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世界一2
固い床に寝そべり、
天井を見上げる俺は。
未だにこの部屋から出れないでいた。
『僕はそろそろ行くよ。終電に間に合わなくなっちゃう』
美濃さんがそんな言葉を残し出ていったとき、
俺も駅に向かえば間に合っただろう。
最終電車。
だけど俺はそうしなかった。
家に帰れば待ってるかもしれない。
高野さん、に。
会いたくなかった。
だってどんな顔で会えばいい。
絶対に問い詰めてくるだろう。
どうして高野さんを待たなかったと、
どうして何の連絡もしなかったと、
どうして、
ボロボロの服の下がそんなことになっているのか、と。
「いま…何時だろ、」
四方の壁を見渡してみても、
この部屋には時計がない。
腕時計はタイピングの時に外したきりデスクに置いたままだし。
ともすれば。
鞄の中にある携帯を使えばいいわけだけど。
今はちょっと、
あんまり見たくはなかった。
着信履歴に、
メールボックスが。
一体どんなことになってるやら。
考えるのがだんだん嫌になってきて。
ついに現実から目を背け、
何も考えないように。
して、いたら。
固い床に当たってる背中が、
じわじわ痛くなってきて。
ごろり。
寝返りを打った。
「よっ、と…イテテ」
殴られて時間の経った痣が、
限界まで腫れ上がってきたらしい。
体位を変えただけで、
あらゆるところが痛い。
あぁ、もう。
踏んだり蹴ったりだなぁ。
「………」
結局。
横澤さんとは話がつかなかった。
それどころか。
美濃さんに弱味まで握られちゃって。
弱味、かぁ。
美濃さんは。
俺の弱味なんか握って、
俺のこと脅したりして。
一体どうするつもりなんだろう、か。
「あぁ、もう!やめだやめ!」
駄目だ。
このままこの部屋にいたら。
考えてしまう。
高野さんのこととか。
どうにもしようもない、
これからのこととか。
かんがえたって、
どうしようもないこと、ばかり。
だから。
すー、
はー。
深呼吸で意を決して。
「とぉっ!……ぅぐっ」
立ち上がってみた。
案の定というか、
やっぱりというか。
寝返り程度じゃないくらい痛くって、
あんまり人に聞かせられない声が出てしまった。
うん、
誰もいなくてよかった。
みっともなく縮こまってる体勢を利用し、
なんとかかんとか鞄を拾い上げる。
これで部屋を出る準備は整った。
とりあえず、だ。
このまま時間がわからないのも不便だし。
デスクに置いてきた腕時計でも取りに行こう。
明日までどうするかとか、
考えるのはそれからでも遅くない。
よろよろと老人よろしく歩みを進め、
ドアを開け放てば。
照明の落ちた廊下が俺を出迎える。
うん、
やっぱり。
人気のない会社ってやつは、
そこそこ不気味なものだった。
幸い階段の側の部屋ということもあり。
壁づたいに歩き、
あまり苦労しないで階段の電気を点けることに成功した。
同様の要領で数階下を目指し、
目的のフロアに着く。
「え…」
遠目に見ると、
エメ編のところだけ電気が点いてる。
まさか。
いや、
そんな筈、は。
ないだろうと言い聞かせるも、
可能性を否定しきれなくて。
足音殺して、
ゆっくり近づいて。
他の編集部とエメ編を仕切るついたてから、
こっそりと様子を伺ってみた。
「誰もいない、か」
確かめるように口に出し、
あからさまにほっとする。
そうだよね。
鞄も残ってないんだし。
高野さんが俺を待ってるわけ、ないじゃんか。
足音殺すのをやめ、
自分のデスクに向かう。
随分と前に外された腕時計を回収し、
文字盤に目を落とした。
そのタイミングで。
「もうすぐ3時になるところだ」
「うわ、もうそんな時間かぁ。どーしよ、ネカフェ行くにも半端な時間……」
背後から降ってきた声に、
ごく自然に会話しかけて。
いやな予感に、
恐るおそる振り返って、みると。
「随分遅かったなぁ、小野寺」
鬼の形相の高野さんが、
悲しいくらいの至近距離から俺を見下ろしていた。

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