[携帯モード] [URL送信]
世界一8
「あんまり人に見せるようなところじゃないけど、我慢してね」
そう、
少し恥じらうように笑う美濃さんが、
俺を連れてきたのは。
寝室のクローゼットだった。
畳まれるように開く扉。
その左側が解放されると。
そこにはスタイリッシュな掃除機が収納されていた。
空いたスペースには2段に重ねられた段ボールが。
更にその上にはトイレットペーパー、ティッシュ等が積み上げられていた。
ここに来て初めて目にした生活感のある光景に、
妙な安堵感を覚えつつ。
やっぱり見えないところまで片付いてるんだなぁ、と。
美濃さんの几帳面さを再認識する。
「最近使ってないから、一番下の段ボールに入れた…筈なんだよねぇ」
申し訳ないんだけど、
トイレットペーパーとか余計な箱とか、
下ろしてもらえるかな?と。
こっちがお願いしたことなのに、
そんなこと微塵も感じさせない態度の美濃さんに恐縮しつつ。
一言断りを入れて、
いざティッシュの山へと手をかけた。
わー、
なるほどなぁ。
同じデッドスペースでも、
向きを変えて収納せざるを得ないやつは、
一番奥に入れて見えないようにしたら綺麗に見えるのか。
収納も頭の使い方ひとつで随分変わるらしいことを学びながら。
一段目の段ボールへと手をかける。
少し引きずり出し、
持ち上げようと。
してみたところ。
「うわっ、これ、随分重たいですね!」
全く持ち上がらなかった。
仕方がないので。
もう少し箱を引きずり出し、奥に腕を差し入れる。
前に引っ越し業者さんに教えてもらった方法なんだけど、
箱の対角を持つと少しだけ重さを感じにくくなるらしい。
疑い半分だったけど、
びくともしなかった箱が、
少しだけ浮き上がったのがわかった。
「やっ、た…」
そのまま。
勢いをつけ、持ち上げた。
瞬間。
バリィッ。
何かが盛大に破けた音が、聴こえた。
そして。
「いて、いててて!」
筒抜けになった箱の底から。
バラバラバラバラ、
けたたましい音を立てながら、
いやに硬質な中身が滝のように降り注いだ。
主に俺の足の上、に。
とんでもなく痛いけれど。
かといって箱を手放すわけにもいかず。
それは、
箱の中から全部が落ちるまで続いた。
「あーごめんね律っちゃん、大丈夫?」
ちょっと中身を詰めすぎちゃった、と。
放心する俺から空箱を受け取り、
足の上に築かれた山を崩しにかかる美濃さんの。
方を、
見下ろしてみる。
「ちょ、み、美濃さん!これ…っ」
これ。
ていうか、これら。
辺りの床を埋め尽くすは、
直に目をついてくるビビッドカラー。
大小様々、
形状もなんだか個性に満ち溢れている。
それは、
紛れもない。
「あ、わかる?」
本日2度目のその言葉。
口にする美濃さんは、
さっきよりもずっと生き生きとしている。
わかるも何も。
たとえ分からなかったとしたも。
いくつかはがっつりモロな形状してるから、
容易に想像はつきましたよきっと。
「バレちゃったらしょうがないなぁ」
山を掻き分ける作業が止まる。
美濃さんの声が、
よく聞こえる。
聞こえて、しまう。
「僕ね、」
「大人の玩具コレクターなんだ」
このね、
全力でグロテスクで、
ばーんと目に来る色使い。
たまらないよねー、と。
山の中から拾い上げたひとつをまじまじと見つめながら。
どこかうっとりとした表情の美濃さん。
どうしよ。
どうしよ…っ。
この人、
ただの変態だった…!
色々とショッキングすぎて、
もはや動くことすら出来なくなった俺を、
捉えた美濃さんの。
「でもね、」
「そろそろ、集めるだけじゃ…物足りないんだ」
目の色が。
よくないものへと、
変わってしまったのを。
足の自由を持たない俺は。
ただ、
見ていることしか、できなかった。

[*←][→#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!