text エデンの園 庵カヲシン それは審判の時。 夜中にドグマに降りて。 神の使いが一歩踏み出す。赤い海。 『君の望むものはなんだい?』 『カヲル君と、僕の世界』 少し眉を下げて、残念そうに。 『それはできないな。』 つられて夢の使者の眉も下がって、 『なんで』 リリスを、白い巨人を見上げる。 『君と僕の世界は造れないよ。でも、君と、僕しかいない世界ならつくれる。』 夢の使者は赤い海に浸かった。 『何が違うの?』 『ここに君と僕の世界はあるんだ。君と僕、人の認識があるから君と僕なんだ。どうしても他人が混入してしまうんだよ。地球ではね。だから、ここじゃない、別の場所に、君と僕だけの世界、アダムと、イブの住んでいたエデンの園を築くのさ。』 『それでいいよ。それがいい』 使いはふり向き、 『…だけど、やはり君はそれでは満たされないだろう?』 使者は首を横に振る。 『そんなこと無い。僕はそれだけでいい』 『他人と比べるから、僕がいいんだろう?ファーストは?葛城三佐やセカンドのことはいいのかい?』 『君だけがいい。君が居てくれればいい。君だけが一緒に居ればいい。それだけでいい』 顔を覗き込んで赤い瞳を光らせる。 『本当に?いいんだね。』 『君が幸せな、…君も、僕も幸せな世界が、僕の望む幸せだよ。』 『…また新しく、エデンの園を築こう。神に口出しされないように、気づかれないところにしないとね。』 『…うん……、僕らが居なくなった世界は、どうなるんだろう。』 使いは目を細め、黙って笑っていた。 その後、目を開き、神々しいとも見える微笑みで、 手を差し出した。 『じゃあ、いこうか。』 『、?』 『君の望んだ、君と僕しかいない。シンジ君と僕の幸せな世界に。』 幸せだ。 手を握り返して、 『うん。行こう。カヲル君。』 体が溶けていく。 世界は、音を立て脆く崩れていった。 夢から覚めなくなったガキと、それを帰そうとしない神の使い。 …これは死んでいるのだろうか。 冷たい。いや、生きてる。静かに息をしている。叩く。起きない。叩く。起きない。 叩く。 起きない。 ドグマに降りて、 胎児のように丸く寝そべり、手を繋いで冷たくなった二人を見た。ほんの出来心で、むかついて、その手を離してやろうと蹴っ飛ばした。 まるで一つの像のように、離れない。 触ってみると、そこだけ。 二人の体は溶け合っていた。 [*前へ][次へ#] |