デジャブ?
―《魔狩り》宿舎―
その日の夜は少し欠け始めた満月であった。
廊下を歩けば必ず聞こえてくるセインの名前。しかしその名前の持ち主はどこにも見当たらなかった。
ラルフは風呂上がりで火照る体を冷やしに中庭へと出てきていた。
「うーん!気持ち良い風…」
近くにあったベンチに座って昼の出来事を思い返す。
(とんでもない奴が仲間に入ったよなぁ……あんなに美人なのに…。)
そよそよと風に髪を遊ばせながら何となく中心に立つ木に目線を送る。
ふと視界にちらついた白に目を細めた。
(…あ……。)
風になびく長く白い髪……淡く光って見える冷たい青。
満月に遭遇した白龍を思い出す。
しかしよく見れば月の光に照らされて白く見えるだけで銀色である事に気付く。
そして
「セイン……」
「…ラルフ、か?」
普段着ているマントとローブのような白い服は着ておらず、黒い袖無しのシャツとズボンの姿で銀髪の持ち主、セインは振り返った。
「男だったのか…」
「最初から言っていた筈なんだが?」
近くへと寄って来たセインの胸辺りに目線を送りながらぼそりと呟けば不機嫌に返された。
……ごめんなさい。
「…そういえばさ、今日のアレ…凄かったな?」
誤魔化すように話題を変えればさほど気にしていない様子でセインは隣に座った。
「大した事はしていない…だが、噂通りの試験だったな。タイラントリザード…素人には倒せないモンスターの筈だ」
「まぁな…俺も最近入ったばかりなんだけど、あの時はヒポグリフが相手で大変だったよ。」
ヒポグリフとは巨大な馬と鳥が合わさった様なモンスターだ。
ランクは中級ぐらいの筈…
「入団試験とは思えない内容だな」
フッと笑って見せるセインに初めて眉を寄せる以外の表情だなと思いながらつられてラルフも笑った。
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