情報集めって」
「転移の魔法を使ってできるだけNPCのそばに居るようにします。
やることは、素材がアイテム作成できるものかの確認を急ぐ形です。
冒険者として専念した場合は普通に手に入るものや、商人情報はおろそかになるでしょう?
NPCのあの子達には、小まめに命令をだしましょう。
私達の役に立とうと必死なだけなようですし」
「ううっ、ヘマタイトさんにはゆっくりしてて欲しいんですが」
「心配はいりません。
すこぶる体調はいいんです。」
「危ないです」
「私はモモンガさんより物理的には強いです。」
「ヘマタイトさんはお体が」
「心配してくださるのは結構ですけど、楽しみを分かち合うのが仲間じゃないですか?」
「うっ」
「そうゆうことです。
では基本伝言で夜21時に定期連絡とします。」
「ヘマタイトさぁん」
「では、各準備をします。
準備と段取りがとれたら、また報告します。
モモンガさんはちゃーんと自分で守護者統括さんに報告してくださいね。
私からしたら変に思われるし」
「ヘマタイトさんも一緒に」
「いやです!女のゴタゴタに巻き込まないでください!」


















部屋には複数のNPCが集まっていた。
「よく集まってくれたね。
ユリ、みんなに紅茶をいれてあげて」
「はい、ヘマタイト様」
部屋にはデミウルゴス マーレ アウラ
メイドのユリの4人がいる。
「二人にはこれだね。」
大きな麻の袋を2つ渡す。
「マーレとアウラはすでにアインズさんに命令されているのに悪いけど、これをお願いしたいんだ。」
「種ですか?」
「うん、見たことないね」
「私が作ったライスと麦の混合の穀物だよ。
ナザリックも食料問題が今後深刻になる。
育ちやすいようには頑張って改良したけど、転移したあとのこっちの土と第四階層でも育つか実験してほしい。
ソースはまだあるから、うまく育ったら量産を予定している。
この管理を頼むね。」
「わ、わかりました!」
「まかせてください!」
「上手くいきそうだったら、ほかの種も作ってみるから
報告を待ってるね。
種の在庫は他にも何袋か私の部屋につんであるから、いろいろ試してみてほしい。」
大事そうに双子が麻袋を抱える。
「セバスとシャルティア、ソリュシャン、3名はすでに命令が下り、ナザリックをたつ準備をしている。
モモンガさんもといアインズさんからも話を聞いていると思うけど
私は人間社会に出向く予定だ。
ユリとデミウルゴスにはしばらく、私の護衛と身の回りの世話を担当してもらう。
デミウルゴスにはこれを」
「これは?」
細い銀色のブレスレットだ。
「デミウルゴス専用で作ったから、貸し与えは禁止だからね。
幻術を重ねるだけと思ってくれたらわかりやすい。
貴方のしっぽとその宝石の目を隠すためのアイテムだ。」
「ありがたき幸せ」
「で、何をするかというと
人間の商人ギルドに参加する。
売り物は決めてある。」
手のひらにはきれいな白い布がある。
「それは」
「これをできるだけ相場で高い金額で売りなさい。
実際販売されているのをモモンガさんに確認済み。」
受け取った布を丁寧にデミウルゴスは開けた。
目の当たりにしたデミウルゴスは息を飲んだ。
「ヘマタイト様、これは……」
「ただの原石だよ。加工前を一度売って、市場を確認しようと思ってね。」
長い沈黙が続いていく。
ヘマタイトは何もなかったように首をかしげる。
「なに、デミウルゴス黙ってるのさ!ヘマタイト様に不敬で、し…………ヘマタイトさま」
その場に居た全員が、言葉を失い真っ青になっている。
「なに?宝石の原石もお前たちは初めて見るの?」
「そうではなく!これはヘマタイト様の体の一部でしょう!」
「え?うん。回復魔法と自動回復の実験ついでに鱗と爪を剥いだだけだよ。
まさかアイテム化されるなんて、思わなくて、嬉しい誤算だね。
こちらの世界でも純度の高い宝石は高値で取引される。
私のそれは純度100%だ。
王立級の宝石として販売できるだろう。
量は多少すくないけど、当分の活動費の足しにできるだろう。
これをデミウルゴス、貴方に商談して欲しい。
黙ってどうしたの?」
「ヘマタイト様!これはあまりにも!
いつ、そのような!?」
「そうです!ヘマタイト様!回復の実験を行うなら私がお付き合い致します!」
「ぼ、ぼくが代わりをしますから」
デミウルゴス以外の三人は、そう嘆けく。
「拝命いたします。」
「デミウルゴス!」
咎めるようにアウラがデミウルゴスに食って掛かる。
ヘマタイトがアウラに視線を送る。
「どうせ、捨てるだけのものだったのが役に立つのだから
利用しない手はない。
鑑定眼をもってしてもこれはただの宝石だから人間に疑われることなんてない。」
「ヘマタイト様…わかりました。」
「おねぇちゃん」
少し冷めてしまった紅茶を口にする。
「ヘマタイト様、お戯れが過ぎます。」
ユリが悲しそうに告る。
彼女も思うところがあるんだろう。
「不要なただの鱗にそこまで執着されては、叶わない。
それより優先すべきことを見逃さないために
今からでも意識改革をしないとね。
苦労をかけるけど、耐えて欲しい。」
「そんな!ヘマタイト様。
苦労などと!
………私達はにとっては至高の御方の一部なのです。
それが、不要といわれようとも」
大切な何かをなくしたように目を伏せる。
「この羽根も鱗も生え変わりはする。
それを全部大事にしても、ゴミがたまるだけ
私は、あなた達のほうが大事だよ。」
優しい顔つきでそういい
ユリは信じられないという顔をして、ヘマタイトを見た。
(ヘマタイト様、私達をそこまで。)
至高のひとりである、最後に残ったこの人物は確かに私達を大切に思ってくれている。
その言葉で配下全員が喜びに包まれた。
「かしこまりました。」
ゆっくりとユリはその言葉に返答をする。
守護者たちもはその会話に釘付けになっていた。




















「ヘマタイトさーん!!」
「うわっ!?なになに!?
何してくれてんですか!?」
ペペロンチーノがにこやかに見せてくれたのは、ワールドチャンピオン大会の参加申し込みフォーマットだった。
そして勝手にギルド推薦枠に自分の名前がある。
「それ、二重申し込みになるんじゃないのか」
ウルベルトがふんっと鼻を鳴らす。
「ちがうよ。
ヘマタイトさんが応募してないんです。」
「してなかったのか。」
「あのねー。ウルベルト。
私はタンクでも中途半端なの
ステータスだって中の上くらいだし。
ガチ勢には敵わないですから」
「ウルベルトさんのハニーがそんなに弱いわけないじゃないですか。
こないだだって、敵の超位魔法を盾ひとつで防ぎ切った。
あれ、タイミング的に鬼の所業でしたよ。」
「ハニーってなに?!
ん?待って待って!?
まずなんでギルド推薦してるの!?
モモンガさんおけーだしたの!」
「出した出した。」
「ファーwww」
外堀はすでに埋められていた。
「予定空いてるでしょ?私もヘマタイトが単機戦してるのあまり見てませんからどれくらい強いか見てみたいですね。」
「うちにもうワールドチャンピオンいるじゃないですか。」
「アレは数に入れない」
「また、そんなこと言ってー。
うちの魔法職最強と戦士職最強は仲が悪いですね。」
ペペロンチーノが困ったアイコンを表示する。
「魔法職最強なのはモモンガさんですよ」
「え?そうなの?」
「魔法の取得数はモモンガさんの方が多いから。
種族の壁なんですかね。
ほら、だから。」
ウルベルトがヘマタイトに向き直る。
「戦士職最強の座取って奴のアイデンティティ打ち折って来てくださいよ。」
「うえーん」
ウルベルトの声色は明るかった。
「え。ヘマタイトさんっ!?参加じゃなかったんですか!」
後ろから悲鳴のようなモモンガの声が響く。
「もう出しちゃいましたよぉ!」
「ペペロンチーノさん!!」
珍しく咎める声がする。
「ヘマタイト。」
「何を期待してるんですか」
悪魔のワントーン低くした声が響く。
「ヘマタイト」












(この体でも夢は見るんだ。)
椅子に座ったまま寝てしまったようだ。
ずいぶん懐かしい夢だった。
喉が乾いたので、近くの水差しを取ろうと左手をあげる。
パシャっと音を立ててコーヒーカップが落ちた。
(ああ、上手くやはり動かないな)
拾い上げると、怯えた顔をしたメイドがいた。
「申し訳ありません!ヘマタイト様!」
「大丈夫だよ。こぼしてしまって悪いね。置いといてと言ったのは私なのに」
「いえ。
ヘマタイト様、お疲れなら就寝準備を致しましょうか?」
「少し、アイテム作成に根を詰めすぎたみたいだけど、仮眠で充分だよ。
これも一個の実験だからね。
さて、私は休憩を終えたから、仕事をしてくるよ。
ああ、護衛はいらない。
セバスに会ってくるだけだから」
なにか、ユリが言いたげだったが、気づかないふりをして出た。
内容としては御方の足で自ら行かなくても、呼びつければということだろう。
(まぁ、直接なことはナーベへの実験内容なんだけど。
人間のマニュアルが通じる感だよね。
ここ、人外しかいないし。
あれ?)
セバスがアインズの部屋の前で待機している。
(きっと追い出されたな。)
「こんにちは、セバス。」
「ヘマタイト様、お出かけでしょうか?」
貫禄ある顔つきがそう優しく声かけてくる。
面と向かっては遠慮がちになってしまう。
「えっとね。少し相談があって、セバスのほうがいいかなって思って……
今忙しい?」
「いえ、ヘマタイト様より優先すべきことはございません。
なんでしょうか。私でお力になれることなら何でも、おっしゃってください。」
そう言われると、遠慮がちになる理由がわかった気がした。
「あーそっか。」
「どうかされましたか?」
「相談内容とは関係ないんだけど。
なんかさ、セバスに頼むのが悪いなーって感じる理由がわかったんだよ。」
「なにか、至らないところがありましたか。」
セバスの声色は変わらないが、雰囲気から不安に思っていることが伝わる。
「いやいや、セバスは悪くなくて
私が悪いんだよ!?」
「いえ、至高の存在であるヘマタイト様に落ち度など」
「いやいや!?落ち度だよ。
だって兄さんに似てるからつい遠慮がちになってしまってるのは
私が悪いんだよ!?セバスのせいではないでしょう。」
「ヘマタイト様のお兄様ですか?
それは、光栄なことでございます。」
セバスがぴんと来てないようだ。
「あーもしかしてセバス知らないんだ。
まじか。」
「すみません。無知な私をお許しください。」
「いや、ちゃんと話してなかったから、私が悪い。」
「ヘマタイト様に落ち度など!」
「えっとね。セバス」
「はい」
一言一言を丁寧に聞くような姿勢でセバスは、見つめてくる。
「たっちさんの妹なんだよ。
義理なんだけど
私を実の妹のように大事にしてくださったから
セバスはその……たっちさんと似てるからそのね。
兄さんみたいだから遠慮しちゃうんだ。
だから、その、ごめんね。
セバスが苦手とかじゃないんだよ。
ほら、兄さんだからそのさ」
上手く言葉に出来なくて、もごもごする。
他の守護者達にはそんなことがないロールをしているのに気恥ずかしくなる。
顔があつくなってきた。
「……そうでしたか。」
セバスがようやく声を絞り出す。
「私はたっちみー様に似ていると。」
「そうなのよ。うん。
兄さんに頼み事してるみたいで、
恥ずかしくてさ
気を悪くしないでね」
「とんでも、ございません。
創造主と似ていると言われて喜ばない下僕はいないでしょう。」
「そ、そうなの。
そっか。そうなんだ。」
羽が落ち着かないようにぱさぱさと動く。
「セバスに相談したいのはみんなのことなんだけど。
ここちょうどみんないないし。いいかな?
モモンガさんの部屋の前だけど、わたしだから許してくれると思うし。
これなんだけど」
「これは人間と関わるマニュアル書と書かれていますが」
「うん。まぁ、セバス用じゃなくて
ナーベ用だからね。あとシャルティアとか人間をよく思ってない子に宛ててだから
気を悪くしないでね。」
「これは自ら、ヘマタイト様が?」
「そうだよ。こんなのナザリックにはないでしょう。
少なくても、何もしてない人間が殺されることはないし、危害を加えられることはない。
で、やらかしたヤツはもう仕方ないと割り切ってくれとしか言えないんだけど。」
「いえ、最善だと思います。」


書いていた内容は下記である。


1.人間でも利用できるかもしれない
ナザリックの資源を無駄に殺すべからず


2.人間とは表向き良き隣人であるべき
ナザリックの有益な情報を逃さがすべからず


3.ナザリックを屈辱した者はその場でさばくべからず
怒りはナザリック全員の物だ
裁くその決定はアインズに委ねること


などなど


20ページほどのマニュアルになっている。


「たぶん、これで事故は起きないと思うんだけど」
「よろしいと思います。」
カルマ+のセバスが言うのなら、ユリもおkだろう。
「私が手づから書いたなら、ナーベも捨てはしないでしょう。」
「いえ、喜ぶと思いますよ。」
「よ、よろこぶかな」
「ええ」
「まぁセバスは嘘つかないだろうし。
そっか。
全部守れてアインズさんの護衛終わったら盛大に褒めて上げるって伝えといて。
ついでに渡しといてね。」
「それは喜ぶと思います。
デミウルゴス様にもこちらはお渡しにならないのですか?」
「ん?なんで?」
「いえ、デミウルゴス様もナザリックの外の活動が多いかと思いまして」
「わかった渡しておくよ。」
ヘマタイトがいなくなった後、セバスは今まで言われた感動の言葉一つを噛み締め、ナーベのところに向かった。










「まじか」
ドア側にいたアインズがあんぐりしていた。












デミウルゴスの部下である悪魔たちにあの爪や鱗を渡したあとデミウルゴスがどうなったか、聞いて回ると結構荒れていたようだ。
「そんなに落ち込むこととは思わなくて
そのごめんね。」
ナザリックを思って無理に納得をしたに違いない。
(こっちも親そっくりか)
悪魔たちに断りを入れつつ、神殿の奥に進んだ。
その中で重厚感のある扉を押す。
「デミウルゴス?いる?」
少し暗いその部屋を断りを入れながら入る。
「ヘマタイト様!?」
「ああ、久々に入ったよ。」
7階層にあるウルベルトの私室だ。
机の上にはさきほど渡した爪や鱗があった。
「大丈夫?」
そうデミウルゴスに聞く。
問題ないとしか彼は返さないとわかってはいる。
「はい。つつがなく行わせて頂きます。」
ありきたりな返事がやはり返ってくる。
「辛くなったり、嫌だったりしたら、言うんだよ。
いや、今回のはしてもらわなくては困るけど
どう思ってるかは、こう二人のときは言ってもいい。
ウルベルトは最高の悪魔としてお前を作ったけど
”ウルベルトと仲がよかった”とはいえ私は悪魔には詳しくない。
私は、デミウルゴス。
お前を知らないから、ちゃんと声を出して言うように」
「ありがとうございます。その際は必ずお伝え致します。」
「うん、そうしてほしい。
あ、これ今回の外交のマニュアル書ね。
簡易版で貴方には物足りない心得ばかりだけど
ナーベや他の子に合わせてあるから、そこは配慮してね。
ふぅ………しかしまぁ。なんだろね。」
まじまじとデミウルゴスを見る。
「うーん。」
「へ、ヘマタイト様、どうかなされましたか?」
「いや、セバスがさ、すんごいたっちさん
の雰囲気だなーって思ってたんだけど
ウルベルトとデミウルゴスって似てるのかなって」
でもどう考えても、悪魔要素としか似てないとヘマタイトは感じていた。
「私がウルベルト様にですか?」
「まぁ、物腰が柔らかいくらいかな。
いや、あの人私にはきつかったからどうなんだろ。
うーん。」
たしかにウルベルトはヘマタイトには戦闘面でみ無茶振りが多かった。
「んー」
2人とも物腰は柔らかく話しかけてきてはくれている。
しかし、どう似ているかと聞かれて、はっきり答えることはできなかった。
「デミウルゴス の方がどう考えても紳士だよね。」
大きな赤いソファに腰を下ろす。
ウルベルトが座っていた場所だ
「幾らでも、いらしてください。
私でよければ、お話し相手をさせて頂きます。」
「では、デミウルゴス。
お前の好きな物は何かあるかな?
せっかく人間の街に行くんだ。
何か欲しいものはない?」
「いえ、ヘマタイト様がいてくださるなら、これ以上の喜びはございません。」
「ははは、ウルベルトなら欲張りな事を言うのにね。
これも訓練だ。自分で考えて行動し、なすべき事を為して欲しい。
私も永遠にここにいれるわけじゃないんだから」
「それは、ヘマタイト様もウルベルト様のようにお隠れになると」
「行けたら、あの人に嫌味の一つでも言えたんだろうさ。
私はね、ウルベルトと同じとこには行けないよ。」
もし、現実の世界に戻れても彼を尋ねる足がない。
足があっても、会ってくれるかも定かではなかった。
「何か欲しいものは決めてしまったほうがいい。
これから忙しくなるんだ。
なにか、ご褒美のために頑張るのも一興だよ。
お前はウルベルトの作った最高の悪魔なんだから
悪魔らしく少しは欲張りになった方がそれらしい。」
「少し返事を待って頂きく思います。
最良の答えを用意してみせます。」
「楽しみにしているよ。」

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