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悪魔の求婚
3話
モモンガには歯切れが悪い返事しか返ってこなかったが、お互いNPCに求愛されているもの同士同盟を結んだ。
困った時にお互いを手助けする同盟である。
転移以外で、モモンガの部屋に訪れないようにしなくてはならない。
(なぜなら!女の嫉妬ほど怖いものはないからだ!)
自室に戻り、ソリュシャンが出迎えてくれた。
「ただいま、ソリュシャン」
「おかえりなさいませ。ヘマタイト様。」
部屋に入ると、岩盤にすわったせいで、羽が少し汚れてしまっている。
少し、気にして目をやると、すかさずソリュシャンが綺麗な布で拭き取ってくれた。
「ありがとう。少し、気になっていた。
ユリはアイテム部屋かな?」
「はい。」
「少し、疲れた」
ソファに身を預け、ゆっくりと座る。
肉体的疲労は感じないが、精神的負荷が多い。
「さて、どうしたものか」
尻尾が、床をするすると撫でる。
「何か、ご不快な事が?」
「問題はないよ。
あぁ、そろそろ就寝しなくては、寝る時間がなってしまう。」
体を起こして、ログアウトの動作をするが、またそこで、ここが異世界だと思い知らされた。
明日もメンテナンスの仕事が、あるはずだった。
それは多分叶わない。
「就寝の準備をして参ります。」
「ああ。お願いする。
飲料水も置いておいて。」
ソリュシャンが出ていくと、同時に入れ替わりで、ユリがアイテム部屋から現れた。
「おかえりなさいませ、ヘマタイト様」
「おつかれ、ユリ。」
労いの言葉をかけると、ユリは嬉しそうにお辞儀をした。
「湯浴みはいかがしましょうか。」
「ああ、拭いてくれる?
タオルはあたたかめで頼む。
あ。」
いつもの家のノリで言ってしまった。
まずいと思いユリを見ると、すでに廊下にでて、他のメイドと話して準備をしていた。
(あ、そっか。
下僕だから、ヘルパーさんと同じなんだ。
よかったー引かれなくて)
床をなでていたしっぽがホッとしたように止まった。
ソリュシャンがタオルと桶を持ってきた。
相当大きい桶で、普通の女性では運べないほどの湯だ。
「失礼します。」
(鎧の方も脱ぐか。)
衣装はほとんど戦闘用だが、布が薄い水着風の装備があったので、そちらに変更する。
少し、プレアデス二人は驚いたようだが、頼んだ通り、体を拭いてくれる。
拭かれているタオルも最高級品なのか、肌触りが今まで感じたことのないくらい心地よい。
ほとんど拭き終わっただろう頃、部屋にノックが響いた。
「ソリュシャン。出てきて」
「はい」
「デミウルゴス様が参られました。」
「へ。」
「いかがしましょうか?」
「拭くまで待って貰えるかな?」
「もちろんでございます。」
ソリュシャンがすぐ廊下に出て、旨を伝え来てくれた。
体の表面積が多くなったのに、ヘルパーより丁寧に早く吹いてくれた。
寝巻きが空間魔法で、見つからないので仕方なく、薄手の絹のローブを装備する。
「では、呼んで参ります。」
(の、残ってって言えばよかったああああ)
二人はお辞儀をして退出していき、目の前には笑みを貼り付けたデミウルゴスがいる。
(こ、怖すぎ!何話せばいいん?!
そもそも何用!?)
尻尾はするすると身を抱えるように絡まる。
「ヘマタイト様?」
「な、なに。」
今すぐモモンガにヘルプコールをしたい。
彼はすぐそばで、膝をつく。
「ああ、やはり
お美しい。
宝石のようにすべてが輝いておいでです。」
「あの」
「その白いローブもヘマタイト様の玉体を損なわないシンプルな作りがさらに栄えさせています。
もちろん、鎧姿も、魅力溢れる姿と思っておりますが。」
「あの、だからその
なんの用でデミウルゴスは来たの?」
「いえ、用というより、御身のお時間を頂きたく思い、伺わせて頂きました。」
「え?」
「ヘマタイト様の貴重なお時間を頂くという発言は、不敬かもしれません。
しかしながら、このデミウルゴス、ヘマタイト様と過ごさせて頂く時間が、祝福の時と感じています。
どうか、この我儘を聞いては頂けませんでしょうか。
私で出来る事があれば、何なりとお申し付けくださいませ。」
必死さが伝わってきた。
彼の姿が少し小さく見える。
悪魔の演技なのか忠実までにそれを守っているように見える。
「わかった。私もしたいことがあったし」
「したいことでございますか。」
「ええ。地上の夜空をお前と見たいかな」
「なっ」
デミウルゴスの宝石の瞳が見えるほど、見開かれた。
彼に振り回されたので、振り回し返してやった。
「もちろん、下僕を多く連れるつもりはない。
デミウルゴス、お前一人の護衛でお願い」
いたずらを覚えた子供のように、瞳を細くする。
「差し出がましい発言とは思いますが、御身の護衛は複数の下僕が付くべきと思います。」
「いいえ、それは私は望まない。
さぁ、ちょうど、深夜だし
今から行こうか。」
「ヘマタイト様!」
彼女の尻尾が、デミウルゴスの左腕に巻き付く。
声をかけている間にもう、ナザリックの入り口に転移していた。
「ヘマタイトさん!?」
後ろを見ると、モモンガがいた。
汚れた空しか見ていない彼も、夜空を見たかったのだと、すぐ理解した。
「考えることは同じですね。」
「そうみたいですね。」
彼が鎧を着ているかは不思議だった。
モモンガも、ヘマタイトのローブ姿が珍しいらしい。
「なによ、モモンガさん。似合ってないって言いたいんですか」
「そ、そんなことないですよ。
ただ、珍しいって思いまして。」
「ふふ、わかってる。
冗談です。冗談。」
「ははっ。。。あ。
デミウルゴスも来ていたんだな」
魔王プレイを急いで、モモンガは戻した。
「ハッ、ヘマタイト様の護衛につかせて頂きました。
モモンガ様は何故こちらに」
「極秘だ。」
(素直に星空がみたいって言えばいいのに。)
ヘマタイトは横でくすくすと笑う。
小恥ずかしいのか、モモンガは杖で突いてきた。
「まぁまぁ」
なだめて、羽を広げる。
今まで生まれていたときから羽が生えていたように、しっかりと空気を掴んで、一気に上空へと身を運んだ。
飛び立つ時にデミウルゴスがなにか言っていたが、気にもとめない。
尻尾がある。
足がある。
片腕もある。
目もある。
耳もある。
痛くない皮膚がある。
ヘマタイトは、久しぶりに生きた心地を感じていた。
その羽ばたきは雲を突き抜けるまで、止まらなかった。
雲を越えれば、星が満点に輝いていた。
この翼はどこまで、飛ぶことが可能なのだろうか。
竜族まで進化した今の自分なら、あの大きな月まで飛べそうに思える。
(でも、そのまえに宇宙があるのよね。
酸素ないととこかのかずさんみたいに死んじゃう)
翼が力なく、羽ばたきをやめる。
スキルのおかげで、意識をしなければ、降下ははじまらない。
「うわ!?」
カエル顔のデミウルゴスが急いで追いかけてきた。
モモンガも一緒である。
「これはすごいな。まるで宝石箱のようだな」
「ええ、すごく眩しい。
すべてが眩しいけど
どれだけ世界が広くても今ならどこでも行けそう。」
「ハハッ何処かに行ってもらっては困るな。
この異例事態を私だけに押し付けるつもりですかね。
ヘマタイトさん」
「そんなつもりで言ったんじゃないです。
ちゃーんと私だって考えています。」
「この世界が美しいのはおふた方を飾るための宝石箱なのかもしれませんね。」
「……いや、で独占すべきものではないな。ナザリック地下大墳墓を──我が友たちアインズ・ウール・ゴウンを飾るためのものかもしれないな」
「……それは非常に魅力的なお言葉です。お望みであり、ご許可さえいただけるのであれば、ナザリック全軍をもってこの宝石箱をすべて手に入れてまいります。そして私の敬愛するモモンガ様にそれらを捧げさせていただければ、このデミウルゴス、これに勝る喜びはございません」
そんな芝居がかった台詞にモモンガは静かに笑う。
デミウルゴスも雰囲気に酔っているんだろうなと、内心で考えながら。
「この世界にどのような存在がいるかも不明な段階で、その発言は愚かとしか言えないがな。
もしかすると私たちはこの世界ではちっぽけな存在かもしれんぞ?
ただ……そうだな。世界征服なんて面白いかもしれないな。」
それを聞いて、ヘマタイトが寂しそうに目をふせた。
(ウルベルトもそんなことを言ってたけ。)
なにかそのあと、モモンガが言っていたが、あまり聞いていなかった。
「ヘマタイトさんはどうだ?」
「どうって
私は世界征服より、他のメンバーなどの捜索や
プレイヤーの存在が気になるところかな
まぁ、とりあえず。今を私は楽しもうかなと思います。」
両手を広げ、飛行の安定スキルをオフにする。
オフにすると、体が重力に引っ張られる。
さながら紐がないバンジージャンプだ。
「なっ!?」
モモンガの顔に肉がないので、表情は読み取れない。
声色から相当驚いているように思える。
「ふふふっ」
落下感がたまらない。
思わず、笑みがこぼれた。
「ヘマタイト様!」
その楽しい落下感はすぐに終わってしまう。
ちょうど落ち始めてからの地面との真ん中くらいで、デミウルゴスに受け止められてしまう。
「お怪我はありませんか!?」
「そんな血相で心配しなくても大丈夫。」
デミウルゴスを撫でてやる。
「多分ここから落ちても死にはしないし」
「ヘマタイト様がお亡くなりになるなど、私には考えたくもなくない事です。」
大きな瞳にヘマタイトが映る。
(ここに来るまではいつ死ぬか分からなかった身だけど
ウルベルトと同じことを言うね)
彼の胸に頭を預ける。
「ヘマタイト様?」
「なんでもないよ。」
この悪魔の顔ではあまり、デミウルゴスの表情は読み取れない。
「ヘマタイト様が求められるものがあるのなら、不徳の身ですが、私がこの命に代えましても
ご命令いただければ」
「それは望んでいないんだよ。
ウルベルトなら、喜んだかもしれないけど、
私は悪魔じゃないんだ。」
「ハッ失礼しました。」
「そんなに、震えなくていいよ。」
腕を撫でてやる。
「私はお前が尊敬する様な大悪魔じゃないから、
誰かの命とか別に貰っても嬉しくない。
そうだね、デミウルゴス。
私はウルベルトの残した貴方は宝物だよ。
だから、宝物は大切にしないといけないね。」
「私が宝物ですか。」
「まぁ、デミウルゴスだけじゃなくて、ほかの悪魔のみんなやナザリックみんなだよ。
モモンガさんがいうこの世界も宝石箱みたいだけど
私とってはナザリックが宝石箱なんだ。」
「勿体ないお言葉でございます。」


















ヘマタイトを地面に下ろすと、すぐに自室に転移していった。
これで一安心である。
モモンガも転移したのを確認し、デミウルゴスは手で顔を覆う。
(ヘマタイト様があんな大胆に……)
デミウルゴスが震えていたのは、その至福を噛み締めていたからだ。
「デミウルゴス様!おめでとうございます!」
「作戦大成功ですね!」
悪魔たちがそれぞれ、頭をたれた。
「ああ!やはり、二人の時間をとって頂けて良かったよ。
ヘマタイト様には助言さえ頂く形となりました。
なにより、最後までモモンガ様共にあられた方であり、モモンガ様の行動も全て考えのうちの様でした。」
「なんと!?」
「また、ヘマタイト様は全てを見据えたうえにこう仰っていました。
モモンガ様が、世界征服を目指されるのなら、私は望まないと
真意は、モモンガ様をこれまで通り支えられるつもりのようです。
自分の望みはまるで二の次のように
しかし、我々は叶えなくてはなりません!
ウルベルト様の悲願を!」
「「「はい!デミウルゴス様!!
我々は悲願を叶えなくてはなりません!!」」」
















朝起きると、目を開けることな右手だけで、机のそばの呼び鈴を探す。
(ああ、起きて仕事をしなくは)
しかし、今日の布団はやたら触り心地がいい。
「ヘマタイト様、何かお探しでしょうか?」
「?」
ヘルパーさんの声がやけに若い。
「何か不足しているものがあるならおっしゃって下さい。」
(ああ、キーボードがこの辺りに……
あれ?ない。)
それだけではない、左手がある。
足がある。
「なんで?」
「ヘマタイト様?」
「うわ」
声も出るし、片目を開いてみれば視界は血で淀んでいない。
はっきりと美しいメイドの顔が見えた。
「ね、寝ぼけていたみたいだ。」
「そうですか。
湯浴みの準備しております。
お食事はその後でよろしいですか?」
「ああ、それで
はぁ……しかしまぁまあま」
腕や足があるというのは不思議な感じだ。
(この世界が私の考えるビジョンで、これがなにかの試験テストだったら、
私は救い用がないバカだな)
体を起こし、ローブを羽織る。
時間を確認すると3時間ほどしか寝ていない。
普通なら眠いはずなのに疲れはあまり感じない。
「ユリはずっとここに?
休んでもよかったのに」
「いえ、至高の存在であるヘマタイト様に使えるのが私達プレアデスの至福の喜び。
ヘマタイト様はウルベルト様しかこの部屋におあげにならなかったので……今でも信じられない思いです。」
「ああ、そうだったね。
あの人は悪巧みがすごく好きだったから
モモンガさんを驚かそうと、よく内緒話をしていたんだ。
それも、随分とご無沙汰だけど。」
「貴重なお話をありがとうございます。」
「今のが?」
「はい」
少し頬をそめたユリの笑顔が向けられる。
「そ、そうなの。
あんまり、そこの考えには至らなかったな。
では、ナザリックが落ち着いたら、思い出話をしてあげよう。」
「ありがとうございます!」
「寝て、少し考えがまとまったよ。
ユリは引き続き、倉庫の整理を」
「それに関しましては、すでに終了しております。
こちらがまとめた資料になります。」
(え?まじか)
資料はすでに机の上にならべられており、数冊の冊子になっていた。
ベッドから降りて手に取る。
(有能すぎだろうう!
見やすくカテゴリーわけされている!
すご!なにこれ、ソート機能!?
ユリが書く文字は読めるな……文字の概念は一緒なのね。)
自分は全部みるだけで、数時間かかりそうだ。
「何か、不備がありましたか?」
「いや、大丈夫。
また読ませてもらうよ。
次の指示はモモンガさんなら何か?」
「いえ、頂いておりません。
モモンガ様も自室にいらっしゃいます。
今はセバス様とアルベド様がお側にお仕えされています。」
「なるほど。
まぁなんとなく、モモンガさんがされていることは分かるからいいや。
こっちは足で稼ごう。
ユリ、プレアデスの職務に戻りなさい。
私は手早くやらなくてはならないことがある。」
指輪を起動し、転移する。
転移先で、ローブから鎧に着替え直す。
ローマの白い遺跡をもようした美しい白い柱があり、奥には人影がパラパラとある。
その中でも小柄な影が勢いよく走ってきた。
「ヘマタイト様!!」
「アウラ。今、時間は大丈夫?」
「ヘマタイト様が気遣われる必要はありません!
何か御用ですか?」
「マーレはまだ外?」
「はい!
あ。マーレに御用でしたか?」
「いえ、大丈夫。アウラにも頼みごとがあってね。
マーレのいる少し外まで付き合ってほしくて」
「はい!勿論です!
今、うちの子たちを招集し……
あ。」
アウラの動きが止まり、しゅんと耳が落ちた。
「ど、どうしたの?」
「マーレもいますし、
えっと、これなら大丈夫ですかね。」
どうやら、プレアデスから複数の護衛を囲うのが嫌だとちゃんと伝わったらしい。
「守護者二人もいるんだから、大丈夫。
それに私は丈夫にできてるから、そんなに心配はいらないから」
「はい!
あの、ヘマタイト様」
「なに?」
「デミウルゴスとその
ご結婚されるんですか?」
「え。
なんで、そんな話に?」
「ご、ご無礼をお許しください!」
「別に怒ってるわけではないよ。
ただ、そうだね。
今まで結婚できる立場では無かったから、こっちらだとそうなるのか。
状況が変わった今も結婚は出来そうもないかな。」
「結婚できない立場って……」
「色々あったんだ。
アウラが気にすることでは、ないんだよ。」
「デミウルゴスがお嫌いではなく?」
「少し、強引なとこは驚いたけど、
嫌ってはいないよ。」
「えっとその
(お世継ぎの話とか不敬すぎるでしょー!
アルベドやデミウルゴスが変なこと言うから!
ヘマタイト様を困らせてしまったじゃない!
しかも、強引ってなに!?ヘマタイト様になにしたの!)」
アウラは真っ青になりながら、身を縮める。
「さて、雑談はこれくらいにして、本命にかかろう。
マーレがいるところで話そうか。」
アウラの腕を尻尾が掴む。
ナザリックの入り口に転移すると、ゴーレムやシャドーデーモンが、せっせと作業をしていた。
「マーレ!マーレってば!
ヘマタイト様がお呼びよ!」
「は、はい!
へ、ヘマタイト様、どうしてこんなところに?
あ。なるほど」
マーレが一人頷く。
ヘマタイトはなんのことかわからないが、二人に説明を始めた。
「手早く説明を始める。
これは配下にやらせればいいんだけど
なにぶん指揮官を置かないといけないから、アウラとマーレに話したいって思ったんだ。
まとめは、ほかの者にやらせてもいいけど、報告は必ず二人でするように。」
「はい!えっとなにをすればいいんでしょう?」
「アウラにはこの辺りに食べ物、素材がないか、調査してもらいたい。素材はアイテム作成時に使用するものだ。サンプルとして採取してもいいが、多くを減らすような真似をしてはならない。
なぜなら、敵対勢力があるかもしれないからね。火種は避けたい。
マーレには第6階層で、素材の培養ができるか、確認
またこちらのそとにも育つか確認をして欲しい。」
二人に簡単に説明をし、肩を落とす。
「以上を確認しないと、安易にアイテムの使用も出来ないからね。」
「わ、わかりました。」
「はい!でも、私達がヘマタイト様の元にお伺いをして、今の話を聞けばよかったのではないですか?」
「モモンガさんに別の命令が来てて、それがこれより重要だった場合の損害を考えるとね。」
「「なるほど。」」
納得したように頷く。
「以上の結果がまとまり次第、私に報告後、モモンガさんにも報告を行うと思っててね。
じゃ、私は次の用があるから、そろそろお暇するわ。
ナザリック内だから、護衛はいらないでしょう。
二人とも、よろしくね。」
「はい!ヘマタイト様!」
「ま、任せてください。」
転移したヘマタイトを見送って、二人は顔を見合わせる。
「す、すごいわ、ヘマタイト様
私がモモンガ様に言われた、ナザリックの警戒網を完成すぐのタイミングでこんな的確なご指示をされるなんて。」
「う、うん。僕もちょうど終わったとこだった。
それに、ヘマタイト様すごくモモンガ様の事を気にされていたね。」
「当たり前でしょ!
モモンガ様をお支えになる為、最後まで残られた慈悲深き……
うわ!?」
「ヘマタイト様がこちらにこれたと聞き、来たのですが
すでに移動されたあとでしたか。」
「デミウルゴス!びっくりさせないでよ!
それにヘマタイト様は繊細な方なんだから、そんな風に飛んで来られたら、驚かれるわよ!」
ナザリックの入り口から弾丸のように飛んできた彼に、アウラは注意をする。
「それは…わかりました。
以後、気をつけるとしましょう。
ヘマタイト様はなぜこちらに?」
素直にデミウルゴスは頷いた。
「へへん!ヘマタイト様からの勅命を頂いたのよ。」
「それは羨ましい。ご内容を伺っても?」
「はい。基本はアイテム作成の素材の確保でした。」
「なるほど、モモンガ様は自室に籠もり、防衛面と状況把握に務められており、
それが済んだ場所に関して、さらに詳しい内容を確認する。
素晴らしいご判断です。」
「で、でもデミウルゴスさん。
モモンガ様もヘマタイト様も自室を御出になられていません。
ヘマタイト様は短い睡眠を取られていましたので、僕たちはヘマタイト様に報告はしていないんですよ。
どうして、そんなこと出来るんですか。」
「私達が考え及ばない深い考えと尚且、ずっとお二人で居られたからというのが答えではないかな。」
なるほどと三人は腕組みをし、うなずく。
「ヘマタイト様は私のことをなにか言っていたかな?」
「デミウルゴスもアルベドに似てきたんじゃないの…
少し、強引がすぎるんじゃない?
ヘマタイト様が驚かれていたわ。」
デミウルゴスの尻尾が地面につく。
「アウラ。私はどうしたらいいと思うかな?」
「ヘマタイト様だったら、守護者には指示を直接下さるようだし、
お使えしてたらお声かけ下さると思うけど」
「僕もそう思います。」
「そうですね。わかりました。
そのように徹してみます。」












ワザワザ人払いをし、モモンガと二人で部屋にいた。
お互い、3日ぶりの顔合わせだった。
モモンガ はナザリックの防衛に徹していた。
「はぁ………じ、重圧」
「お疲れ様」
「でも、主の役回りを守護者達がしてくれるので、本当に状況把握ですけどね。
俺はアンデットですけど、
ヘマタイトさんは生身なんです。
ちゃんと寝てますか?」
「寝たよ。」
「ユリ・アルファから聞いています。
3時間くらいしか自室で休まれてないって」
っ、でもこの指輪つけてると眠くならないし、疲れないから……
今やれる事をしたいし。」
「だめです。本当に死んでしまったらどうするんですか。」
「もう左目も左腕も足も動くの。
リアルの肉体は関係ないから、ぽっくり死んだりしないったら
ほら現役時代のヘマタイト復活!ってやつ。
それに今まで寝たきり生活だったんだから
動きたくもなるよ。
好きな場所に自分の足で歩けるなんて考えても居なかったし。」
「それはそうでしょうけど。」
「ずっと芋虫みたいにベットで寝たきりだから
人の視線が怖いから、NPC達を避けてしまっているけど
それも徐々に直して行きたいと思ってるし」
(ヘマタイトさんはそうだよなぁ。)
モモンガは目の前の少女の顔に戻った、ヘマタイトを見る。
リアルでお互い会ったとこがあるので、彼女の現状もモモンガは知っていた。
「本当にもう大丈夫なんですか。」
「大丈夫ですー!」
元気そうにしているのを見て、モモンガは微笑ましそうにそれを眺める。
「はいはい。大丈夫でも寝てもらいますからね。」
「なんで!?」
「万が一というのがあるかもしれないので
ヘマタイトさんには健康的な生活を送ってもらいます!」
「ええええっ」
「これはプレアデス達に指示をしときますからね。
23時睡眠の7時起床です。」
「寝すぎ」














プレアデスや守護者達が更に過保護になった気がする。
マーレやアウラは外にあった花を持ってきた。
コキュートスは第五層の1番透き通った氷。
シャルティアからは、バラの香水。
アルベドからは、なぜかモモンガさんのぬいぐるみ。
(モモンガさんは何をいったんだ?)
プレアデス達はできるだけ消化のよい食べ物が運ばれてきた。
(絶対これ病人にやるやつじゃん)
廊下には何人かの配下気配がする。
どのように伝わったか、不安しかない。
「お持ちしました!ヘマタイト様」
幸いナザリック内の制限はかからなかったので、情報整理とシャドーデーモンに協力してもらい
、外部素材での錬金を試みている。
「……うまくいきませんね。」
シャドーデーモン達が不安そうに手元を見てくる。
「いいんだよ。
今は何になるかの確認だし、いくつかは組み合わせ次第ではアイテムになりそうなものがあった。
それにこの世界でも、生産系スキルが使用できるという確認を取るのも目的の一つだからね。」
カゴいっぱいの草をバルクになったものと素材になったものを
分けていく。
そうして2時間ほど作業していると、ソリュシャンが紅茶を持ってきた。
「お手を止めて申し訳ありません。
モモンガ様から、適度に休憩をとって頂くようにと言われております。
お手を拭かせていただきますね。」
手を出して、土で汚れた手を拭いてもらう。
「モモンガさんが過保護だとは思わない?
私は椅子に座っているだけだから、
そんなに休憩は要らないはず
まぁ、ソリュシャンに言っても困らせるだけなんだけどね。」
「私達が望むのはいつまでもお二人にお仕えできれば、これほど幸せなことはございません。」
「なるほど、ソリュシャンもモモンガさんの味方か」
「そ、そのような訳では」
「わかってるよ。私がぽっくり逝くか分かんないから心配してくれているのは、分かるし」
ソリュシャンの手が止まる。
「それはヘマタイト様がお亡くなりになると……」
ソリュシャンの顔が歪む。
「ひっ」
ホラーばりの怖さである。
異形の体でなければ、泣き出していた。
彼女も、あまりの驚きで形態が歪んだのだ。
「その心配は今はない。」
平然を装い、そう告げる。
ソリュシャンは腑に落ちていないのか、不安なのか、短い返事をして、手を再び動かした。
綺麗になると、紅茶を運んでくれる。
「まぁ、そう不安にならなくても、外的要因で私が死ぬ事はそうそうないよ。耐久性だけなら、アルベドより硬いし」
「そうなのですか。」
小首を傾げる。
「そうだよ。隠蔽系のアイテムをたくさん所持してるから、分からないだろうけど、盾役なんだ。
いざという時は、私の後ろに隠れたらいい。」
「そんな、至高の存在であるヘマタイト様を盾になんて……」
「そこは、割り切ってもらわないと困るよ。
その次の攻撃が、他の仲間、しいては、モモンガさんを傷つけるものかもしれない。私なら、耐えれる攻撃もモモンガさんには即死かもしれないんだ。
それを止める初手を決めれるのが、ソリュシャンしかいないなら、覚悟を決めないとジリ貧という可能性だってある。
ソリュシャンには酷いことを言うけど、私が死のうが何しようが、モモンガさんあってのナザリックなんだ。」
「……ヘマタイト様」
「モモンガさんは優しいからね。
こういう、言い方は嫌うだろうけど、誰かがしなきゃいけない。
私の死体を踏みつけても、ナザリックは守らないといけない。」
半分飲んでしまった、紅茶に視線を落とす。
「私が本当にぽっくり逝くなら、老衰か心労かな
その時は、ソリュシャンに介護を頼まないとね。」
「はい、その時は奉仕させて頂きます。
ヘマタイト様、あまりお戯れをなさならいでください。
私の身も持ちません。」
冗談半分に言ってようやく、愛想笑いもソリュシャンができるようになった。
シャドーデーモン達も顔を見合わせて、笑っている。
(まぁ、老衰というか、普通に衰弱死か感染症とかだろうね。
そもそもあとどれくらい生きるかわからなかった訳だし。)
リアルの体がなくなったのが、自覚できるほど、体調が良すぎる。
「そういや、モモンガさんはなんて指示されたんだ。
まるで病人扱いなんだけど。」
「はい。
ヘマタイト様一定時間寝ないと、バッドステータスがかかると言われました。」
「そんな筈ないのはわかるだろう。
ナザリック内では全部耐性をつけなくていいから、疲労無効睡眠無効をつけてる。」
「それは、そうでございますね。」
「はぁ……当分はこの状況に甘んじるけど、
おこだわ」
その後、デミウルゴスからは触り心地が最高の革製枕が送られてきた。

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