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くま4
「なぁ、小野寺」
コツ、
コツ、
革靴の音が近づいてくる。
高野さんが近づいてくる。
あわせるように、逃げるように後ずさりする。
「お前、ここ数日、何処へ行ってたんだ」
「何処だって、いいじゃないですか」
「何で帰ってこなかった」
「何だっていいでしょう、アンタには、関係無い」
どんっ。
壁に、ぶつかる。
ついに逃げ場が無くなった。
どうしよう。
どうしよう。
「関係無い、だって?」
高野さんとの距離が、保てなくなる。
顎を掴まれ上を向かされる。
あぁ、
なんて酷い隈。
そんな顔して、俺を見ないで。
見ないでよ。
高野さんの顔が、近づいてくる。
キス、される。
「や、」
なんとか距離をとろうと両手で高野さんの肩を押す。
抵抗虚しくその手は顔の横に抑えつけられた。
抗議しようとした唇に、重ねられる感触。
柔らかに侵入してきた舌。
荒々しく俺を掻き乱す。
掻き乱す。
ぐちゅぐちゅ。
生々しい音が、口の中に響く。
なんだこれは。
なんでこんな。
いやだ。
いやだよ、高野さん。
高野さん。
これ以上俺を、ぐちゃぐちゃにしないで。
「り、つ」
ようやく、
重なった顔が離れていった。
熱を持った唇が冷えていく。
あぁ、よかった。
高野さんの顔が、よく見えない。
見えない?
目元に、何かが触れる感触。
「泣くな、律」
そうか俺、泣いているのか。
いやだな。
この人にだけは、見られたくなかった。
見られたくなかったのに。
高野さんのせいだ。
高野さんといると、俺は俺じゃいられなくなる。
「アンタの、」
「アンタのこういう所が、嫌だから、俺は」
振り絞った言葉は、
両手の拘束を緩めてくれた。
俺はそのチャンスを見逃さず、高野さんの手から逃げた。
高野さんはもう、追いかけてこなかった。


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あきゅろす。
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