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下心5
一番上まで閉めてた釦がひとつ残らず外されて。
機能を失ったシャツは、
腕のあたりに纏わり付くただの布切れになった。
何時もならしつこい程に弄られる胸の粒さえ捨て置かれ、
首や胸元にくり返される口づけ。
痛いほどに歯を立てられ吸われたところには、
痛々しい色合いのキスマークが散っていく。
性急な手つきで抜きとられ乱暴に放られたベルト。
床と金具とで反発しあって、大きな音を立てた。
『我慢できない』
その言葉どおり。
高野さんは、
どこか余裕なくことを進めていく。
はずなのに。
「下…触るぞ、」
こんな風に。
こういう時の高野さんは。
これからすること、
ひとつずつ。
確かめるように言葉にする。
まるで辱めるように言われるたび、
精神まで侵されていくようで。
俺はそれを、
どうしても好きになれない。
けれど。
「ふ、ぅ、っあ、」
高野さんが俺のそれに触れる。
優しく、
やさしく。
絶妙な力で刺激してくる。
ただそれだけで。
おれのそこは、
焼けたみたいにあつくなって。
その熱が、
少し遅れて全身に広がって。
熱でカラダが飽和していく。
そんな時、だった。
「〜♪、〜♪」
それは、
たぶん初期設定のままの着信音。
ごくシンプルなその音は、
存在感をもって部屋中に響き渡って。
流石の高野さんでさえ、
これには手を止めた。
「俺、じゃないです」
「……わかってる」
そう。
つまりこれは、
高野さんの携帯が発生源だ。
しかも。
割としつこく続いている。
「あの、」
「出ないんですか」
いっこうに出る気配のない高野さん。
俺がとやかく言うところじゃないけど。
この時間にかけてきて、
これだけ諦めないなんて。
よっぽど大事な用なんじゃないんだろうか。
「いいんだ」
留守番サービスになり、
間を置かず再びの着信。
いやいやいや、
全然よくないだろ、コレ。
そんな考えが、
表情に出てたのかもしれない。
高野さんは、
さも面倒くさそうに溜め息をこぼし、
ポケットからしぶしぶ携帯を取り出した。
全く。
しょうがない人だ。
やっと出る気になったらしい。
何やらボタンを操作し、
耳元へ連れていき、
いざ会話。
とは、
ならず。
物悲しい音楽が短く流れたかと思えば、
折りたたまれた携帯が、
可愛そうなほど雑にその辺に放られた。
「終わったぞ」
「アンタいま確実に電源切っただろ!」
どうしよう、
この人、
ホントにしょうもない人だよ!
「いいんだよ」
「どうせいつも大した用じゃない」
その言葉で、
気づいた。
気づかされてしまった。
電話の相手。
高野さんが、
こういう言い方する人なんて。
一人しか、
いないじゃない、か。
「続けるぞ」
まるで何事もなかったみたいに、
俺のそれに手が伸ばされて。
高野さんの顔が、
少しだけ傾けられ近づいてきた。
瞬間。
けたたましい音とともに、
居間のドアが開け放たれた。
「おい政宗!いるのはわかってんだよ、ちゃっかり電源切ってんじゃ…」
凄まじい声量。
圧倒的な威圧感。
それは、
さっき俺の脳裏を掠めた人、そのもので。
このとき悟った。
きっと。
今日という日は、
俺にとって厄日ってやつなんだろう。
こんな日、
早く終わってしまえ。
終わっ、て。
そこまで考え。
気づいて、しまった。
……あぁ、
今日という1日は。
まだ始まったばっかり、だったんだ。

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あきゅろす。
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