短編集
3
ただ何となく何となくだ。
あいつが居ればと屋上に来ただけで、特に何もない。
「いないか…。」
そうだよな。そんなタイミングよく現れないよな。
千里の言う通り、俺はあいつに執着しているのか。
「…君はどうしてこっちに来たの?」
!!
誰も居ないと思ったから、背後からの突然の声に少し驚いてしまった。
「お前…」
振り向いたらあいつが立っていた。
「どうしてって…」
お前を探しに来たなんて言えねーし。
「な、何となくだ。」
俺がそう言えばきょとんとして、首を傾げる。
「現実じゃないのに?」
は?
なんか話噛み合ってなくね?
なんで屋上に来たか聞いてんだよな?
そう言ったまま黙り込むのを見て、ずっと知りたかった事を聞いた。
「なあお前名前なんて言うんだ。」
だが、首を横に振って教えてはくれなかった。
「……。」
あいつはそのまま何も言わず屋上から消えた。
初めて見た時も思ったが、誰かに似てんだよな。
「お前とあいつは同じだが違う。」
また突然に降り懸かった声に振り向いたら、知らない奴が居た。
二度目は驚かない。
一応175ぐらいある俺を軽々と越えた長身に、こいつもまた美形だと言われる分類に入るだろう。
その長身から、あの転校生を思い出したが、外見が全然違う。
「あーここ立入禁止だぞ。部外者は入ってくんなー。」
まあ俺も風紀員ていう名の部外者だけどな。
「お前とは違う。仕事をしに来た。」
ギロリ一瞬俺を睨みつける。
屋上に仕事てなんだよ。
何どうどうとサボってやがる。
俺も人の事言えねーけど。
「言っただろう。死後の世界は現実じゃないと。」
聞き覚えのある言葉に、何処で聞いたのか思い出していたら
奴はニヤリッと笑うと、フェンスに向かって走り出した。
「え?!」
その勢いのままフェンス飛び越える。
ちょっと待て、そんな簡単に登れるものなのか。
「何してんだ。危ねーだろ!」
一瞬落ちるのかと思った。
心臓に悪すぎるだろ。
「こっちの方がよっぽど危ないね。」
フェンスの向こう側で、ある方向を見つめる。
「…………っ?!」
その視線の先に一人の生徒が居た。
いつの間に!?
全く気配なかったぞ。
こっちの方が危ないってなんだ。
もしかしてあいつ、今から自殺しようとしている奴を止めようと?
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