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下心2
時計の針が2周して、
今日が明日へと変わる頃。
職場から戻った俺は自分の部屋へと戻り、
残ったことを片付けて1日を終える。
これがつい最近までの、毎日。
今は、
前とは少しだけ違った毎日を送っている。
少し前のこと。
俺がポスト恐怖症を脱して、
少しした頃のことだ。
俺の日課に、
新しい行動が追加されたのは。
12階でエレベータを降りる。
そこから一番近い部屋、
1201号室のドアノブに手をかけて。
少しだけ、引いてみる。
ドアは難なく開いた。
「今日はこっち、か…」
ごくり。
思わず息を飲む。
……って。
何ちゃっかり息飲んじゃってんだしっかりしろ俺!
しっかり、しないと。
頭の中で言い聞かせ。
すーはーと、
深呼吸して。
自分を奮い立たせて。
いた時だった。
目の前のドアが、
突然に自動ドアと化したのは。
「へっ!?わ、わっ!」
壊れんばかりにノブを握りしめていた俺は、
そのまま身体ごと室内へと引き込まれて。
「ぶふっ」
ぼふん。
何か柔らかいものに顔を埋め、
ようやく停止。
ううう。
何なんだよ。
なんか初っ端から扱い酷くないか、俺。
痛む鼻に涙目になりながら顔を上げれば、
そこには予想どおりの光景が。
「中途半端にドア開けて何やってんだ、お前」
うわ、出た。
いや、まぁ、
そりゃそうなんだけどさっ。
高野さんの部屋に高野さんがいるのは、
当たり前のことなんだけどさ。
今言いたいのは、
そこじゃなくって。
なんで、
俺めっちゃ静かに開けただろ。
思いっきり5センチくらいの半ドア状態だったろ。
なのにどうして。
どうしてあんたは、
俺が半ドアしてたこと知ってて、
銅像よろしく仁王立ちして待ってるんだよ、ってことで。
「入れば?」
俺の心の葛藤なんかお構い無しに、
腕組んでこっち見てる高野さん。
むかつく位の上から目線だ。
ちくしょう。
ちくしょう。
人の気も知らないで…!
「お、お邪魔します!」
高野さんが上司ってことは完全に棚上げし、
態度悪く投げやりに言って。
靴脱いで上がろうとしたら。
足置こうとした先に回る高野さん。
気をとり直して横にずれると、
高野さんも一緒に平行移動。
「あの…」
「俺を家に上げたいのか、上げたくないのか、どっちなんですか……」
最近、
わかってきたことがある。
高野さんは、
よく言えば少年の心を持った大人だ。
表現をオブラートに包まなければ、
やることが完全に子どもだ。
しかも決行に当たっては、
真顔でやってくれるもんから、
尚のことタチが悪い。
そう。
今だって、
「ただいまのキスが先だろ」
だ か ら。
そういうセリフを真顔で言うなってんだよ!
なんなんだよ。
何だって高野さんは、
俺のペース崩すようなことばっか。
言ってくれちゃうのかなぁ。
なんか居た堪れなくなって、
ちらり。
高野さんの顔を見たら。
「っ、」
目が合って、
慌てて逸した。
どうやら見られてた、らしい。
あぁ、もう。
わかったよ。
やればいいんだろ、
やればっ。
「かがんで、下さい…」
身長差プラス玄関の段差。
埋める為にそう言えば。
高野さんの顔が、
ゆっくりと俺の高さまで下がってきた。
逸したばかりの高野さんの目が、
ばっちり目の前にきてしまう。
「これでいい?」
別に、
今日に始まったわけじゃない。
何の勢いからか、
高野さんと毎日キスすることになって。
実際何日もしてきたわけだけど。
キス、するのに。
慣れるってこと、あるんだろうか。
ただ目の前にいるだけで。
高野さんが、いるだけで。
こんなにも。
緊張している自分が、いるなんて。
「た、ただい、ま…」
意を決して。
目も瞑って。
触れるだけの、キス。
唇に触れるやわらかい感触。
じんわり温かくて、
弾力があって。
まるでマシュマロ、みたいな。
それが。
そのマシュマロ、が。
高野さんの唇なんだと。
意識したら。
急激に恥ずかしさがこみ上げてきて。
勢いよくからだを離した。
距離ができたことで、
高野さんが見えるようになって。
高野さんからも。
おれの情けない顔が、見えてるはずで。
てっきり。
からかわれるかと、
思ったのに。
「おかえり」
ずるい。
ずるいよ、アンタ。
こんなときばっかり。
そんな柔らかい声で。
とびっきりのやさしい顔、するなんて。

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あきゅろす。
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