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世界一4
少し手狭に感じる正方形の部屋。
2つの座椅子。
2組のクッション。
冬は布団をかけてコタツになるだろうテーブルは黒く、
上にはアイスコーヒーと玄米茶がある。
そんなシチュエーションで。
俺の斜め45度の位置。
座椅子に背を預け、
他社の少女漫画を熱心に読むその人は。
他でもない。
エメラルド編集部編集長、
高野政宗、である。
うわぁ、
やばいな。
面白すぎる。
こんなにネカフェが似合わない人、はじめて見たよ。
ファミリールーム空いててほんとうによかった。
マット席でごろ寝しながら漫画読んでる高野さんとか、
絶対に普通の顔で見れなかっただろう。
それにしても。
この漫画、
なんか物足りない気がする。
話の流れかたが単調というか、
先が読めてしまうというか。
うちの会社の漫画って、
やっぱり完成度が高い方なのかもしれないなぁ。
そんな。
新しい発見をした辺りで。
完全に飽きてしまった俺は、
込み上げる欠伸をひとつ噛み締めた。
「寝れるなら寝ておけ。3時間あればかなり違うぞ」
漫画から目を離すことなく、
的確な発言をする高野さん。
完全に没頭してるかに見えて、
何割かは常に周囲の動向へ意識を張り巡らせてるあたり。
確かにこの人は、
上に立つ素質をもつ人なんだろう。
言われてみれば少しだけ、
いやかなり眠たいような気もする。
「すいません…少し、寝ます」
「あぁ、」
やっぱりこっち見ない高野さんだけど。
返事が聞こえたのだけ確認して。
テーブルへと突っ伏した。
腕に顔を埋めた瞬間。
訪れた暗闇に一気に微睡んだ。
とき、だった。
「ふ、ぇ…」
ぐいっ。
両肩を引かれテーブルから引き剥がされる。
急激に訪れた眩しさに、
目をくらませてる間に。
人為的に傾けられていく体。
おれの頭が着地した先は、
「寝るならこっちにしろ」
こともあろうに。
高野さんの太もも、だった。
「ちょ、やめてくださ…い」
一度遠ざかりかけた意識をかき集め、
なんとか体を起こそうと。
するけれど。
するり。
髪に差し入れられた指が、髪をすく。
ゆるやかに、
やわらかく。
加えて。
あたたかい太ももの感触。
俺の意識は、
ふわふわと。
今度こそ。
遠ざかることをゆるされ、た。
( 暗 転 )
「……寝た、か」
撫で付けていた指を、
起こさないように抜きとった。
一度寝たらなかなか起きないのは知っているけど。
この愛らしい寝顔を見てしまったら。
丁重に動きたくもなるもので。
ここで終わるのがいつもの俺だとしたら。
今日のところは、
いつもの俺とは言えないんだろう。
「うにゅ…」
やわらかくて美味しそうな、
けれど肉付きの悪い頬。
そこそこの強さでつねり、引っ張ってみた。
眉を寄せ少し身をよじった律だったが、
起きる気配は全くない。
これなら問題はないだろう。
上に来ていた肩を押し、
仰向けの体制をとらせる。
テーブルの上のリモコンで設定温度を上げ、
少しばかり部屋を暖めたところで。
もう一度律に手をかけた。
今度は俺が貸したベストの下。
不自然に繊維が伸び、
所々裂けかけてるシャツへ、と。
「………」
かけた手の首を掴む、律の細い指。
起きてるのか。
いや、
寝息が全然変わってない。
だとしたら。
「無意識、かよ…」
すぅ、
すぅ。
相も変わらずあどけない寝顔。
にも関わらず。
無意識下でさえも守ろうとする、服の下。
「……わかったよ。」
お前が、
そうまでして隠したいなら。
今は見ないでおいてやる。
だから。
頼むから、
これ以上。
見えすいた嘘ついて。
心配ばかりかけてくれる、な。

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