短編集



「……嫌だ。いきたくない!」

じりじりと近づく長身に生徒は、怯えた顔をする。

お前が行ったら逆効果なんじゃ。


「悪霊になってしまえば、二度とその姿には戻れんぞ。それでもいいなら好きにすればいい。ただそうなったら場合問答無用で…消す。」

「……っ!」


消すの部分がやたら、殺気がこもっていて、俺まで体が一瞬固まってしまった。

目の前で受けたら、本当に心臓止まりそうな程。


「ぼ、僕は悪霊なんかじゃない!」


そりゃあそうだろ。どうみても生きてんだし。


「……今はそうでなくても、お前は危険人物としてリストアップされている。」

なんだよ危険人物って。
あの生徒が悪さするような奴に見えねーんだけど。


「僕は何も悪い事してな…っ!!」
「本当にそう言えるのか?村井幸利。」


名前を呼ばれた瞬間、体がびくつき、涙目になる。


「違っ……助けっ…お願っ!!…」

「………っ!」

一瞬こっちを見た。
俺に助けろって言っているのか?


ああ、もう!
俺は正義とかそんなの持ち合わせてねーし。
助ける義理もねーけど。

ガシャンッ!!

あんな風に助け求められたら、逃げる訳にはいかないだろ。

「お前、いくらなんでもやり過ぎだろ。」


俺はフェンスをよじ登って、生徒を庇うように前に立った。


て、お前ら、よくこんな所で…。
一歩踏み外せば、あの世逝きだぞ。


「ふふふっ。ありがとう。“アキヒト”」

え…なんで俺の名前知って…
「危ない!!」

「えっ?うわああああ………あ??…」

突然後ろから突き落とされたと思ったけど、全く落ちていなくて。

でもさっきの落ちる感覚は何なんだ?


「お前は馬鹿なのか。仕事の邪魔して楽しいか?ん?逃げたけど、どうすんだ。お前。ん?」

怖い。とてつもなく怖い。

「…ごめんなさい…。」


いやマジで、目だけ殺せる。
目つき悪い俺が言うのも変だけど。

てか逃げたってなんだよ。
後ろに居るだろ。
そう思って振り返ったら

「え?」

あいつまさか落ちたのか!?

「はあ…。あいつは霊だ。それも凶悪な。」

は?…

「霊!?」

でも足、足あったぞ!!

てか凶悪って……。


「たくっ何の為に悪霊になる前の霊を強制送還してると思ってんだ。」

はあとため息をつく。

「お前いったい……」

「俺の名は、青珠(セイシュ)。またの名は、宮澤敬太。俺の仕事は悪霊もしくは、それになる前の霊を強制送還するのが仕事だ。」

宮澤敬太ってどっかで……。

「俺の秘密がばれたからには協力してもらわねばな?」

いや元からお前隠す気なかったじゃん!!

「ちなみに断ったらお前も強制送還するよ。」

ゾワッ!

ニコッと笑うこいつこそが悪霊なんじゃないかと思った。



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