人攫いの目的



壱弥が屋敷を出た頃。


とある小屋では2人の人影があった。

1人は小学生ぐらいの大きさ。もう一つはまだ3才くらいの幼児のものだった。



「さて、どうしたものか…」



少年こそが壱弥の息子をさらった人物だった。
少年にとっては子どもを集めることが仕事。指定はされていないが、“実験に使えそうな奴”が基準だ。


少年はこの幼児以外にも何十人と子どもを集めた。
それこそいろんな国から。


そして今回は日本。


こういう平凡な町が狙いどころだ。

しかし今回は誤算があった。
標的の母親が対抗してきたことだ。

今までにもそこそこ暴れた者はいたが、あそこまで本格的な戦闘になったのは初めてだ。

何せ少年の幻覚を少なからず自我で拒んだのだ。

腕も良く、キレは最高。

自分がまだ12年しか生きてないからかすごく強く思えた。


まあ母親が自我で幻覚を拒んだせいで脳に幻覚汚染が起こり、ひるんだ隙に子どもと幻覚を入れ替えてさらったのだが。

あぁいう大人は行動力がある。何かしらの動きを見せるだろう。

多勢に無勢になればこちらが不利。

少年は武術に慣れていない。幻覚一本できたからだ。
だから目的を果たした今、すぐに町を出るべきだと考えた。



すぐに行動するのがいい。


一カ所に留まっていれば見つかる可能性が高くなる。



「どこいくのさ」



立ち上がった少年に、幼児が問う。
まだ状況が把握できてない幼児は、なぜか大人しかった。



「町を出んだよ」


「へぇ」


「お前も一緒だ」


「いやだよ」


「ダメだ。お前が一緒じゃねえと意味がねぇ」


「しらないよ」


「………ちっ」



ここで言い合っていてもらちがあかない。
少年は幼児を抱き上げ、歩き出した。

しかし、だ。


なんだこの幼児は。



「はなちなよ!かみころちゅよ!!?」


「いってぇ!!」


「はなちぇっていってんの!!」

「あぁぁぁぁもう!!」



母親似なのかこの度胸は。
それとも父親がこうなのか。

両方じゃないだろうか。


とにかく暴れた。反抗的な態度は大歓迎だ。それだけ実験にも向いてるってことだし、自分の幻覚を拒んだ女の子どもだ。

それなりに期待できる。


しかしこの反抗的な態度によって逃避に問題が出た。
子どもに騒がれては目立ってしまう。


時間だってないのに……どうしたものか。



「お前母親と父親、好きか?」


「きらい」


「じゃあなんで戻りたいんだよ?」


「バカじゃないの?もどりたいなんていってないじゃない。ぼくはただ並盛からはでたくないだけ」



なんなんだその基準は。



「それにあのひとたちいつもいつもいちゃついててウザい」


「……そうか」


「このまえなんかぼくにおんなようのふくきせようってむりやり……」


「苦労したんだな」


「まったくだよ」



なんなんだこのマセガキ。

少年は哀れすぎる少年の環境などに興味はなく、なぜ3才でそこまでの情緒が安定しているのかの方が気になった。

この年頃は第一次反抗期なりは来るだろうが、情緒はまだ不安定のはずだ。


おそらく普通は親や家族に対する執着くらいしか考えられない。はず。


この幼児を見てると断言できなくなるが。



「とにかくぼくはいかないから」


「あっ!オイ!」



考えている間を狙ったのだろう。幼児は明らかに幼児とは思えないほどの身のこなしで小屋から出て行った。

幻覚を使おうにもまったく意識がこちらに向いていない。


しかしこのままうまい餌を逃がすわけもない。相手は3才だ。

いくら自分が体力無かろうが負けることは間違いなくない。


それは必然で、もう幼児の後ろまで来た。



「こないでよ!」


「あーあーうるせー」



走る走る。


よし あと一歩。


少年が腕を伸ばし、幼児の身体を捕まえようとしたときだった。







バチィィィッ!











「!?」



走った鋭い痛み。
あまりに唐突な出来事に少年は手を引っ込めてしまった。


マズい、と思って幼児を目で追う。




「……………は?」




そこには誰もいなかった。




「…………どうなってんだ?」



見回してみるが、辺りには茂みばかりだ。どこにも生き物がいる気配はない。



「…………」



息を呑んで、さっき電気が走った部分に触れてみる。
だが何も起こらない。進んでみても、景色通りの茂みに出るだけ。



「……一体……」



どうなってやがんだ?



少年が呟いた声は誰に聞かれるでもなく。


ただ並盛山に木霊していた。



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