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お手紙19【完】
「なんで、そんなこと聞くの」
なんで。
それを言うのはとても情けないし、
自分の愚かさを曝け出すことになるわけだけど。
そんなの。
構ってられる場合じゃない。
「俺、」
「高野さんにいっつも与えてもらってばっかりで、何も返せてない、から…」
貰ってばかりは、嫌だから。
どうしようか。
あんまり俺がどうしようもないから、
高野さん、あきれてるんじゃないか。
あきれ、られたら。
どうしよう。
どうしよう。
「いいんじゃねぇの」
「お前が美味そうに俺の飯食って、こうやって、初めて料理作ってくれて。それで十分だろ」
「そんなっ」
そんなの、
それが嫌だから、俺はこうして。
こうして聞いているんだって言うのに。
「俺は、」
「お前が側にいてくれさえすれば、それでいい」
どうして。
どうしてこの人は。
そんなタラしみたいな台詞を、こんな真顔で、
真剣に言うんだろう。
「よくない」
両膝の上で拳を作って。
握りしめる。
悔しい。
くやしい。
「そんなの全然、よくないです」
なんだよ。
俺すっかり高野さんに、
慰められちゃってるじゃんか。
結局おれには、
出来ることなんて、ないんだろうか。
ない、のかな。
情けない。
俺って、すごく情けない。
今日、
何度目かの沈黙。
俺はそれを、
破る術を知らない。
破るのは、
いつだって、高野さんなんだ。
高野さんは、
ひとつため息をついて。
何か思案するような表情をした後、口を開いた。
「……一つだけ、ないこともないけど」
「してほしいこと」
ばっ、と高野さんを見上げる。
たぶん俺は今、
縋るような表情をしてるんだろう。
「何ですかっ」
「キスして」
は?
いまこいつ、何て言った?
「会社に行く前、帰ってきた時、俺が部屋に帰るとき、毎日キスしてほしい」
「なっ、」
何言ってくれちゃってんだコイツ!
ついに頭おかしくなっちゃったのか!
なんかもっとこう他のこと、
肩たたきとか、買出しとか、
普通のこと、あるだろうよ!
…あ、
これ、提案すりゃよかったじゃん。
おれ、馬鹿だ。
「そしたら」
「俺は、元気になるから」
あぁ、
馬鹿は、お互い様だ。
なんだよ。
そんな顔されたって、
「そ、そんなの出来るわけ……」
出来るわけないだろ。
そんな、
今でさえ新婚生活度指数かなり高い方なのに。
毎日キスなんて項目入っちゃったら、
ほんとの新婚さんだってかなわないだろ。
「なにお前」
「こんな簡単なことも出来ねぇの?」
ピッキーン
おい高野、
いまテメェなんつった。
こんな簡単なこと出来ない?
わきゃねぇだろ!
「出来ます!出来ないわけがないじゃないですか!」
言い切って、はたと気づく。
言った。
言ってしまった。
俺いったい、なんてことを!
ヤバイと思ったときには、もう遅かった。
高野さんがすごくイキイキした表情でこっちを見てる。
「あっそ」
「じゃあ今、してみて」
えええ!
よりにもよって今かよ!
心の準備できてねぇよ!
混乱した頭もて余して押し黙る俺に、高野さんが拍車をかけ煽ってくる。
「毎日してくれんだろ?」
だったら今できない筈ないよな、と。
ハメられた。
完全にハメられた。
しょうがない、1回言った以上やるっきゃない。
やるっきゃ。
そう思って、高野さんを直視した。
直視。
うわぁ、
なにこれ超恥ずかしいんですけど。
恥ずかしい、
でも、やらなきゃ。
やらな、きゃ!
意を決して。
少し身体を伸ばして高野さんの頬に口づけた。
ちゅっ。
「……なにそれ」
「う、わっ!」
何故か声の低くなった高野さんに引き寄せられる。
片手は、俺の腰に。
もう一方の手は、頭に。
近い!
顔が近いよ!
「子どもじゃねぇんだから。キスったらこれだろ」
そう言って。
高野さんの唇が、俺のそれに重ねられた。
あまりに突然で状況についていけないでいると、
唐突に下唇を甘噛みされた。
「んんっ!う、ふっ」
やばい。
舌が、入ってきた。
入ってきてしまった。
一度侵入を許してしまったら、
口の中で自由に暴れ回るそれを止める術はない。
口の中でやらしく湿った音が響いて、
粘膜という粘膜を、擦られて。
そんな、
なんだかいやに濃厚なキスが終わるまでの時間は、
とてつもなく長い時間に思えた。
唇がようやく離される。
ひとりでぜぇぜぇやってる俺をよそに、
涼しい顔してこっち見てる高野さん。
なんなんだよこの差はっ。
むかつく。
むかつく…っ。
「まぁ、」
「最低でも、このくらいはやろうな」
ポン、
頭に手を置かれ、いいこいいこされる。
いいこいいこ。
されてる場合じゃねぇだろ、俺!
「こっ……」
「こんなんできるかぁぁぁ!」


そんなこんなで。
なんだかんだで。
どんどん高野さんのペースに飲みこまれていく俺であった。
これが。
こんなのが。
今の俺にとっての、日常。

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