短編集
7-森本side-
トントントントントントンッ───…
「………。」
トントントントントントンッ──…
「おい。」
トントントントントントンッ──…
「聞こえてんのか?あぶねーぞ。森本。」
トントントント─ザシュ─…
「いったあああああ!!」
野菜を切っていたはずが、何故か、自分の指が切れていた。
てか、野菜は?
まな板に乗っているはずの野菜がない。
「はあ…だから言わんこっちゃない。お前今日はもう帰れ。てかさっさ病院行け…全く。」
チーフも呆れ返っている。仕事に私情持ち込むなんて…。
「すいません……。」
情けねー自分。
「次の新作期待してるからな。早くその“病気”治せよ。」
……ばれてる!!
え、いつばれたんだ?!
「皆!伊織ちゃん来てるぜ。てか誰あのちっこいの?弟かな。」
「あら、本当、可愛いの二人居るなんて微笑ましい。今日はサービスしなくちゃね!」
「やっぱ、可愛いな。」
上から順に、アホと変態女と犬。
……分かったから、そんな睨むなよ。こえーよ。
「お前見ねーの?伊織ちゃん来てるんだぜ?」
え、あ、そっちか。てっきり紹介で睨まれてるんだと…。
「………お前ら分かったから、さっさと立ち位置に戻れ。」
正直今は、会いたくねーんだよな。
別に嫌いになった訳じゃない。嫌いになるはずがない。
「何よ!チーフだってみたいくせに!ね?森本………森本?大丈夫?」
でも、これ以上自分の気持ち抑えるなん「森本!!」
「え…あ!はい!大丈夫です。すいません。今日は帰ります…。」
ヤベー。何やってんだ俺。
帰る間際にちらっと伊織の方を見る。
幸せそうに、パクパク食べてるが目に入った。
俺はあいつのあの顔が好きだから、つい何でも作ってしまう。
でも………。
「くそ…!!」
ここにガキ連れてくるんじゃねーよ!
…………はは。本当ヤベーわ。ガキ相手に…。
【こんなおいしいお店知ってるのって得した気分だよね。そこらへんの人に教えるのもったいないから、いつか大切な人に教えたいな。】
……お前にとって、大切なのは……。
!!!
ふとガキと目が合った。
あのガキ絶対、俺をからかっている。
俺は気付かれないようにそっと帰った。
「あの反応珍しいわね…。伊織ちゃん来たら真っ先にテンション上がるのに。」
彼女に同意するように、後の二人が頷く。
「喧嘩でもしたとか?」
「「「………ないない…。絶対ない。」」」
そういって、周りは一斉に首を振った。
「お前らさっさと仕事しろ!!!」
チーフの声により、自分の立ち位置に戻る彼ら。
「………あいつも報われねーな。」
伊織を見て、一人呟く。
「やっぱ、チーフも見たいんじゃん!」
「ねー?」
ゴンッ!!
もちろん。殴ったのは気のせいではない。
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