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下心10
やっと終わった。
それが今日、
最後の仕事を片付けたときに、
口をついてでた一言だった。
今日と言う日が終わることを、
これ程までに望んだことがあっただろうか。
そのくらい目まぐるしかった1日は。
後少し、
高野さんに会うだけで、本当に終わることになる。
1201号室。
ノブ握り締め、
少しだけ引いてみる。
ドアはびくともしなかった。
「俺の部屋、か」
確かめるよう口に出した瞬間。
ほっ、としている自分がいた。
今日だけは。
そういうこと、したくなかった。
全身の倦怠感が尋常じゃないし。
何より。
新しく増えた拳大の痣を、
どう説明できるっていうんだ。
数メートルの距離を歩き、
自分の部屋へ向かう。
今度は難なく開いたドア。
そこには。
「お帰り」
エプロンな高野さんの、
腕組んだ仁王立ち像。
完全にデジャブな光景がそこにはあった。
昨日と比べて、
違うところがあるとすれば。
高野さんの服装と。
バックになる部屋の様子くらいか。
ほんとに。
どうしていつも、こう。
タイミングがいいというか何ていうか。
「律、」
かっちり組まれてた高野さんの腕が。
解かれたかと思えば、
頬に向かって伸ばされる。
暖かく包まれたかと思えば、
親指が滑るように撫で付けた。
「大丈夫、なのか」
気遣うような声と眼差し。
それが、
朝のことを指してるんだって。
気づくまで少しかかってしまった。
「はい、もう、何ともないです」
「そうか」
俺の返事に、
高野さんは。
少し安堵した様子を見せる。
ずっとこれが聞きたかったんだろう。
迷惑だけでなくて、
心配の方も、
かけてしまってたらしい。
頬を撫で擦っていた指が、
明確な意図をもって唇に触れた。
びくん。
意図せず体が跳ねる。
「そう言えばまだ、だったな」
見上げてた筈の高野さんが、
下降してきたかと思えば。
「んっ」
唇に、
覚えのある柔らかい感触。
たっぷり数十秒。
触れるだけのそれは。
珍しくそれ以上に深入りすることなく解放された。
「今のが、おかえりのキス」
不意討ちだ。
俺からするってルールじゃなかったのかよ。
こんなの、
急にされたりしたら。
息とか、
心臓とか、
色々もたないじゃん、か。
息乱してるのを悟られないように、
深く呼吸するようにしていたら。
頬に置かれたままの手が、
するり。
滑って、顎へと回った。
顎の先。
少し出たところを撫でたかと思えば。
そのまま力がかかって。
気づいた時には、
口を開けさせられていた。
「次のは」
「心配かけたお仕置き、だ」
え、
いま、何て。
頭が理解する前に。
今度は噛み付くように、塞がれていた。

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あきゅろす。
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