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下心16
美濃さんとようやく向き合うことができたのは、
いそいそと乗り込んだエレベータの中だった。
2人だけの空間。
顔付き合わせてる状況に少しだけ、
気まずさを感じるけれど。
「あの、」
「どうして、こんな…」
今日は、
この人に聞いてばかりだ。
だけど今回ばかりは、しょうがない。
そう、
思うんだけど。
いざ聞くとなると、
なんて聞いていいかわからなくて。
途中で口ごもってしまったのが。
どうにも可笑しかったみたいで。
「ふふ、くくっ」
耐えきれない、というように。
肩揺すって笑い始めてしまった。
えっ、
今のそんなに笑うポイントかなっ。
駄目だ。
美濃さん、
やっぱミステリアスすぎる。
全然理解できないよ。
そんな風に考えてたら、
しっかり顔に出てたらしい。
じわっと浮かぶ笑いすぎの涙を拭いながら。
「ごめんごめん。でもね」
「凄い顔してたんだよ、律っちゃん」
想像してたのと、
なんだか違う言葉が出てきて。
今のおれは。
多分ぽかんとして見えるんだろう。
というか、
してるんだ、まさしく。
やっと普通に戻った美濃さんの。
さっきまで俺の手首、
掴んでた手が。
ぽふん。
俺の頭に置かれた。
「え…」
そのまま。
なでなで、される。
「あんなに全力で『行きたくない』って顔されたら、ねぇ」
拐いたくもなっちゃうよね、と。
一向に治まらないなでなでの中。
俺はひとつのことを思った。
俺って、
もしかしなくても。
色々と顔に出すぎなんじゃ…?
「ていうか、」
「僕あの人キライだし」
なんだろう。
自分の世界に入っててよく聞こえなかったけど。
今一瞬ものすごく黒いオーラが見えたような気が……
チン、
軽い音がして。
エレベータが目的の階につく。
開いた扉の先。
すっかり忘れかけてた。
黒一色なその人と。
ばっちり目が、あってしまった。
「おはよう高野さん」
「あぁ、おはよう」
スマートに挨拶を交わす2人をよそに。
一歩も動けない。
俺が会社に来たくない理由。
その2つ目がいま、俺の目の前に。
あぁ、
気まずい。
気まずいよ、まじで。
一言二言会話を交わしてる2人を尻目に。
そろり、
抜き足差し足でこの場からの離脱を試みる。
早く、
通り過ぎちゃお、
「上司に朝の挨拶もなしか」
で す よ ね
この人から逃げようだなんて、
そんな甘いこと。
許すような人じゃない。
わかってたけどさ。
たまには見逃してくれたっていいじゃんかよ。
ただでさえ、
朝から随分と濃かったんだから。
それも、
原因はアンタなんだからなっ。
あぁ、そう考えたら。
なんか。
腹立ってきちゃった。
高野さんの方を見る。
色々と憎しみ込めて睨み付けてみた。
「なんだその顔、」
「おはようございます!!」
聞こえないなんて言わせない。
というわけで。
腹から声だして挨拶してみた。
へんっ。
やってやったぜ!
これで満足かよっ。
いちゃもんつけられる前に、
その場から走り去ることに。
なんだよ。
なんなんだよ。
朝だって会ってるじゃん。
今さら挨拶とか、さぁ。
今さら、
「あれ…」
そういえば今日、家で高野さんに。
おはようって、
「待て!」
背後から聞こえてきた怒声に、
思わず足を止めてしまって。
そしたら、
「おはよう」
もう。
何でもいいか。
取りあえずは今、言えたわけだし。
あぁ、
でも、やっぱり。
もう少し普通に言えばよかったかな。

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