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下心7
あの後。
高野さんの言葉を聞いて。
横澤さんはすんなり帰っていった。
睨みをきかせるでもなく、
嫌味のひとつを残すでもなく。
驚くほど静かな横澤さんの行動。
感じたのは、
ささやかな安堵と、
それを上回る不安、だった。
そんな。
漠然とした焦燥感を抱えながら。
社会としての翌日、
実際のところでいう数時間後。
俺は丸川へと出勤した。
いつ誰が磨いてるんだろう。
いつ見てもピカピカの自動ドアをくぐり、
数歩マットを踏みしめた。
その、
タイミング、で。
「そこの淫乱野郎」
右サイドから聞こえた、
とんでもない罵り。
あぁ、もう。
嫌な予感しかしない。
一応確認してみたら、
案の定。
壁にもたれるようにして腕組みする、
横澤さんの姿が。
うわぁ、
早速出たよ。
しかもこれ、
完全に待ち伏せされてたよ。
どうしよう、
どうしたら、いい。
どうにか、
なりそうもな、い。
「ちょっと顔貸せ」
そんな俺の心の葛藤を待たずして、
横澤さんが迫ってくる。
俺が後ずさりするよりはやく、
手首を確保されてしまった。
そのまま。
半ば引きずられる形で連行される。
「あ、のっ、痛いです、離、し…」
「あぁ。」
短く返事が返ってきたかと思えば。
背中をどつかれ押し込まれた。
人気のない廊下の先にある。
男子トイレの個室、に。
続けて入ってきた横澤さん。
力任せに俺を引き寄せ、
唯一の出入口であるドアへと叩きつけた。
背中に伝わるひんやりとした冷たさ。
両脇に構え逃げ場を奪う両腕。
これ以上ないくらい俺を睨みつける、
殺気立った双眼。
そうなんだ。
これが正に、
冒頭の場面、だったりする。
「こんな所に連れてきて、」
「どうするつもり、ですか 」
あーヤバいよ。
流石に、
こわい。
こわすぎるよ、横澤さん。
アンタ貫禄ありすぎなんだよ、
なんでそれで営業なんだよっ。
営業って心のなかはさておき、
人当たりとスマイルが命なんだろ!
「脱げ」
それは。
あまりに突拍子もない命令だった。
意図も何も見えてこない。
「は?…わ、ちょっ!何すんだ、よ!」
一向に動かない俺に痺れをきらしたか、
いきなり服に手をかけられ、
強引に衣服を剥ぎとられる。
本能的な恐怖を感じ抵抗するも。
あれよあれよと言う間に、
上半身が完全に露にされる。
男同士だから必要ないとはわかってるけど、
とっさに腕で隠した。
貧相な腕で隠しきれるとは思わないけど。
今、
俺の上半身には。
この人に見られたくないものが、ある。
「はっ、やっぱりな。アイツのことだからこうだと思った」
広範囲に散りばめられたキスマーク。
隠しきることはできず、
しっかりと横澤さんの目に入れられた。
高野さんを思い一瞬和らいだ表情。
歪められるまで、
そう時間はかからなかった。
「…ムカつく。」
端的な言葉とともに。
「っ、ぅあ!」
ひとくくりにされ、
頭上の壁へと縫い付けられる両手。
逃れようと体を捩っても、
力も、
体格も、
差がありすぎて。
少しも身動きがとれない。
「前に言ったこと、わかってないらしいな」
空いた片手は。
首から胸元へと、
なぞるように指を滑らせていく。
ぞわり。
不快感が全身を駆け巡った。
「もう一度言う」
「政宗は、俺のものだ」
横澤さんの手が、
ようやく離れていった。
言い様のない感覚から解放され、
安堵したのも束の間。
今度は、
横澤さんの顔が首筋へ埋められた。

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