2人は人気者

屋敷から駆け出し、並盛を走り回る。

お使いの内容はお刺身と、野菜、牛肉に牛乳。


いつもなら荒哲にやらせるのだが、今回は久し振りにと恭沙が頼んだのだ。


ちなみに後ろには哲也が邪魔にならないようについてきている。


哲也は荒哲の息子で、恭弥と同い年。

ふと恭弥は足を止める。



「ねぇ、きみってなんさいなわけ?」


『にゅ?』



首を傾げる少女。
恭弥の質問の意図を理解していないようで、どうやら年、というものがわからないらしい。



「うまれてから、なんねんたったの?」


『んっと、んーっと』



一生懸命に思いだそうとする少女。その様はどうやっても年下だ。

これで年上だったらどうしようか。


恭弥がすこし顔を歪めたとき。



『えっと、3しゃい!』



少女はやけにかわいらしく指を突き出した。



「…ほんとうに?」


『にゅ!だってかあちゃまがね、このまえお部屋をだしてもらったときにゆったの!

おまえはみっちゅなのに、なんで

って。おかおくるちそうだった……』



母親の悲しげな表情を思い出してか、少女の表情も沈む。

同い年だったのは嬉しいが、それはあまり歓迎したものではない。恭弥は少女を抱きしめた。

幼児だからこそまだ男女に肉体的な差はでない。
しかし恭弥から見ても少女はあまりにも小さかった。


食事を十分に摂っていなかったのも原因なのだろう。それとも親の愛情不足か。

いや、両方なのだろう。



「ほら、かいもの、はやくおわらせるよ」


『にゅっヽ(≧∇≦)』


「(かわいい………)」



恭弥が少女の手を繋いで、商店街を歩く。

商店街の大人達は、雲雀の息子が女の子と仲つむましく歩く姿に呆気を取られ。


次第に可愛いらしい表情でじゃれあう2人に毒気を抜かれて和んでいた。


景気のいいおっちゃんはそこの坊主と嬢ちゃん!と呼びかけ、どっさりと菓子を持たせてやった。

嬉しそうに笑う少女に恭弥が顔を赤くする。ついぎゅっと抱きしめれば、周りから心地の良い歓声が飛び交った。


当然荷物は哲也が持ち、少女が欲しいものは自分の分まで全部あげた。


その様子にまで観客は和んでしまう。

雲雀の息子といえど、子どもは子ども。初々しく可愛らしい。

自分の菓子までやるとは、なんと健気なことか!


と誰かが拳を回して語った。



「ねぇ、だいこんほしいんだけど」



と八百屋に行けば。



「えんらいねぇ〜ほら、トマトも持っていきな」



とどっさり。



『きゅっ、きゅうに…んと、』


「ぎゅうにく」


『ぎゅうにくくだちゃい!』



と牛肉屋に行けば。



「ほらっ!サービスでもう300g分やるよ」



とどっさり。



まあ、回る先々でどっさりと土産をもらうわけで。


恭弥と少女は苦ではないが、大変なのは哲矢だ。

恭弥の2倍はがっしりした筋肉でなんとか堪えてはいるが、哲矢だって3才なのだ。

さすがに限度がある。



「きょーさん……」


「なに。てつ」



今まで存在その物を忘れていたのに、ふと哲矢が恭弥に話しかけた。

恭弥の顔色が一気に冷める。

少女との会話を邪魔されたからだ。

しかし哲矢もこれ以上はと勇気を振り絞る。



「りょうてがいっぱいになってしまいましたので、いったんやしきにもどります」


「…ふぅん」


「すぐにもどりますので、このあとの魚屋でまっていてください」


「もどんなくていいよ。かえれるから」


「………このあいだのひとさらいはまだみつかっていません。オヤジにいわれていますので」


「……勝手にすれば」



ダルそうに答える恭弥。
珍しく物わかりのいい恭弥に、哲矢がおどろく。それを感づかれてしまったのか、恭弥が何、と睨んできた。


いえ、とだけ返し、哲矢は屋敷に向かって走り出す。

いつでも全力で仕えろ。

それが草壁家の家訓だ。




一方恭弥はとある考えを持っていた。確かに今自分は危ない。おそらきまだあの少年は諦めていないのだろう。

狙われているとすれば少女にまで危険に晒すことになる。それだけはなんとか避けたいものだ。



だからここで哲矢を待つのが最善−−−−−−とは思わない。





「いくよ」


『どこにー?てちゅちゃんおいてっちゃうよ?』



動こうとしない少女。
ちなみに哲ちゃんとは哲矢のことだ。なぜちゃんかといえば、哲矢の髪が身長以上に長いからだ。


草壁家はなぜかリーゼントが基本らしく、髪を結うために生まれてからずっと伸ばし続ける。

いつもポニーテールにして、できるだけ地面に付かないようにしているため少女は哲也を女だと思っているのだ。


顔もまだゴツいわけではない。子どもならではの中性的だ。


間違えるのも当然だろう。

恭弥だって、最初は女かと思ったのだから。
ただし、これから荒矢に似てくると思うとぞっとする。



「てつならだいじょうぶ。ほら、おスシやさんいこう?」


『おすしー?』


「うん。おいしいよ」



さっさと魚屋で刺身を買い、2人は自由時間を満喫することになった。

この先にあるのは、壱弥が行きつけの寿司屋。竹寿司だ。



恭弥は行ったことはないが、壱弥の名前でツケがきくだろう。


そう考えて恭弥は暖簾をくぐった。



 


「いらっしゃい!!」



店にはいると今日はまだ仕込み中だったのか客はいなかった。

子どもだから看板の張り紙が見えなかったのだ。



「てきとうにつくって」


『えーと、…?』


「…このこにはわさびぬきで」


「ははっ、おもしれーガキだな!!よっしゃ、待ってろよ」



しかし仕入れ中にも関わらず店主は寿司を握っていく。中には金皿まであったが、大して気にはしていないようだ。



「たんと食べな!」


『きゃーい♪』


「あ。かんじょうはカズヤにつけといてね」


「?なんでい壱弥んとこの坊主か!気にすんなおっちゃんの奢りよ奢り!」


『きゃーい♪』


「…ほら。となり、すわって」


『にゅ!』



わくわくが止まらないのか、次々に出されるネタに顔を輝かせる少女。それをみているだけで恭弥は空腹が満たされるように感じた。


店主は適当に、といったにも関わらず全種類を作る勢いで皿を回してくる。


ふと、恭弥はネタをみた。



「ね、これなんていうの」


「お?渋いじゃねーか。かんぱちとヒラメのえんがわだな」


「ふーん。これ、もっと」


「おうっ!嬢ちゃんは何か気に入ったかい?」


『んっとね、あかいのと、しろいのと、きいろいの』


「タコとイカとたまご」


「ははっ、こっちは可愛いな!ちょっと待ってろ」



店主が嬉しそうに笑って寿司を握る。それが何回か繰り返され、だんだんと2人の空腹は満たされていった。


満腹になって、まず最初にトロンとしてきたのは少女だった。


甘えるように隣にいた恭弥にすりより、猫のように喉を鳴らす。


恭弥は優しく笑って、おやすみ、と少女の額にキスをおとした。



「昼寝かい?奥に部屋あるぞ」


「かりるよ」



恭弥は眠ってしまった少女を抱き上げ、奥の畳に下ろした。店主が持ってきたタオルを少女にかけ、立ち上がろうとしたとき。



『やー……』


「?」



離れた恭弥の腕を、少女が掴んだ。



「どうしたの?」


『いっちゃ、やー…』


「すこしはなれるだけだよ」


『やらぁ……ひっく』


「Σ!」



泣き出してしまった少女に恭弥が顔を青くする。一体どうしたというのか。

少女は勢いよく起き上がり、離れようとしていた恭弥の体に抱きつく。



『やら…きょーやはいるの。わたしのそばにいにゃきゃ…らめなのぉ…』



眠気によって呂律が回っていない。

居候してからはこんなになったことがなかっただけに動揺する。だが、不思議と答えは出ていた。



「じゃ、いっしょにねよっか」



それこそ今までにないくらい優しく、甘い声音で。


途端に少女が泣き止む。
恭弥はゆっくり少女を腕の中に閉じこめ、少女の後頭部に置いた手で自分の胸に少女を押し付けた。


次第に少女は安らかな寝息をたて始める。恭弥もいつのまにか夢の中に沈んでいた。
























「あら?あんた、どうかしたの?」


「しー。まあ見てみろって」



店主が嫁を連れてきたのは畳部屋。

そこでは可愛らしい子ども達が、まるで饅頭のようなぷっくりお肌で眠りこけっていた。



「あらまぁ…」


「可愛いだろ?壱弥んとこのガキと、彼女だ」


「あらあらまぁ……」



めずらしそうに見つめる妻に、店主はニカッと笑った。



「さて、壱弥に連絡しねーとなぁ」



















哲也が涙目で探し回っていたのは別の話。



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