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悪魔の求婚
2話
さてさて、ユグドラシルの異変に気付いてから数時間が経過した。
ヘマタイトの部屋はナザリックにふさわしい豪華さだった。寝室はキングサイズベットが設置されまだ余裕がある。四十畳以上あるリビングに部屋かと見間違うくらいのクローゼットと倉庫。他には錬金用の工房が、ゲームの時そのまま存在した。
「ユリ」
「はい、ヘマタイト様」
彼女はプレアデスのおねーさん的な存在のメイドデュラハンだ。彼女を側に置くか、簡単な理由である。ナザリックでも珍しくカルマが善に偏っているからだ。ヘマタイトの何かしらの原因がなければ、殺されるリスクが少ないと考えた。
「ユリ、アルファは私をどう思う?」
「最後まで残って頂いた慈悲深き至高の御方です」
「いや、そうではなくて」
「……私は真にそう思っております。何卒、不快に思われたなら自害をお命じください」
その肩は幽かに震えていた。彼女らは、ヘマタイト達プレイヤーに対して、盲目的な忠義を向けてきている。
「では何故、私が貴方だけこの部屋に入室を許可したか、答えてみなさい」
「はい、ヘマタイト様は首を並べるのがお好きと、聞き及んでいます」
「ん?」
「ウルベルト様とタブラ様が話されておりました。
ヘマタイト様はナザリックに害した者を、単身で打ち取り、その首を台座に並べられたと。
お優しいヘマタイト様の事ですから、デュラハンである私ならその欲望を満たせるうえに、
私達僕を傷つけることがないと考えられたためだと思います。ですので、ご存分に私の頭をお使いくださいませ」
「首を……
ん……えっ……首を並べると優しいとはどうつながるの?」
「このナザリックの転移が起きてからというもの、ヘマタイト様は私達プレアデスに一人、一人、お声をかけて下さいました。至高なるヘマタイト様にとるに足りない私達にも関わらず!」
少し、顔を赤く染めて、メイドは言い放つ。
ユグドラシルのシステムでは、生首を置く事は出来ないので、「首を置いていけ!」と威圧的に叫んだだけだ。
プレイヤー同士の会話も彼女の中に記憶にはあると、確認出来る。
嬉しそうに首を抱えるユリを見て、「あー。私に首を並べる趣味はないよ」とヘマタイトは言い放った。
「そんな……」
「私を思っての行動は嬉しい事だ」
「ああ!ヘマタイト様!勿体ないお言葉です」
「けれど、私はここにいるんだから、貴方の目で私がどう思い行動しているか、自ら考えて見て欲しい」
「かしこまりました!ヘマタイト様!」
「では、ユリには私の倉庫にあるアイテム整理を頼もう。一覧表にして、紙にまとめて。
幾分、長い間触っていないし、量は相当なものになっていると思う。今日中に終わらなくて良い。ユリが行う作業ペースを守って、一通り、作業目処が立ったら私に報告してほしい」
「かしこまりました」
「ただし、先程も行ったが私が此処を不在中に部屋に入って良いのは、許可を受けた者だけだ。
モモンガさんは除外する。それ以外は守護者であろうとも通すな」
廊下に続く扉に手をかけると、ユリが続くように後ろに回る。
「共は不要だ。ユリは、此処の整理を頼む」
「しかし、いざという時に、ヘマタイト様の盾になり死ぬことができません!私でなくても、他の者に」
「不要だ」
「しかしっ!」
「くどい」
「…申し訳ございません」
「すぐ戻る。此処で待て。安心して自分の作業をしなさい」
そう廊下を出る。廊下は他のギルドメンバーの部屋や、空室の部屋が多くある。奥にはモモンガの部屋があり、其処に立つセバスの姿があった。
セバスはこちらに扉をあけた瞬間に気づいており、こちらを歩いてくる。
「ヘマタイト様、ユリ.アルファは」
「ユリには、別の用を頼んだ。今は部屋の整理をさせている」
「成程。ヘマタイト様、下僕を連れて参ります」
「いや、構うな。私は、あまり大勢で囲まれるのは好まない」
「それは…」
「セバスの言いたいことは分かる。お前達の不安も分かる。けれど、分かって欲しい。
セバス、お前が仕える私は、そんなにか弱いものかと」
セバスは黙ってしまった。
ヘマタイトは彼の肩を叩く。
「分かった。セバスは今、モモンガさんに用事を頼まれているの?」
「いいえ」
「では、私の相手は貴方がしなさい。
貴方は他の守護者と同等よ。
誰も文句は言わないでしょう」
「かしこまりました」








ヘマタイトは9層にあるあらゆる部屋を見に歩いた。行為はゲームと変わらないか、部屋を調べたのち、NPCとも何人か交流を図った。
困った事はないか?こちらに転移しておかしなことはないか?と一人ひとり聞いてみるが、ユリと同じ様な反応だった。
(うーん情報としてはイマイチだな)
セバスが用意してくれた椅子に座る。彼を連れ回して、はや3時間。効率よくまわったが九時間が経過して居た。
「よく、付き合ってくれた。セバス。
休んでくれていいよ」
「何を言いますか。主人が働いているというのに休む下僕が何処にいるというのでしょう」
「嗚呼。では、モモンガさんについてやって欲しい。更に私の部屋に寄り、ユリにもうしばらくかかると伝えてくれ」
「かしこまりました」
セバスは動こうとしない。
それを察して、セバスに小さく口を開く。
「メイドに紅茶を持ってこさせて欲しい。少し休憩とする。つまみに果実が少し欲しい。
セバス、私の希望は先程と同じだ。聞いたから言いたい事は分かるね」
毒でも盛られたら、その時は別プランを考えなくてはならない。
「かしこまりました」
今休んでいるのは玉座の間にある自分の見晴台だ。どさっと、力尽きた様に深く、ソファに座り込む。薄く開いたまぶたでも、玉座の大きなシャンデリアが綺麗に見える。
直ぐにセバスと入れ違いにメイドが来た。後ろに控え、声をかけはしない。ヘマタイトを気遣っているのだろう。
しばらくして、控えていたメイドが下がり、別の紅茶と果実のワゴンを押した美しい金髪のメイドが現れた。
「紅茶を持って参りました」
美女は告げる。
「淹れてくれ」
「かしこまりました」
紅茶がここからでも香り立つ。
合成の紅茶で、此処まで良い香りはしない。
合成の紅茶はいくら高くても、薬ぽさが抜けない。粗末なものしか飲んでこなかったヘマタイトにはとても香ばしいと感じた。
差し出された紅茶を黙って受け取り、口をつける。味は一瞬飲む事をやめてしまうほど、美味しい物だった。
只、茶色く味のついた水ではなく、深みがあり、香りがあった。
「美味しい」
「勿体無いお言葉であります」
ようやく、メイドの顔を確認すると、プレアデスの一人であるソリュシャンだった。
セバスは少しでも、戦力になるものを置きたかったのだと、そこでようやく再度理解した。
(私の要求は聞く気はあるのか)
短い間だが、本気で彼らは奉仕したいのだと、納得をし始めた。
異世界転移という現実離れしたこの状況も、最初の驚きは嘘かのように落ち着いている。
「果実はつまめるものをと言われたので、小さくカットさせてあります」
果実がパフェのように美しく、銀の皿にもられていた。
「多いね」
「残してくださって大丈夫です」
「勿体無い。
食べ切れるだけでいい。
次回からそのようにして欲しい。
注文が多くで申し訳ないけれど」
「いえ!そのような」
「あとは、ユリが私の部屋にいる。呼んでくれ
「かしこまりました」
2分待たずして、ユリが来た。
少し怯えているようだ。きつい言い方をして出てきてしまったからだろう。
「ユリ、私は怒っていないから。休憩がてらに、お前達二人と、お茶をしたかった。お前達の忠誠心はひしひしと伝わって来る」
「「ヘマタイト様」」
二人は嬉しそうに顔を見合わせる。
「只、私は大勢に囲まれなれていないから、
ユリには少し強い言い方をしたけど」
「いえ、ヘマタイト様が心を傷められることはありません。私達は御身のお心のままにお仕えしたく思っています」
「そう、セバスにも叱られてしまった後だけど
自室以外は一人くらいの護衛は目をつぶろうかと考えているから、そのつもりでいて。
ユリには申し訳ないけど、当分お前には、私の用事に付き合ってもらう事になる。モモンガさんに用事を頼まれたら、それを優先で構わない。
コールでもなんでも、言伝でもいいから、中断の報告を」
「かしこまりました。
ヘマタイト様の慈悲深いお言葉、このユリ胸に刻みます」
「私も承りました」
ソリュシャンも頭をさげる。
「さぁ、紅茶を三人で楽しみましょう」
「私達も一緒でよろしいのですか?至高の御方であるヘマタイト様と、同席など」
「いいの。これは公共の場ではなく、私の自室同然。私だけの為の座なのだから」
よくよく会話をしていくと、ヘマタイトの自室はやはりすごいことになって居たらしい。
素材の宝庫だ。ギルドに参加をしてから、単体で動いても中位やお金は半分くらい自動で宝物庫に落とし、後の半分と上位を空間魔法がいっぱいになったら、自動ソートで自室に投げるだけで、整理整頓をしなかった。
プログラムでかいた自動ソートが適応していたが、数が膨大で、本人すら何処に何があるかまでは把握できていない。
自室の中に課金アイテムでアイテムボックスを増築しまくったせいで、使用されることのないアイテムが山の程になっていた。
ユリはそれを見て感動もしたが、まさかこれほどとはと、頭を抱えた様子だった。
「私のアイテム部屋のみは複数の入室を許可します」
さすがに許可するしかなかった。ソリュシャンも手伝ってくれるようでなによりだ。
「ん」
紅茶とフルーツが今まで食べたことが無いくらいにおいしい。ヘマタイトは少しと言ったのに、すぐなくなってしまった。
名残惜しいが、また用意して欲しいといえば、持ってきれくれるだろう。
「さて、ソリュシャンもユリを手伝ってくれるようだし、私も動こうかな。
紅茶美味しかったよ」
「ヘマタイト様、護衛は私がついても」
ソリュシャンが声をかけてくる。
「それには及ばない、転移でデミウルゴスのところに行く」
「かしこまりました」
ソリュシャンもユリも納得した様に頷く。
「まぁそのまえにアポかな」
モモンガがコールを意識して使うと、NPCにも繋がると言っていた。ためにし使ってみる。
「ーデミウルゴス?」
「ーこれはこれは、ヘマタイト様」
落ち着いた彼の声が聞こえる。
「ー今からそちらにいく。館のほうでいいね?」
「ーかしこまりました。すぐ準備いたします」
コールを切ると、一度プレアデス二人に視線を向けてから指輪で転移をした。






灼熱のフロワーの中に神殿が現れた。
(此処はまじで暑いわ)
熱耐性が100%ではないので、少し暑さを感じる。岩盤を歩くぶんには、ダメージは入らない。マグマだと、地熱ダメージが入ってしまうだろう。
(ダメージって痛覚はいるのかな)
少し興味が湧いてきた。マグマをみると、眩しい赤と黄色が視界一杯に広がる。座って、その真っ赤に煮えたぎるマグマに手を伸ばした。
「デミウルゴス?」
「申し訳ございません」
デミウルゴスが後ろに控えているのは知っていた。ヘマタイトはマグマへの興味を優先した。
触れようとした人間のような皮の手を、長い爪の手が掴んでいた。デミウルゴスは驚いたようにその手を離す。
「下僕である私が許可なく御身に
ヘマタイト様、どうぞ私を罰してください」
「なぜ?」
「恐れながら、ヘマタイト様の熱耐性は100%ではなかったと思います。そのお手が私が守護する”ソレ”に触れてしまったのなら
例えヘマタイト様でも多少のダメージはお受けになられると不敬ながら、考えました」
ヘマタイトはようやく手をマグマから引いて立ち上がる。
「さ、神殿へ行きましょうか」
「その」
うちの下僕たちはどうやら過保護らしい。
「私が軽率だった」
「いえ!けしてそのようなことはっ!」
「いい。説明してから行うべきだった。さて、約束どおり此処にきたよ。あのときは緊急時だったから」
デミウルゴスのしっぽがヘタリと床に落ちた。
表情はカチッと固まってしまっている。
「どうした?」
「いえ、まさか、ヘマタイト様が再びこんな早くこちらに
!?
まさか、私どもを置いてお隠れに!?」
そういやここログアウト場所だったわーとヘマタイトは呆然とデミウルゴスを見る。
その様子を見て、慌てふためくと他の悪魔達も、よって来てしまった。
「大丈夫、そんなつもりはないよ。
ただのデミウルゴスとの約束を果たしにきただけだよ」
「”約束"?ああ、そうでございますか。
なるほど」
デミウルゴスは立ち上がる。しっぽにも元気がもどったようだ。
「ウルベルト様のお約束をヘマタイト様もご存知だったと?」
彼は嬉しそうに微笑む。
「ん?」
デミウルゴスが、少し近寄り、膝をつき直す。
手を取り、こう告げた。
「光栄の至極で、ございます」
「そんな、大げさな」
「いいえ、御身は至高なる御方の一人。
守護者であるこの身に叶わない願いと思っておりました。
創造主であるウルベルト様に最大限の感謝を」
「ん?」
他の悪魔達も先程の慌ていた様子から、全員デミウルゴスを見つめている。
その顔色は喜びに満ちていた。
(あぁ、そうか、今までの僕達同様に
彼らは、最大限の忠誠を誓ってくれていて
再び、忠誠を宣言する、喜びの瞬間なんだね。)
ヘマタイトは、優しく笑いかける。
会話を途切らせてしまった再会に来ただけだが、彼らには相当意味ある事だったらしい。
「いいよ。デミウルゴス」
「はっ、恐れながら!
このデミウルゴス、
至高なる御方であるヘマタイト様に
求婚を申し上げます!」
「ん??
は?い?」
悪魔達に歓喜の声が広がった。














「モモンガさああああーん!ヘルプミー!!」
「うわぁ!!?ヘマタイトさん!どうしたんですか!?
敵襲ですか!?NPCの反乱ですか!?」
思わず、モモンガに抱きついてすがる。
「ふええぇ……」
「そんな、あの落ち着いたヘマタイトさんがこうも!?
自体は相当深刻なんですか!?
大丈夫です!必ず俺が!お守りしますから!」
モモンガが杖を構える。
「あ、あのですね!
モモンガさん、反乱とかじゃなく」
「敵襲ですか!」
「て、敵襲じゃなく、そのウルベルトが……」
「え?ウルベルトさん?」
「ウルベルトが、デミウルゴスの設定をいじってたらしく。一度ご確認をして頂けませんか?」
「わ、わかりました。
すぐ確認します」
すぐさま、ギルド武器である杖で設定を開け、モモンガは確認をして、肉のない骨の顔が固まった。
「ま、まさか……」
「なんて、書かれていました?」
「ヘマタイトさんは見ない方がいいかもです」
それを聞いて、ヘマタイトは真っ青になる。
「私、デミウルゴスに解体されちゃうんです!?」
「いや、そうはならな……うう……」
モモンガが顔を覆う。
「どうなんですか!?いや、ゲームのままなら、デミウルゴスには私は負けませんけど!?モモンガさんも守りますけど」
あの、ウルベルトが作った悪魔である。
何をしでかすかわからない。
「あの、ヘマタイトさん、
デミウルゴスに婚姻を申し込まれたんですよね?たぶん」
「そうですよ!?私は弄ってないですからね?」
疑わないで!と腕を組む。
「まさか!そんな!ヘマタイトさんが黙って、他のギルドメンバーの作ったNPC設定を変えるとは思ってません。ウルベルトさんが、その……」
モモンガは口を噤んだ。
待っても、彼から言葉は出てくることはなく、デミウルゴスのキャラ設定ページも閉じてしまった。
「モモンガさん?」
「いえ、その……うーん」
彼は悩みに悩んでようやく口にする。
「ウルベルトさんは、ヘマタイトさんがよほど、デミウルゴスを気に入っていたと思ってたらしく
そんな設定をしたみたいです」
限りなく、嘘がない、モモンガなりの答えだった。
「そう」
ヘマタイトの硬い羽が床についた。
「ウルベルトさんも、ヘマタイトさんの事を気遣ってくれていたんですよ」
「嫌われていたんじゃないの?」
「そんな!ウルベルトさんが!
そんな訳ないでしょう!?
あんなに……あんな……
絶対それはないです!デミウルゴスの設定からはそんなことは微塵も感じられません!
それに、ウルベルトさんは最後のログアウト時まで、ヘマタイトさんの事を気にされていました」
激しく、そうモモンガは言い切った。





















「御方であるヘマタイト様も一人の女性ですから、プロポーズという物は厳かに行った方がよろしかったのでは?
おそらく繊細な方ですし、静かにお二人の時間を取って頂くのは如何でしょうか」
イビルロード・エンヴィーは提案をする。
「我々が勝手に先走った結果、気分を害されたのかもしれません。下僕にお優しいヘマタイト様の事です。
それを我々に告げずにさられたのかも」
悪魔達は顔を見合わせ、思考を巡らせる。
「ふむ」
デミウルゴスも流石に頷いた。
悪魔達にとって創造主であるウルベルトは特別であり、彼の設定に書かれたあの約束は、悲願である。
「そうだろね。
わかった。伺ってみるよ」

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