text
アダムはイブを見ない。サードインパクト後。庵。
───シンジ君。
『…、』
その声はコントラバスの響きのよう。耳に重く心地よく響く。波の音と重なって、初めて会った日を思い出す。
───硝子のように繊細だね。
その声はもう既に記憶の中。
幾度も脳に反響して。
『もう、弾いてくれないの。』
『もう、居ないの。誰も。』
赤い海。人だった海。一つになった人々。仲間に入れなかった僕ら。
『居ないの。誰も。あたしと、あんたしか居ないの。』
『僕を置いていくの。綾波と一緒に行ってしまったの。』
『バカシンジ。ねぇ。バカシンジ。』
バカシンジ。あたしを見て。あたしだってあんたなんか見ていたくないけど、もう、アダムとイブは行ってしまった。
だからこの世界のアダムはあんた。
イブはあたし。
あたしたちには広すぎる海。赤い海。人だった海。一つになった人々。
波に浚われなかったあたしたち。
置いていかれたあたしたち。
『…また、…君にあうのが楽しみだよ。』
首の無い像に座って、うっすら見える月に向かって笑いかけながら、バカシンジは言ったんだ。
『今度こそ、幸せにしてみせる。』
今度は君の番だよ。
[*前へ][次へ#]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!