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くま3
家を出て、4日目の出勤。
駅近インターネットカフェの夜間パックを利用し、宿替わりにする生活を始めてから、同じく4日目の朝を迎えた。
「ね、眠い……」
そうなのだ。
ホテルに泊まることを考えれば格安だがいかんせん、マットレスな床は寝心地が悪く十分に睡眠がとれていない生活が続いていた。
「おはよう、律ちゃん」
「あっ、美濃さん。おはようございます」
急に声をかけられはっとしたが、すぐにいつも通り挨拶を返した。
つもりだった。
「う〜ん少し、お疲れみたいだね」
「え?」
「律っちゃん隈凄いよ。さいきんちゃんと休めてる?」
笑顔を絶やすことなく、少し困った表情でそう返されてしまった。
最悪だ。
仕事に支障のないように家を出たのに。
思いっきり支障が出てきてるじゃないかっ。
「大丈夫です。昨日、電気つけたままソファーで寝てしまって。」
嘘だけど。
あながち、遠くはないと思うんだ。
「あはは、うん、たまにやっちゃうよね。でも、風邪引かないように気をつけてね」
「ありがとうございます、気をつけます」
じゃあ僕は行くところがあるから、と言って美濃さんは行ってしまった。
残された俺はひとり溜め息をついた。
ちょっと考えないでもなかったけど。
この生活、そろそろ限界かもしれない。
………
「いやいや俺、ここで弱気になってどうするんだ」
そうだ。
まだこの生活がはじまって4日目だ。
あの高反発な床だって、これから慣れちゃうかもしれないし。
ここが耐え時ってやつだろ、きっと。
「よしっ」
がんばろう。
もう少ししたらきっと、高野さんだって俺のことなんか忘れるだろうし。
そしたらただの上司と部下になって。
あとはこの仕事だけに、全力を注げばいい。
「…なにが「よしっ」なんだか俺に聞かせてみろ、小野寺」
あぁ、
今、最もききたくない声が背後から聞こえる。
なんか声低いし漂うオーラがよろしくないし。
なんで朝からそんなに機嫌悪いんですかアンタは。
「は、はは、今日も1日頑張ろうと、意気込んでいたんですよ!それでは、これから頑張りに行きますんで失礼します!」
こういうときは逃げるに限る。
なんだか震えちゃいそうな足に言い聞かせ、その場からの離脱を測る。
「待て」
がしっ。
しっかり腕を掴まれ、離脱失敗。
「離して下さい」
「ちょっとこい」
俺の言葉はしっかりムシされ、返事を待たずに何処かへ引きずられていく。
「ちょっ、離して下さい!高野さん!」
「あぁ、そうだな」
そう言い腕が開放された瞬間、今度は部屋の中に突き飛ばされる。
「うわっ」
あまりに突然で反応もできず、思いっきり尻もちをついた。
ふつうに痛い。
「何するんですか!」
何なんだこの仕打ちは。
俺が何をしたっていうんだ!
そんな恨みの念を込め高野さんを睨む。
それは、すぐに消えることになった。
「何するって?」
後ろ手にドアを閉めカギをかける。
高野さんの俺を見下ろす目は、冷え切っていた。
なんだよこれ。
高野さん。
アンタなんでそんなに、隈凄いんだよ。
「小野寺律を、尋問する。」
冷房なんか効いてないこの人気のない部屋で、寒気がした。

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