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下心8
ぬるり、
キスマークの位置を確かめる舌。
肌の上を滑るざらついたそれが。
気持ちわるくて。
全身に寒気に似た何かが駆け巡る。
抵抗すべく顔傾け、
首を逃がすようにすると。
「っ、ぐ!」
首締める一歩手前くらいの位置。
顎の下をがっ、と掴まれ。
ほとんど上を向かされ、
首元をさらけ出す形にされた。
「そんなに焦らなくても、全部ちゃんと塗り替えてやるさ」
顔すらロクに動かせない状態で。
横澤さんの表情はおろか、
これから何されるかでさえも、
見ることが、
予測することが、
できない。
できるのは、
「政宗の痕なんか、残させない」
これから起こる恐ろしいことを、
ただ無抵抗に受け止める。
それだけ、だった。
再び横澤さんの顔が埋められる。
今度こそ無抵抗な俺の首。
滑った感触に声が出そうになるのを、
必死に噛み殺して。
いたところ、に。
「っい、ぁ!」
鋭い痛みが、走った。
ほとんど噛みつかれたに近い。
それは、
高野さんの痕がひとつ、
乱雑に塗り替えられた瞬間だった。
キスマーク、
なんて。
あまり好きじゃなかった。
着れる服は限られるし、
浴室で自分の姿見た時とか、
一瞬病気かと思うし。
そもそも、
いつか消えるそれを残す行為に、
意味が見出だせない、と。
思って、
いたけど。
「やめ、ろ…」
今なら少しわかる気がする。
この行為は、
不快だからこそ意味を成す。
お互いの感情が一致してはじめて、
不快が、
快感へと変わる。
そうであるならば。
俺、は。
「ぁ、やめっ、ろ!いや、だ!」
気付きたくなかった。
いまこのタイミングで、
気付いて、
しまったら。
逃れられないもどかしさが。
望まぬ行為をされるがまま施される自分が。
高野さんの、
つけてくれた痕を消されていくのが。
どんどんつらくなっていく、
だけなのに。
「…綺麗な肌、だな」
肌を震わすわすように。
横澤さんの声が染み込んでいく。
侵食の手は、止まない。
どんどんと下降していって、
全部ぜんぶ、
塗り潰されて、く。
「これで男を誘惑する、って訳か」
「違、っ…!」
許せない。
許さない。
ただでさえこんな、
尊厳奪うやり方、しておいて。
心まで落としめてくるなんて。
首の拘束が緩む。
ようやく見れたそいつの顔を、
全力で睨み付ける。
負けない。
こんな奴にだけ、は。
屈してたまるか。
「おーおー怖い顔だことで。自分に否はねぇ、ってか?」
そうだよな、
自覚ねぇならしょうがないよなァ、と。
嘲笑うように顔、
近づけてくる。
今度は目、
反らさずに応じる。
目の前に突き合わされた、
横澤さんの歪んだ笑み、が。
不吉にいっそう、
濃くなった。
「だったら、」
「誰も誘惑できないように、俺が醜くしてやるよ」
そう言って。
長い間拘束されていた腕が自由になり。
少し距離が置かれた。
直後。
「か、は…っ」
腹部に、
衝撃が走った。
腹を抱えその場に崩れかけたところで。
髪を千切れる程に引かれたかと思えば、
今度は鳩尾に膝が入って。
いよいよ呼吸がままならなくなったところで、
髪を解放され、
ようやく床に崩れることができた。
何が起こったか、
わからなかった。
それでも理解する前に。
生理的な涙が、
押し寄せるように溢れてきて。
床を叩くようにボタボタと落ちる。
「たった2発でそのザマかよ。殴りがいもねぇな」
狭い個室の中。
耳障りなほど声の反響する空間で。
蔑むような横澤さんの声が。
大きく響いて、
脳を震わす。
「政宗の周りをうろつくのをやめろ。でないと、」
「毎日同じ目に遭わせてやる。毎日、だ」

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あきゅろす。
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