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悪魔の求婚
9話
傷は全部治ってしまって、全開と変わらない。しかし、NPC達が不安そうにしている。ヘマタイトは自主的にナザリックに数日引きこもることにした。
セバスがずっと付いてくるのは、きっとアインズあたりに機嫌を伺ってこいと言われたのだろう。
(セバスなら、私がジャケにしないって
あのギルド長は分かってきたな。)
自分のギルド長は優しく、よく観察していると関心する。
セバスが付いて来る事により、何処をうろつこうが護衛は?と誰も聞いてこない。
「ふん!」
第四階層のコロッセオの真ん中で、剣や槍を振りモーションを確認する。
手合わせをするために、コキュートスは呼び出してある。もうしばらくすると来るだろう。
「あーーー。」
最近向こうの体が体調不良が続いて、感覚が鈍っている。
「まずい。」
「如何しましたか。」
ほとんど、全盛期から4年のブランクがある。ユグドラシルには居たものの動かすたびに激痛が走るので、それを避けての動きが多かった。
「あまりにも最前線から離れすぎた。」
剣をどれだけ振り続けてもどうも遅いと感じてしまう。
「いやー大会に出ていた頃と比べてなまってる。
これは1000本ノックでも足りない。」
もはや、プレイヤースキルの初期化ではないか?とヘマタイトは疑いたいレベルだ。元々、種族値も職業値もない自分の取り柄が、プレイヤースキルだった。それを無くしたと思うと、悪寒が走る。
「今、ナザリックで100レベで最弱なの私じゃない?
全盛期からの比べたら底ぞこなんだけど……」
地面に崩れ落ちる。
「ヘマタイト様、お気を確かに。
ヘマタイトの剣技は今でも素晴らしいものだと思います。
全盛期を私は残念ながら、この目で見れていない事が残念でなりませんが」
「……ほんとお世辞はいいです。
とりあえず、リハビリだな。」
しばらく、回避や剣を振っていると、コキュートスが現れた。
「いらしゃい、コキュートス。今日は模擬戦をしてもらおうと思ってね。」
「模擬戦デスカ。」
「といっても、物理がある一定を超えないと、私達はダメージが通らない。
それを利用して、実剣で戦おうとも、怪我をしないって訳さ。」
「ナルホド。シカシ、私ハ物理攻撃ガ高ク……」
「ステゴロだったら痛いだろうけど。これを使えば、心配はいらない!」
10本程剣や槍をならべる。
「装備すると、防御力が上がる代わりに、攻撃力が大幅に落ちる武器だ。
これなら、いくら斬り合ったってかすり傷を受ければいい程だ。」
「シカシ、ヘマタイト様ニ剣ヲ向ケルノワ。」
「コーキュトス、なんでも罰を受けるって言ってたじゃないか。なら、甘んじて受けてほしい。
私も今後、下手を打ちたくないからね。
しいては私の為だし、こんなに安全性に配慮しているんだから
それに武人てして、自分が仕える者の力量を測るっていうのもオツでしょう?」
興奮したかのように、コキュートスが冷気を吐く。
その後には言葉はいらない。
武器を各々手に取り、一定距離離れる。
「セバスー!」
時計を投げる。
「30分過ぎたら、声かけるか、止めに入って」
「かしこまりました。」
「さぁ殺ろうか。」
ヘマタイトが短剣を適度な高さにまっすぐ投げる。
円を描き落下しながら、地面へと向かう。かつんっと音を立てて安物の短剣が地面へ落ちた。
その瞬間土埃が舞い、地面が抉れた。瞬足の一刀が風圧だけで、その煙を切り裂く。
「ほう、反応できるんだ。」
コキュートスの背中に剣先がガリガリと音を立てて通る。
6個の目がその姿を捉えきれたのは、側にヘマタイトが来てからだ。
(早イ........)
前回の討伐作戦と違いヘマタイトは、装備を対人用のアイテムを装備している。
ヘマタイトの剣はコキュートスの背中を裂いたようにみえるが、わずかに外装を裂いたのみで、HPまではヘリもしない。
「流石、ヘマタイト様デス。シカシ、ソノ体制カラ避ケレマスカ」
四本の武器が同時にヘマタイトを襲う。
火花を散らして、その剣達をヘマタイトはほぼ同時に叩き裁く。
「ハッ!」
立った一本の細いサーベルの切っ先が、少しでも攻撃の手を緩めれば、向かってくるのがわかる。凄まじい応戦が、繰り広げれ、一発一発が重く、渾身の技だと分かる。
「二撃一殺」
ヘマタイトが、小さくスキル名を口にする。ユグドラシル時代、ヘマタイトがあらゆるプレイヤーに対して猛威を奮ったスキルだ。スタミナを消費することにより、一定時間二倍の速度で攻撃を行う。
ただし、このスキルには致命的な弱点がある。攻撃力が半分になるということと、通常動いたと同じだけスタミナを消費する。普通のプレイヤーはこれをゴミスキルといってオフにして表示さえしていないものが多い。
ヘマタイトはタンク向きのスキル構成はスタミナが高めになっている。攻撃を受け切るにはスタミナ消費を行うためだ。なので、スタミナ問題はない。
「オオオッ」
コキュートスの剣を捌き切って尚、反撃にはいり、彼の外装に傷をつけていく。
こんなチンケな攻撃では100レベのプレイヤーに猛威を奮ったとは言いすぎだろうという印象だろう。現在オフにしているスキルに固定ダメージ追加と反射ダメージというスキルがある。固定ダメージは通常攻撃に加えて、多少の物理防御無効の微々たるダメージがはいるもの。反射は剣や盾で防ぎきった一割のダメージを相手に与えるもの。さらに相手の攻撃と同時にアタックを繰り出さないと効果が発生しない。この2つも、効果が薄すぎた為、プレイヤーに嫌われたスキルだ。
3種類の絶妙な組み合わせと、ヘマタイトのスタミナが相まって、凶悪なスキルとなる。
「コレハッ!!」
コキュートスは四本の腕でも捌ききれない一本の剣を睨みつける。
いくら、相手が御身でも、一発も自分の剣が届いていない事に、ふつふつと心の中で何かが湧いてくる。
「はははははははははははは」
逆にヘマタイトの気持ちは高揚していく。
ギルドメンツの皆が揃って死んだ魚の目でヘマタイトの事をこう呼んでいる。

ーーー「戦闘狂」だと

彼女は天才ではなく、凡人である。最初でこそ、それに目覚めるまではマジックキャスターなどもしていたほどだ。
ある日、敵を討ち取った時、彼女は高揚した。
それからというもの、異形のプレイヤーを守るたっちみーと共に戦場を駆け抜け、戦闘回数だけでいうなら、たっちみーを遥かに上回る。
更には、ウルベルトと二人で前衛と後衛に分かれPKを繰り返し、多くのギルドメンバーが引退したあとにも、モモンガをその剣と盾で守り続けてから更新し続けた。
ステータス振りは、ゲーム下手のため、褒められたものではない。
それでも彼女が凶悪だと言われたのは、盲目までの反復練習と戦闘回数だ。
どういう振り方をされたら、このタイミングで打ち返せばいい。どのようにフェイントをかけたら、相手が引っかかるか、悔しがるか。スタミナが減るなら、最低限しか動かなければい、足を止めて、回復させれば腕は動く。凡人は、狂人までの戦闘への固執により、昇華した。
ステータスもスキルもはっきり言えば、コキュートスの方が強いのだ。
ただ、コキュートスとヘマタイトには歴然な差がある。
「コキュートス、私の屍を越えてみせろ!」
圧倒的に戦闘回数が足りない。
「ハッ!!」
その数分で、何千回と武器を打ち込みまくった。
「そこまで!!素晴らしい戦いでした。」
汗だくのヘマタイトにメイドたちがタオルを持ってきてくれる。
「貴方は最高の武人として作成された。
しかし、足りないものがある。それは、ただ一つ、泥に塗れ、血で塗れ、多くの傷と屈辱に塗れないと、磨くことができない物、経験だ。磨く事をしなければ、それは錆びて朽ちるものだ。
コキュートス、一緒に武人として昇華しよう。」
「ヘマタイト様!」
ここに新たな戦闘狂が生まれた。
それからいくばくかの狂人までの打ち込み教室が始まり、夕食に呼ばれるまで続いた。






のちに、バーでの友人との酒盛りでコキュートスがこう語る。
「戦ウヘマタイト様程、美シイ剣ハ無イ!」
「羨ましぃ………」
消え入りそうな、デミウルゴスの声が響いた。
「わっちも!わっちもお邪魔したいでありんす!」
シャルティアも戦闘狂へ入団した。


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