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くま6
4日ぶり見たマンション。
下から上まで見上げてみたら、なんだか懐かしく感じた。
そんなマンションも明日でお別れなんだけど。
エントランスに入りここも軽く見渡してみる。
やばい。
これじゃ俺、怪しい人みたいじゃないか。
ちょっと恥ずかしくなって、そそくさとエレベーターに乗り自分の部屋の階のボタンを押す。
このエレベーターのボタン、数字の字体が変わってて好きなんだよな。
そんなどうでもいいことを考えていたら、12階についた。
ドアが開く。
降りたところには、
今、最も会いたくなかった人がいた。
1201号室のドアに寄りかかり。
立ったまま、目を瞑り舟をこいじゃっている。
意識は完全に飛んじゃってる
こんなところで何してるんだ。
そんなに眠いなら自分の部屋で寝ればいいじゃないか。
そこまで考えて、はっとする。
この人、
いったいいつからこうしてるんだろう。
何の為に。
一瞬過ぎった考えを振り切るべく、ぶんぶん首を振った。
とにかく今はこの人を起こして部屋に収納しないと。
とりあえず高野さんの肩に手を起き、揺すってみる。
「高野さん」
「高野さん、起きて下さいよ、高野さん」
「ん…」
目が、虚ろなまま薄く、開かれた。
「こんな所で寝ないで下さい、高野さん。部屋に入りましょう」
俺を認識した途端、その目は大きく見開かれた。
心底驚いたといった様子だ。
「小野寺」
「な、何ですか」
俺までつられてびっくりしてしまう。
「小野寺…っ」
気がついたら。
俺は高野さんの腕の中にいた。
ぎゅうっと。
寝起きとは思えないくらい、強い力で。
抱きしめられてる。
痛いくらいに。
「た、高野さん、離して下さい、痛いです」
自由の効く両手で服を引っ張るも、全く離れてくれる気はないようで。
「ちょっ……高野さん!」
「何日も」
「何日も、お前を待ってた」
え、
この人、今、なんて。
まさか。
そんな。
でも。
「やっと帰ってきた」
少し身体を離し、向き合う形にされる。
高野さんの顔が見える。
目の下の、隈が見える。
もしかしなくても。
これって、
そういうことなんですか?
「おかえり、律」
あぁ、馬鹿だ。
アンタ馬鹿だよ、高野さん。
俺、
明日引っ越すんですよ。
どんなに待った所で、
もう此処へは帰ってこないんですよ。
なのに。
おかえりなんて。
そんな顔で言わないで。
そんな大きな隈作って。
そんな幸せそうな顔、しないで下さい。
近づいてくる顔。
抵抗する気なんて、起きなかった。

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あきゅろす。
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