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世界一6
パソコン係りを頑張ろう。
そう心に決めたのは1時間前。
じゃあ今はというと。
「ちょっといいかな、」
すぐ隣から聞こえてくる声に、
びくり。
身を弾ませ。
「…どうかしましたか?」
おそるおそる、声の方を向く。
俺の隣のデスク。
昨日まで木佐さんがいた席に、
美濃さんが座っているこの状況。
事のはじまりは、
朝のミーティング。
役割分担が決定した直後に、
木佐さんの発した一言だった。
「ていうかさ、」
「律っちゃんが美濃さんの代わりにパソコン扱うなら、席遠いと不便だよね」
確かに。
羽鳥さんや木佐さんの役割に比べると。
美濃さんの言葉を受けながらの仕事になる俺は、
美濃さんと関わる場面は一番多くなる筈。
ともすると。
席が近い方が、
何かと都合がいいことは、いいのかもしれない。
それは、
そう、なんだけど。
「今だけでも席替えしようか?」
木佐さんのその言葉は。
今の俺にとって、
あまり有難いものではなかった。
「あぁ、それすごく助かるよ。お願いしてもいいかな」
「うん、いいよ」
全部移動するとなると時間かかるし、
とりあえず使うものだけ持っていく方向で。
美濃さんと木佐さんの間で、
簡素な席替えが行われることとなった。
その結果。
「よろしくね」
にこにこ。
ぱっと見とても輝いて見えるその笑顔。
裏があることを知ってしまった今となっては、
黒さを覆い隠すための仮面にしか見えない。
「よろしく、お願いします…」
なんで。
こんなにも笑うんだろうか。
転んで折れたなんて嘘まで吐いて。
それは俺が受ける筈の怪我だったんだ。
もしも。
俺が、
受けていたなら。
この程度じゃ済まなかっただろう。
あの時。
降り下ろされたパイプ椅子は。
真っ直ぐに俺の頭を狙っていた。
避けられなかった。
避ける気すら起きなかった。
この人がいなければ。
今頃の俺は。
記憶をなくしているか、
障害が残っているか、
あるいは、
死んでいた、かもしれない。
『君が僕のモノになれば、高野さんはこれを見ないし、聞かない』
『言ってる意味…わかるよね?』
こんな。
脅し文句、言われるまでもない。
この言葉になんの意図があるのか。
ミステリアスなこの人の考えてることなんて、
わからない。
わかるはずもない、けど。
俺は従わなきゃならないんだろう。
この人は秘密を握ってる上に、
俺のせいで。
こんなにもひどい怪我、
させてしまったんだから。
だから。
「………」
美濃さんから手渡された資料。
その一番最後のページに。
ひっそりと貼られた付箋紙。
俺はこれに書いてあることを、
呑まなければならないんだろう。
そこに、
どんなことが待ち受けているか。
わからなかったと、しても。
『今日、会社が終わったら』
『僕の家においで』

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